八章 邪神の呪い
陳王を討伐してから、忠王は、帝を廃止した。そして、忠国の領土は、斉、殷、陳、帝となり、榛王には、朱清国の領土を明け渡した。
国は、二分になっていた。
斉国の領土には、梓伯がとどまり、嵩高仔と共に再興していき、陳国の領土は、蒼仁が受け持ち、仝徳と共に、乱れた風紀を改めることになった。
そして、忠王は、忠国の都、准柱に戻った。
一気に忠国の領土が拡大し、皆、三年以上もの年月が過ぎようとしていた。
忙しく月日が流れていく中、忠国の都では、ある騒ぎが起きていた。
それは、満月のとある日。忠王の側近である櫂華が、李盛に話を持ちかけていた。
「李盛様。陛下が、もう四日も部屋から出て来られないのです!」
「えっ!?なぜ、そのようなことに!誰か、ご様子を見に行かれないのですか!?」
李盛の言葉に、櫂華は、首を横に振る。
「それが、ご存命なのかどうか、お声をおかけしたのですが、誰も部屋に入れるなと…。それに、何やら、異様な気を放っておいでなのです!」
李盛は、忙しさにかまけて、忠王の様子を怠っていたことを悔やみ、顎に手を当てて、一つ考えた。
「なら、私が様子を伺って参りましょう!」
「そう、なさってくださいますか!ありがとうございます!」
櫂華は、ホッと胸を撫で下ろす。
李盛が、忠王の部屋に入ると、薄暗い中、物が散乱しており、寝床の布が破けていた。そして、部屋の隅から、ただならぬ殺気を感じた。一度、足を止めたが、少しずつその暗闇の所に座っている、一人の男の元へ歩いて行った。
「…誰も…、入れぬようにと…、命じたはずだが…?」
弱々しい声をしているが、忠王は、息を荒くして、うずくまっていた。
「…申し訳ありません。しかし、一体どうなさったのですか?」
李盛が、二メートルぐらいまで近づくと、忠王が声をかける。
「っ…!それ以上、近づくなっ!!…お前でも、…殺して…しまいそうに…なる…!」
李盛は、歩を止めると、近くに賭けてあった蝋燭に火を灯し、忠王を照らす。
すると、左腕から肩にかけて、緑色の爛れた皮膚が見えた。
「陛下!その、皮膚は一体!?もしかして、毒を盛られたのですか!?」
忠王は、冷や汗を大量にかいていて、苦笑いする。
「…誰にも、見せまいと…思っていたのだがな。」
「すぐに、手当てを!!」
李盛が、近づこうとすると、忠王は右手で制する。
「そういう、類のものではない…!これは、我ら一族の、忠王となった者に課せられる、呪いだ…!」
「呪い…?では、ずっと、隠していらっしゃったのですか!?いつから!?」
李盛は、忠王が衣を脱いだ所を見たことが無い事に気がつく。
「まさか、私と出会った時には、既に…!?」
「…これは、忠王となった時から、かけられるモノだ。…そして、…死ぬまで…、この呪いは消えぬ…!そうして、代々…跡取りが、忠王となった時に、背負う事となる。それと、共に…、古の記憶を受け継ぐ事になる!…俺たちの、初めての先祖が、犯した罪。…もしかしたら、お前の…千里眼…なら、見えたりしてな。」
忠王は、精一杯の苦笑いを見せる。
李盛は、ギュッと胸に手を握り、少しずつ忠王の元に近づいていく。
「…李盛!それ以上は…!!」
刀を、ギュッと握った忠王だが、必死に堪える。そして、李盛は、忠王を強く抱きしめる。
「…このような、ご苦労をなさっていたとは…!どうか、その苦しみを、この私にも、分けて下さいませ!!」
忠王は、手にしていた刀を、手放す。
「…っの…馬鹿が…!」
忠王は、李盛に抱きしめられ、力が抜けて、気を失う。
それと同時に、李盛の千里眼が、光を放つ。忠王が、刀に着けていた、もう一つの千里眼も、光を放っていた。
