第7話~7月、ルビーとスフェーン~
夏の森は、緑の葉を深く濃くしていた。
陽光は枝葉の隙間から降り注ぎ、地面には濃淡のまだら模様が広がっている。
微かに花の香を含んだ風が吹き、遠くでは小鳥のさえずりと、時おり羽ばたく音が混じる。
──それは、生命の季節。
そんな森の入り口に、ひときわ重たい足音が混ざった。
鉄の具足と革のブーツが草を踏みしめ、軽く軋む。
そして一歩、また一歩と進むたび、夏の葉擦れが彼女の肩に触れ、そっと見送るようだった。
宝飾店フェアリーダストの扉が、ゆっくりと押し開かれる。
扉の鈴が鳴るよりも先に、店内の空気が一瞬、静かに張り詰めた。
それは、外の世界の風が持ち込んだ、どこか異質な気配。
「……失礼する」
低く落ち着いた声が、扉越しに届いた。
現れたのは、背の高い女性だった。
くせのある濃い灰褐色の髪は、短く刈られ、後ろで軽くまとめられている。
真っ赤な瞳と、ちらりと口からのぞく牙。
褐色に焼けた肌と引き締まった体躯。鋼で鍛えられたような太い腕には、今も現役を思わせる筋が浮かんでいた。
人よりも一回り大きなその見た目に、誰もがすぐに気付くだろう。彼女がハーフオークである、と。
軽鎧の上に布の羽織を無造作に掛け、腰には使い慣れた剣の柄が覗いていた。
──戦場の匂いを、わずかに残した女。
けれど、目元には警戒と、それ以上に、見慣れぬ場所への戸惑いがにじんでいた。
「どうぞ。いらっしゃいませ」
カウンター奥からレイが声をかける。
淡い青髪を揺らして微笑むその姿は、森の気配と調和するように柔らかく、しかし芯のある眼差しだった。
女性は少しだけ逡巡し、けれど意を決したように前へ進む。店内に差し込む木漏れ日が、彼女の肩に光の斑を落とした。
「……私はジーニャと言う。あの、指輪を……作りたいのだが、どうすれば良い?」
低く真っ直ぐな声。けれどその語尾はどこかぎこちなく、場慣れしていない緊張が滲んでいた。
その手は大きく、ごつごつとした関節の形が浮かぶ。
長年、剣を握りしめてきた者の手。
だが、その手が胸元を押さえて、戸口に立つ姿は、どこか不器用な動物のようで、かえって真摯だった。
「贈り物ですか?ご自分の?」
レイは緊張する女性を宥めるかのように、柔らかな物腰で丁寧にたずねた。
「プロポーズ……したいんだ」
一拍、間を置いて、ジーニャはそう言った。
その瞳の奥には、揺れと決意が同時にあった。
会話が聞こえた妖精たちが、ふわりと棚の上から舞い降りてくる。
小さな羽が光を受けて、きらきらと輝いた
リボンのような細い足取りで木の棚をすべり降りると、宙を跳ねるようにしてカウンターの上へ。
<<「指輪?」「プロポーズ?」「わァ、素敵ジャン!」
「誰に贈ルの?」「キっと綺麗な人だヨね〜!」>>
くすぐるような声が、風鈴のように響く。
好奇心いっぱいの顔が、無邪気に覗き込んでくる。
誰一人として嘲笑わず、ただ、心から楽しげに。
ジーニャは思わず鼻を鳴らした。
妖精の言葉は分からないが、妖精たちの顔を見れば何を言っているのかは想像がつく。
「……ぴいぴいと、うるさいぞ小さい奴ら」
そう言いつつも、ぴくりと動いた耳の先は、ほんのりと赤みを帯びていた。
鋼のような体躯の中に、小さな戸惑いと照れが、確かに息づいている。
「誕生石を使ってもらいたくて」
少しだけ声を落として、彼女は言った。
「……私も、向こうも、7月生まれなんだ」
「ならば─ルビー、ですね」
レイが微笑む。
指先が、そっと棚の奥の引き出しを撫でるように開く。そこには、赤い光を湛えた数粒の石が整然と並べられていた。
「情熱の石、と呼ばれています。
──でも、どうやら、あなたは少し違う印象をお持ちのようだ」
