第五幕:シャーロキアン
やあ、君。ファンとは何か?考えたことある?
作家をサポートしてくれる人たち?
それともーー作家に書いてもらうことで、自分を補完しようとする存在なんだろうか?
第四幕では、母のアドバイスでホームズをマヌケな助手として書くことになったアーサーを見た。
結果的には、彼の母メアリー・ドイルの言う事は正しかった。
ホームズはイヤな男だ。中にはメアリーのように批判した者たちもいた。
だがホームズ小説の『緋色の研究』は、ロンドン市民に瞬く間に受け入れられた。
むしろ、愛された。
ワトソンが記録係として、書いてたせいかもしれない。
彼のどことなくマヌケな感想が、笑いを誘ったんだ。
それにシャーロック・ホームズは、ただの探偵じゃなかった。
彼の推理の方法を惜しみなく、読者に提供したんだ。
演算推理法ーー他のどこを観察すればいいとかね。
これにより、読者が名探偵に近づくことができた。
エドガー・アラン・ポーの探偵じゃ、逆立ちしても勝てない。
読者は、ホームズがコケにした探偵たちを晒しあげ、徹底的に攻撃した。
ーーこれは、本当にすごかった。
ライバルが一掃されたんだ。
彼は気分が良かった。
ファンにより、本が売れたんだ。
彼はファンが大好きだった。
ファンはホームズと名のついた作品に、必ず飛びついた。
まるで飢えた犬のように本を開いてかじりつく。今にも引き裂いてしまいそつな目をして読む者もいた。
彼はそれを見た時、すごく不快な気持ちがしてた。
でも、それが普通だと思ってた。
彼も騎士の本が好きで読んでたからね。
ある日、彼は鏡を見た。
彼の部屋で。
全身鏡で、自分を見た時に彼は思った。
「おやおや、運動不足で太ってきたぞ。少しは身体を動かさなきゃなーー」と彼は、その日にスポーツを楽しんだ。ボクシングをやった。
そして、意気揚々と家に戻る途中だった。
そんな彼の目の前に、黒髪短髪で目つきの鋭い背の高い男が現れた。
そこは並木道だった。
イチョウの葉が黄色いまま地面に積もっていた。
彼はその道を歩いていると、木々の隙間から、その男が急に出てきたんだ。
「やあ、ミスターコナン・ドイル」と男はニヤリと笑った。
「僕は君の作品のファンだ。第一作目からのね、ふふふ、シャーロキアンとも呼ばれている......」
その容姿はまるで、彼の書いているシャーロック・ホームズに似ていた。
似すぎてた。
神はアダムを写し身としたが、
アーサーとホームズは全く違った。
『ホームズは、どこから来たんだ?』
この男を見て、アーサーの不安は高まった。
ーーアーサーの目に一瞬だけ怯えの影が通り過ぎた。
この出会いは、永遠だ。
もし、また誰かがファウストを受け継ぐ者を語るのなら、
その始まりは、いつだってーー
未知との出会いでなければならない。
(こうして、第五幕はシャーロキアンで幕を閉じる。)