※
この世界が作られるずっと前。天には十二の神が住んでおり、その神を束ねる天帝と神女。十二の神々は、人間の持つ感情、恐、欲、楽、笑、喜、涙、労、怒、強、弱、邪、静を司っていた。
神女は、いわゆる生母。生を司る。天帝は、死を司る者である。
ある日。この神々の世界にも、嵐のような出来事が起こった。天帝が、突然五人の神を消滅させ、一人の神を追放してしまったのである。
これに、残りの六人の神が驚き、天帝に反旗を掲げる計画をたてるのだった。
「天帝が、ご乱心なさった!」
「我々も、消されてしまうかもしれない!」
「天帝が、私情を持って神を消すことが、許されてはならん!」
「なぜ、天帝は我々を消そうとする!」
神々は、混乱した。
天帝の乱心には、ちゃんとした理由があった。それに関わっていたの者とは、邪神の翆仔と、神女の耀華が深く関わっていた。
邪神の翆仔は、十二神の中でも一番残酷かつ、邪悪な者だった。それ故、一番嫌われていて、話をかける者などあまりいなかった。だが実情、翆仔はとても純粋で誠実な神で、神々の汚名を一心に背負っているだけだった。
「翆仔、すまぬ。お主には、いつも血に塗られた仕事ばかり押しつけてしまって。」
「何をおっしゃいます。私は、皆が平和に暮らせれば、それで良いのです。どうか、気に病みませぬように。」
天帝は、翆仔の優しく純粋なところをとても気に入っていた。それ故、心の友のように扱っていた。
天帝宮に出入りできるのは、耀華と翆仔の二人だけだった。
「…耀華。」
翆仔は、ふとほとりに立つ耀華に目を止める。
耀華は、翆仔の存在に気づき、目を向けるのだった。耀華は、天帝の后として宮に住んでいた。その容姿はとても美しく、瞳には紫色の千里眼を持っていた。その姿に、心惹かれない者はいない。耀華の神々しさに、天帝ですら手を触れることはしなかった。翆仔とて、それは一緒だった。だが、そんな翆仔の心を裏腹に、耀華は翆仔に少しずつ心惹かれていたのだった。
「…翆仔…。」
翆仔は、耀華の声に、ドキリとする。ああ、その姿に触れてみたい、と胸が騒ぐ。だが、邪神には、その神々しさは眩しすぎた。近づくことすら敵わないため、触れることなど出来ようはずがなかった。
「…そんな目で、俺を見ないでくれ…!」
翆仔は、耀華に冷たく当たることしかできなかった。何故、自分は邪神なのだと、思い悩み、その想いは絶望でしかなかった。
耀華は、翆仔には自分がとても毒であることが、とても理解していた。それ故に、愛されることの叶わない想いに、胸が苦しくなるのだった。
「ああ、翆仔…!」
この二人の想いを知らぬ天帝ではなかった。だが、決して二人が結ばれぬことを知っているため、天帝は翆仔を選んだ。
「耀華よ。なぜ、この私がいるのにも関わらず、翆仔などに惹かれるのだ…?」
耀華の気持ちは、天帝ですら分からなかった。最も白く、穢のない耀華が、最も黒く、穢れきっている翆仔に想いを寄せる。
これが、まさにこの世の行く末を暗示していた。
耀華の気持ちは、既に抑えの効かないところまでいっていた。
「何ということだ!耀華が、姿を消すなど…!」
天帝宮の中は、騒がしくなっていた。
「天帝。何か、お心当たりはないのですか!?」
天帝の傍には、翆仔がいた。
天帝は、不意に翆仔を睨む。
「…お前が!お前が原因だ!!」
天帝は、翆仔の胸ぐらを掴む。
翆仔は、驚く。
「な、なぜです?俺は、耀華に何もしていない!」
「ああ、何も触れていない!だが、お前は耀華の心を奪ったのだ!!」
翆仔は、頭の中が白くなる。
「…い、今、なんと…!?」
「耀華は、夫の俺ではなく、お前を愛したのだ!!」