ジーニャは黙ったまま、石のひとつを見つめた。
赤は深く、まるで液体のように光を呑んでいる。
その輝きが、戦場の記憶を呼び起こすように──瞳にわずかに影が差す。
「……血の色なんだ。私にとっては」
低く、しぼるような声だった。
かつて、何度も何度もその色を見てきた。
剣が肉を裂く感触、砕けた骨の音、染まった地面。
名も知らぬ者たちが倒れていくなかで、自分はただ、任務を果たすことだけを選び続けた。
誰かの命を守るために、別の命を斬り捨てる日々。
長い傭兵稼業の中で、ジーニャは幾つもの命を奪ってきた。
刃を振るうたびに心を閉ざし、感情の代わりに技術と冷静さを身にまとってきた。
それが傭兵である自分の仕事だった。
正しいと信じてきた。
けれど、今──
人を愛し、共に生きていくことを選ぼうとしている自分。
花屋で出会った、柔らかな笑みを持つ彼女。
香りをまとい、静かに、けれど強く生きるその人に、ジーニャは惹かれていった。
自分とは違う場所に咲いているようでいて、なぜか、心がほどけていった。
「……あんなにもたくさんの命を奪った私が、幸せになっていいのか……」
それが、時おり夢に出てくる。
この手で「未来」を差し出してよいのか、わからなかった。
けれど、それでも──彼女に指輪を贈りたかった。
その指に触れ、言葉よりも深く、想いを伝えたかった。
「……ほんの少し、怖くて」
そう言ったジーニャの声は、戦場では決して見せなかったような微かな震えを帯びていた。
拳を握る。ごつごつとした節の浮いた手が、震えていた。
妖精たちの囁きが止み、レイは静かに彼女を見つめていた。
棚の奥では、陽射しを受けてルビーが淡く光を返す。
レイは言葉を挟まなかった。
静かに頷き、棚の奥に手を伸ばすと、小さな引き出しからいくつかの宝石を取り出す。
柔らかな布の上に並べたそれらの中で、ひときわ不思議な光を放つ石があった。
「では、こちらの石を添えてみるのはいかがでしょう」
そう言って差し出されたのは──スフェーン。
一見、緑とも金ともつかない控えめな色合い。
けれど傾けるたび、そこには青や橙、赤、そして微かに琥珀のような揺らぎまでが浮かび上がる。
まるで光そのものを吸い込み、再構成して吐き出しているかのように。
「スフェーンは、変化の石とも呼ばれます」
レイの声はやわらかく、店内の空気と同じ温度で響いた。
「光を集め、未来を照らす。
ルビーの情熱が、もし過去の痛みに結びついてしまうなら──
この石でそれを包み、未来の光へ変えてあげてください」
ジーニャは、ルビーとスフェーンをじっと見つめた。
ルビーは真紅に燃えていた。
まるで、過去の血と怒りと哀しみ、全てを封じたような色だった。
そして──その隣にある、やわらかなスフェーン。
淡い黄緑の光の奥に、かすかに揺れる琥珀色が宿っていた。
その瞬間、ジーニャの肩がかすかに震えた。
「あ……」
こぼれたのは、無意識の声だった。
スフェーンの揺らめく光が、恋人──カメリアの瞳の色に、そっくりだった。
あの人が、笑うときに光の中で輝く眼差し。
森の葉に透けた陽だまりみたいな、やさしくて、温かな色。
──あれは、いつだってジーニャの中に「帰る場所」をくれた光だった。
「……この色、彼女の目の色に似てる」
ジーニャの声が、わずかにほころぶ。
その顔に、ようやく柔らかな明かりが灯った。
ルビーは情熱。
スフェーンは変化──
そして今やそれは、ジーニャの未来と、カメリアの面影を内包する石となった。
過去の血の記憶を否定するのではない。
それごと、愛を捧げたい人の瞳の光に包んで、未来へ渡す。
その想いが、ようやく形を持ちはじめていた。
