第二幕:言い訳しない探偵作家
やあ、君。言い訳したいのに、させてもらえない雰囲気ってどう思う?
家族が沢山いるのに、父親がいないんです。ヤツは精神病院で絵を描いてます。ボクは長男として仕送りをしなきゃいけないんです。
皆は同情してくれるだろう。
でも彼は、プライドが高い男だ。
ぜったい、そんな言い訳はしなかった。
第一幕はアーサーについての紹介と、彼の状況を説明した。
彼は授業中に居眠りし、
ベル教授に目をつけられたのだった。
「ドイル君、立ちたまえ」とベル教授は静かに命令した。
冷たい声が講堂に響いた。
ドイルーーアーサーは、頬を震わせながら立ち上がった。がっしりとした身体が縮こまって見えた。
「いや、そこではない。
ーーここだ。教壇の隣に来たまえ」
ベル教授は細い繊細な指で、教壇の横を指差した。
全学生から丸見えになる場所。
魂すら、見透かされそうだ。
アーサーはーー、
震える足で教壇の隣に立った。
段上だ。
劇場の舞台のように、
百人以上の学生全員から見られた。
彼はーーまるで...これから自分から服を脱がなきゃいけない気分になった。
ベル教授は腕を組み、
アーサーの周りをゆっくりと歩き始めた。
ーーニヤニヤと笑いながら。
「さて、諸君。観察の実例を示そう」
教授は蜘蛛みたいな指で、
アーサーを指した。
「この学生を見たまえ。目が充血している。夜更かしだ」
学生たちがクスクス笑う。
「だが——」教授は指をアーサーの手元に向けた。
「なぜ、夜更かしをしなきゃいけない?勉強が好きだから?
だがねーー講義中に眠るなんて、本末転倒だ。
夜中の勉強をやめて、
ーー集中したまえ。このマヌケ!」
笑い声が大きくなる。
彼は下唇を噛んで、うつむいた。
言い訳を彼はしなかった。
少しも、一度もーー!
それからの彼の学生時代は、
視線と好奇心に囲まれることになる。
アルバイトや家族への仕送り、
学ばなければいけない事が、待っていた。
ベル教授の指導は、ほぼ毎日繰り返された。
彼はベル教授に何も言われないように、警戒しなきゃいけない。
だけどね、彼は眠かった。
ガマンしようとすると、人間眠くなるもんだ。意識が遠のいてくーー。
そして、彼は教壇の隣の段上に立っていた。
彼は何が起こったのか、分からなかった。
彼はーーまた寝てたんだ。
「ドイル君。私はね、バカにされるのは好きじゃない。君もそうだろ?
マヌケと言われた時、君の頬の筋肉が動いた。これは、ストレスによるものだーー君のようなマヌケがストレスを感じるのは思えんがねーー!」
アーサーはこの時のことを、
思い出したくもなかった。
学生時代が過ぎれば、
彼の地獄は終わると思っていた。
ーーだけどね、アーサーはベル教授に気に入られた。
アーサーは、ベル教授と共に王立病院彼のもとで働くことになった。
ベル教授は毎日、彼の開発した観察法をアーサーにためした。
アーサーの指を見て、手を見て、
顔を見て、靴を見て、全体を見て、
彼のプライベートを暴くのだった。
患者たちの目の前で、
ーー魔法使いのように、
ーー名探偵のようにね。
(こうして、第二幕ではパフォーマンスで幕を閉じる。
この学生時代は、彼を神経質に変えたのだった。)