「!?」
天帝の怒りは、天上に鳴り響き、雷が鳴り始めた。
翆仔は、もはや言葉が無く、呆然と立ち尽くしていた。天帝は、フンッと翆仔を突き飛ばす。
「貴様など、天帝宮に入れるのではなかった!いいか、耀華を探し出し、ここに連れてくるのだ!その後で、貴様は追放する!!」
翆仔は、何ということだ、と動揺を隠しきれなかった。
「天帝陛下!天上のどこにも、耀華様のお姿はございません!」
「なんだと!?」
天帝は、拳を握り締める。天上に居ないということは、後行く場所と言ったら、一つしかなかった。
翆仔は、ハッとして、天帝宮を飛び出した。そして、真っ暗で何も見えない、底界の底に足を運ぶのだった。すると、信じられないような場所から、女性の泣き声がしていた。
「ん…?」
漆黒の迷宮に運ぶと、泣き声は更に大きくなっていった。この闇は、どんな光も飲み込み、死にと追い込んでいく場所である。ここで生きていけるのは、邪神である翆仔か、光を失わない天帝ぐらいだ。
翆仔は、まさか、とそこへ足を踏み入れた。すると、一つの眩しい光が見えてきた。泣き声は、そこからしていた。
翆仔は、その泣いている女性の姿に驚く。
「耀…華…?」
翆仔の言葉に、耀華は顔を上げる。
「…翆仔…!?」
「なぜ、こんなところに…!?」
「翆仔…!」
耀華は、翆仔に手を伸ばそうとする。だが、耀華の光に、翆仔は苦痛を感じる。
「うくっ…!」
途端に、耀華は急いで手を遠ざける。
「ご、ごめんなさい。私…!」
「耀華。…天帝が、お帰りをお待ちだ。とても、心配していらしたぞ!」
だが、耀華は首を横に振る。
「…もう、分かっているのでしょう。私の気持ちを…。ここに来たのは、私の光が失えば、あなたに触れられると思って…!でも、全然光が消えてくれないの!」
耀華は、また大粒の涙を流す。
翆仔は、何も告げず、耀華に背を向けた。彼女の気持ちに応えてあげることが出来ないからだ。
翆仔の冷たい態度に、耀華は泣き続ける。
「…こんなに、近くにあなたがいるのに、…とても遠い…!」
翆仔は、ハッとして耀華を見る。
耀華は、だんだんと闇に飲み込まれていった。
「馬鹿な!耀華…!!」
翆仔は、咄嗟に耀華を強く抱きしめる。途端に、耀華は喜びを感じ、光を取り戻すのだった。
「ぐあぁあっ!」
翆仔は、体中から白い煙を出す。
「…翆仔っ!翆仔!手を放して…!!」
翆仔の苦痛にもがく様を見て、耀華は離れようとする。
「…き、君は、…光無くして生きられない!そして、俺も闇無くして生きられない!これは、二人の運命なのだ!」
「嫌よ!そんな運命なんて、信じないわ!だから、私はここへ来て…。」
「ここに居ても、君は消滅するだけだ!」
「じゃあ、どうしたら、こうやってあなたに触れてもらえるの!?」
翆仔は、苦しみに耐えて、耀華を抱きしめる。
「…俺が、苦しみに耐えれば、こうやって触れられる!」
「それじゃあ、あなたが消滅してしまうわ!…ごめんなさい、わがままを言って…。手を放して?」
「良い。ここは闇だ。おかげで、回復は早い。それに、俺だって、君に触れていたい…!」
翆仔の言葉に、耀華は心をときめかした。
翆仔の初めての優しい言葉が、自分を幸せで一杯にするのだった。
翆仔と耀華は、お互いに手を重ねた。
「翆仔。ずっと、想っていたわ…!」
「俺もだ…!」
二人は、口づけを交わす。今だけは、誰にも邪魔されまいと、ゆっくりと唇を重ね合うのだった。
※
しかし、二人の想いは、決して結ばれなかった。
翆仔は、耀華を天帝宮へと連れ帰り、天帝に許しを請おうとした。だが、天帝は二人に激怒し、それをおさめようとした五人の神をその手にかけるのだった。