もう、その輝きは、血ではなかった──それは、命の熱と鼓動の色。
過去を否定せず、未来へ踏み出すための、もうひとつの「赤」
小さな店内に、静かな夏の陽が射し込む。
棚の上では、妖精たちがじっとそのやり取りを見つめていた。
彼女たちもまた、言葉を持たずとも、この瞬間の尊さを理解しているようだった。
──ジーニャの瞳に映るスフェーンは、もう「知らない石」ではない。
それは、愛の色だった。
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──花屋の前で彼女に出会ったのは、任務帰りの夕暮れだった。
その日の任務は、荒くれ者たちの討伐。
ジーニャにとっては、特別でもなんでもない仕事だ。
だが──なぜか、その日は胸の奥に鉛のような重さが残っていた。
脅える村人の瞳、倒れ伏した者の血の温度、それらの余韻が体に張り付いて離れなかった。
陽が傾き、街がオレンジ色に染まりはじめた頃。
ジーニャは、帰路の途中で足を止めた。花屋の店先だった。
彩り豊かな鉢花が棚に並び、風に揺れて葉が擦れ合う。
それは、あまりにも穏やかな風景で──
無骨な鎧のまま立ち尽くしている自分が、場違いにすら思えた。
ふと気づくと、知らぬ間に腰を下ろしていた。
瓦礫に腰を下ろすのと変わらぬ感覚で。
けれど、次の瞬間──やさしい声が降ってきた。
「……お疲れですね。水、いります?」
驚いて顔を上げると、目の前に籠を抱えた女性が立っていた。
麻のエプロンに、袖をまくった手首。
風に揺れる髪の隙間から覗く瞳は、まるで夏という季節をそのまま映したような、柔らかな黄緑色だった。
「……あ、ああ……すまない」
ジーニャは立ち上がりかけたが、女性──カメリアは首を振って笑った。
「いいんですよ。ここ、夕方になると涼しいから、通りすがりの人もよく座るんです」
「……そうか」
「それに、そんな顔されてたら、放っとけないですもん」
ジーニャは少しだけ目を伏せた。
笑うカメリアのまなざしが、自分を「人」として見てくれている気がして。
それから──
ジーニャは時折、その店の前を通るようになった。
花を買うためではなかった。ただ、そこに立ち寄る理由がほしかった。
飾り気のない手で渡された水のやさしさが、心のどこかに沁みていたから。
カメリアは明るく、まっすぐな女性だった。
花の名前をよく知っていて、それぞれに込められた意味を語ってくれた。
「カメリアって花もあるんですよ。寒さに咲く花なの」
──それはまるで、彼女自身のようでもあった。
その強さに、ジーニャは惹かれていた。
自分とは、あまりにも違う人。
けれど、だからこそ、惹かれた。
彼女のそばにいると、自分がほんの少しだけ──
戦場の獣ではなく、人間に戻れるような気がした。
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そして、いま。
フェアリーダストの作業台に、ふたつの宝石が並んでいた。
燃えるような赤のルビー。
そして、光を揺らすスフェーン。
──カメリアの瞳に似た石。
「……お願いします。この、二つの石で、指輪を作ってください」
低く、けれど確かな声だった。
レイは黙って頷き、銀のピンセットで石を持ち上げる。
その手つきは、まるで祈るようだった。
「わかりました。
二つの想いが、ちゃんと並んで、未来を指し示すように」
ジーニャが扉の向こうに消えたあと、フェアリーダストの店内は、ゆるやかな静けさに包まれた。
閉まりかけた扉がカラン、と微かに鈴を鳴らす。
まるでその余韻までも大切にするように、妖精たちはしばしの間、誰も動かなかった。
