九章 都の流行り
陳国の都であった、槽陶に足を運んだ、蒼仁と仝徳は、城に入って驚くのだった。
なんと、陳王が妃や側室にしていたのは、誰もかれも年端のいかない少女ばかりで、その数は千人にも及んでいた。
「…あの、ロリコン野郎…!」
仝徳は、頭にきていた。
「通りで、蝉嬌を側に置いていた訳だぜ。」
中には、腹を大きくした少女たちもいる。残酷だが、陳王の血筋を絶つために、数人の子たちには、命を絶ってもらうしかなかった。
「あの猿王め!自分よりも、弱い人間しか側に置いていなかったのか!」
陳王の武官や文官たちは、体格の悪い、弱々しい者たちばかりだ。
「忠国から、丈夫な奴らを派遣してもらいたいところだが、李盛の兵を借りるのはしゃくだ!こうなったら、俺たちの軍で、こいつらを鍛え直すぞ、仁!」
「おうっ!」
仝徳は、幼い少女たちを、どうしようか迷った。
「あ、あの、私たちは、お城に置いていただけるのでしょうか?」
一人の少女が、仝徳に聞いてくる。
「仁。お前、この子たちを嫁にする気はあるか?」
「ねぇ〜よ!俺には、もう何人も倅がいて、嫁は作ってねぇ!それに、今はお前一筋だよ、仝徳!」
蒼仁は、仝徳に口づけしようとする。
「ちょーっと、待てぃ!」
仝徳は、ジッと二人を見ている少女たちの視線に気づき、蒼仁の口に手を当てる。そして、少女たちの方を見る。
「それぞれ、家に戻って行って良いぞ!君たちは、自由だ!」
それを聞いて、わあっ!と喜ぶ者もいるが、大半が困り果てていた。
「わ、私たちは、親子の縁を切らされ、帰るに帰れません!下働きでもなんでもしますので、お城に置いていただけないでしょうか?!」
仝徳と蒼仁は、顔を見合わせる。
「ま、まあ。下働きなら、いくら居ても困らない…けど。」
「良いんじゃねぇ?」
二人の意見が合い、少女たちは、十代に満たない子は、下女。十代の子たちは、女官として働いてもらうことにした。
仝徳は、いつものように政務に励んでいた。
「…まったく。陳王の猿め!こんなに、多くの税金を民に払わせていたとはな…。」
「あ、あの、失礼します。言いつけられた資料を、お持ち致しました!」
若い女官が、仝徳に渡す。
「ああ。ありがとう!」
仝徳は、その資料を見る。すると、女官が何故か、ソワソワとして仝徳の方を見ている。
「…ん?どうしたんだ。」
仝徳が、声をかけると、女官は頬を赤くして下を向く。
「あ、いいえ!し、失礼します!」
女官は、微笑みながら、部屋を出て行く。
仝徳は、フッと考える。
「…まさか。俺に、気があるのかぁ?」
などと、笑みを浮かべる。
すると、仝徳が蒼仁とご飯を共に食べている時に、蒼仁も同じ事を言う。
「はあ?仁の所にも、ニヤけた女官が、大勢いるだぁ!?」
「ああ。てっきり、俺に気があるのかと…。」
仝徳は、複雑な顔をする。
「あ、ここに米粒がついてるぞ?」
蒼仁が、手で仝徳の頬を拭う。
「おっ、悪い。」
すると、食事を運んでいた少女たちが、キャア!と黄色い声を上げる。
仝徳と蒼仁は、ん?と少女たちの方を見る。すると、頬を赤らめ、ウルウルとした目で二人の様子を見ている。
「えっと。どうかしたのかなぁ?」
仝徳が、苦笑いして尋ねると、いいえ、と言いながら、少女たちは部屋を出て行く。
「は、はぁ〜ん!」
蒼仁は、ある事に気が付き、仝徳を抱える。
「おわぁ〜!なんだ、どうした!?まだ、飯の途中だろ!?」
「俺は、お前を食いたい!」
言いながら、部屋を出て寝床に向かうと、廊下ですれ違った女官たちが、また黄色い声を上げる。
「何を考えてんだ、仁?人前だぞ!」
「だからだろ?サービスしてやってるんだよぉ。」
「サービスだぁ!?」
仝徳は、訳が分からず抱かれるまま腕を組む。もう、蒼仁に抱かれて、持ち運ばれる事に慣れていた。それもこれも、蒼仁のおかげなのだが…。
「あっ、ああっ…!仁っ…!ああっ!イいっ!」
「ここか?…本当に、可愛いなぁ!」
これが、ほぼ毎日あれば、足腰も立たなくなるというものだ。
仝徳は、いつものように、書庫にいて、書類を直したりしていた。
「仝徳様。書類を、お持ちしました!」
「ああ。ありがとう。」
女官は、また、微笑みながら足早に出ていく。その際、青い本を落として行った。
「ん?」
仝徳は、見たことのない青い本に、手にとって中身を見る。そして、驚愕する。
「なっ!?」
その本の中身は、蒼仁×仝徳の逢引の絵が描かれていた。しかも、とても生々しいものまで絵描かれている。
その後。その本の持ち主に、事情を聞く。
「…これは、一体?」
「そ、その。今、城や街中で流行っている、青本です。蒼仁様と仝徳様が、恋人同士だとお噂になっていて、婦女子たちは、皆ハマっているんです!」
仝徳は、頭を抱える。
「なんてこったぃ…。」
仝徳は、また別の意味で、問題が増えていくのだった。