やがて、ひとりがふわりと宙に浮かび、小さな手でカーテンをひと撫でする。
光の加減が変わり、窓辺から差し込む夕陽が、棚に置かれた宝石たちの側面を静かに染めていく。
別の妖精は、棚の上のランプにそっと触れた。淡く灯った光は、昼の名残と夜の始まりの境を、優しく照らしていた。
レイは無言のまま、作業台に腰を戻した。
左手で胸元の金飾りを軽く整えると、右手でリングの芯金と小さな工具を取り出す。
その動きには焦りも迷いもなかった。ただ、静かな祈りのような時間が、そこにはあった。
──カチャッ。
軽やかな金属音とともに、作業が始まる。
あたたかな魔力の粒子が、レイの指先から宝石の上に編み込まれていく。
それは糸でもなく、炎でもない、透明な気配のようなものだった。
妖精たちはその様子を囲むように飛び、時折そっと息を呑んだり、囁き交わしたりしている。
けれど誰一人、音を立てず、ただその背中を見守っていた。
レイの作業台のすぐ上。
そこには、レイの私物棚の一角があり、小さなガラスの蓋の中にひときわ細いリングが納められていた。
金でも銀でもなく、どこか不思議な輝きを湛えたそれは、夜明け前の星のように光を宿している。
エルフの鉱物、ミスリルで練られたそれ。
ひとりの妖精が、そのリングを指さした。
<<……懐かしイ……?>>
細い声に、レイは手を止めることなく、小さく笑った。
「……まだまだ、僕にとっては記憶に新しいよ。とはいえ、もう百年も前のことだけどね」
リングの内側には、小さく、けれど確かに名前が刻まれている。
“ノアからレイへ”
当時はまだ、同じ性の者が愛を誓うなど、人目を忍ぶことしか許されなかった時代。
それでもノアは笑って言った。
─堂々とつけて歩けばいいさ。君らしく。─
その声が、今も心に残っている。
レイの視線がふっと棚から離れ、指先が再び光を編み始める。
ジーニャのための指輪。
それは過去を贖うものではなく、未来を照らす贈り物。
「……あの頃よりは、少しだけ世界が変わってきたね」
レイはぽつりと呟いた。
「人が誰を愛するかよりも、どう生きたいかが大切にされる時代へ──
……僕たちの選んだ道も、ようやく少しは報われるのかもしれない」
妖精たちは静かにうなずいた。
その背中に漂う気配が、どこか、柔らかな満足と希望を含んでいるように見えた。
リングの芯が収まり、ルビーとスフェーンがそっと光を放つ。
赤は情熱。
光は希望。
ふたつの石が隣り合ってひとつの輪となり、未来の物語を紡ぐ。
──やがて夜が訪れ、窓の外に小さな星が灯る頃。
レイの指先は、最後のひとつの魔術刻印を刻み終えた。
完成した指輪は、夕闇に沈む店内で、確かに、ひと筋の光を放っていた。
魔術の術式が淡く浮かび、石と銀台座が静かに組み合わされていく。
ふたりの記憶をなぞるように、炎と光が交差し、織り上げられていく。
レイの指先が動くたび、小さな音が静寂に溶ける。
やがて──リングは完成へと近づいていく。
それは、過去と未来、罪と光。
すべてを包んで編まれた、ジーニャの「贈りもの」
その指輪が、ふたりを繋ぐ花になる日が、すぐそこまで来ていた。
数週間後。
季節はさらに深く、夏の緑はまるで絵の具を重ねたように色濃くなっていた。
フェアリーダストの扉が、控えめに開いた。
鈴の音がひとつ、やや低く鳴る。
風鈴のように涼やかでいて、どこか緊張を含んだ音だった。
入ってきたのは、あの日と同じ──けれど、ほんの少しだけ雰囲気を変えたジーニャだった。
今日は鎧を脱ぎ、上質な麻布のシャツに革のベスト、簡素だが丁寧に磨かれたブーツ。
装いには、彼女なりの「けじめ」と「敬意」が込められていた。
カウンターの奥から姿を現したレイは、静かに微笑むと、木箱をひとつ差し出した。
手のひらにちょうど収まるほどの、黒いベルベット張りの小箱。
「……できました」
レイの声は、どこまでも静かで、しかし確かな芯をもっていた。
ジーニャは無言のまま、それを受け取る。
両の手でそっと蓋を開くと、中に納められていたのは──
ひとつの輪に寄り添うように嵌め込まれた、ふたつの石。
ひとつは、深紅のルビー。
光を受けて、燃えるような色を湛える。
だがどこか、内に秘めたものを守るような、引き締まった輝き。
もうひとつは、淡い金緑に揺らめくスフェーン。
光の角度によって虹色を浮かべ、まるで空の色や感情の揺れに呼応しているようだった。
その柔らかな光は、まるで──
「…ああ…本当に、カメリアの瞳みたいだ……」
ジーニャが、ぽつりと呟いた。
思わず出たその言葉に、自分で気づいたように、恥ずかしげに口を閉ざす。
けれど、レイは微笑んだままだった。
「……どうぞ。
きっと、“強くて優しい”指輪になったと思う」
レイの声は、手の中の箱の温度と同じだった。
確かにそこにあり、そっと支えるような、柔らかい力。
ジーニャはしばし視線を落とし、やがて、ゆっくりと顔を上げた。
唇の端が、ほんのわずかに持ち上がる。
「……私も、そうなりたい」
その言葉にこめられた想いを、レイは受け止めるように、ただ目を細めて頷いた。
ジーニャは箱を丁寧にしまい、深く、丁寧に頭を下げた。
その所作には、軍礼のような厳格さではなく、もっと個人的で、真摯な想いが込められていた。
背を向け、扉へと向かう。
足音は、以前よりも軽い。
肩にかかる陽の光を、彼女はそのまま受け止めながら歩いていた。
木の扉が、ゆっくりと開かれる。
外は、眩しいほどの夏の光。
フェアリーダストの中に、夏の熱い風がぶわりと流れ込む。
その光と風に包まれて、ジーニャの背は、凛として、それでいて柔らかだった。
まるで、新しい季節に向けて踏み出す、誰かの第一歩のように。
その背が、夏の陽に少しだけ軽やかに見えたのは──
きっと、誰の目にも明らかだった。
数日後──
町に吹く風は、どこか金色に染まっていた。
石畳をすべる風には、真夏の熱を残しながらも、夕暮れのようなやわらかな静けさがあった。
その日、生花店「カメリア」の前には、小さな変化があった。
店頭には、新たに咲いたふたつの花。
ひとつは燃えるような真紅。
もうひとつは、陽光を内に宿したような黄金の花。
まるで寄り添うように植えられたふたりは、どこか物語を語る恋人たちのようだった。
その花に水をやる細身の女性──カメリアの左手。
光に透けた薬指には、小さな指輪がきらめいている。
深紅のルビーと、虹を帯びたスフェーンの並んだそれは、まだ少しだけ指に馴染んでいないけれど、彼女の所作に美しく寄り添っていた。
カメリアは背伸びをして、鉢植えを棚に戻す。
土のついた手を拭いながら、彼女はふと顔を上げた。
──見覚えのある影が、通りの向こうから歩いてくる。
強い背。真っすぐな足取り。日焼けした肌に、少し乱れた短髪。
遠征帰りのジーニャだった。
その姿を認めた瞬間、カメリアの頬がふっとほころぶ。
声はかけず、ただその姿を目で追いながら、彼女は自然と胸の前に手を重ねた。
薬指のリングが、夏の光を受けて、ひときわ小さく輝いていた。
──誰に語るでもない、ささやかな日常の続き。
けれどその空間には、確かに愛の気配が息づいていた。
続いていく2人の時間──
その続きはまた…別のお話。
”性別関係なくずっと一緒にいたいね”と誓った相手に申し込むのが結婚という感じに使っているので、あまり重苦しい結婚のしがらみは考えてないです。