「天帝。あなたと言う人は…!」
「何ということを…!」
天帝の側に居た五人の神。強、喜、涙、弱、笑神の消滅により、天帝に不信を抱いた。だが、天帝は聞く耳を持たない。
「黙れ!こんなことを、許せるわけがない!!」
「しかし、二人は互いに惹かれ合っている!これは、天帝とて変えられぬ事…!」
「うるさい!!」
天帝は、感情のままに神々を消滅させた為、他の神たちが天帝に恐れをなした。
「し、信じられない!この世に、笑と喜が無くなってしまった…!」
涙神は、頬一杯に涙を流す。
「恐ろしや…!天帝が、この世を滅ぼしてしまう!」
弱神は、恐怖に腰を抜かす。その弱神をも、天帝は消滅させてしまうのだった。
「天帝は、もはや神ではない!」
強神は、天帝に斬りかかる。だが、一瞬にして消滅してしまう。
「きゃあ!曉蒼!!」
強神の消滅に、恋人である涙神は悲しみで崩れた。
「心配いたすな。お前も、すぐに送ってやる!」
天帝は、涙神にゆっくりと歩みよる。涙神は、恐怖で後ろへと下がるのだった。
「もう、やめろ!!」
翆仔は、涙神を助けようと天帝に斬りかかる。だが、天帝の一振りで吹き飛ばされてしまった。
「きゃあぁあ!!」
ついに、涙神までもが天帝の手にかかり、辺りは静まりかえる。
耀華は、ただ泣き叫ぶしかなかった。
「ああ、天帝!なんということをなさるのですか…!」
天帝は、ニヤリと笑い、そして翆仔に目をやるのだった。それを見て、耀華は、ハッとする。
「嫌だ!お願い、止めて…!!」
耀華は、天帝の足元にしがみついた。だが、蹴られて吹き飛ばさる。
弱っている翆仔は、もはや抵抗する気力すらなかった。
「あなたの傍にいるから!どうか、彼だけは…!!」
耀華は、必死に懇願する。
天帝は、それを見て、フッと笑いを浮かべた。
「確かに、お前は約束通り、耀華を連れてきた。それだけは褒めてやろう!だが、お前の存在は認めん!!」
「…天帝…!」
天帝は、翆仔に手をかざすと、足元には、八卦陣が浮かび上がり、体を切り裂くような痛みに襲われた。
「ぅぐあぁあ〜!!」
「翆仔!!」
翆仔の苦痛に満ちた声に、天帝は微笑む。
「お前には、不動迷宮で苦しむがいい!!」
翆仔の左腕には、天帝の呪いがかけられ、ずっと続く暗闇へと永久追放されたのだった。
「嫌!翆仔〜!!」
耀華は、悲しみに涙を流した。
天帝は、いい気味だと笑い続けていた。
天帝の乱心により、世界は乱れていった。大地は切り裂かれ、雨が降ったり、風が吹き荒れたり、時には大地を溶かすほどの日照りが続いた。
そして、耀華は悲しみに、百年もの間泣き続けて、生命が息吹くことが無くなっていた。この事態を、六人の神々が黙って見ているわけがなかった。六神は、密かに天帝反旗を掲げる計画をたてるのだった。
「我々も、いつ消されてしまうかわからん!」
「神が、私情を持って神を消すことが、許されてはならない!」
彼らには、一つの問題があった。それは、誰も邪神と化した天帝に打ち勝つことが出来ないということだ。その闇に勝てるのは、追放された、邪神である翆仔だけである。
恐神の樂峯は、静神の慧貴に話しする。
「俺たちの力があれば、どうにかして翆仔を呼び戻す事が出来るのではないか?」
樂峯の意見に、慧貴は、ふむ、と顎の髭を触る。
「…出来る…。」
その言葉に、他の神々が、よしっ、と笑う。
「だが、少し時間がかかっちまう。それまで、持ちこたえられるか?」
樂峯の言葉に、皆、頷く。
翆仔は、どこまでも続く暗闇の中を漂っていた。心地良いはずの闇が、別の意味で恐怖を感じさせた。ずっと、一生一人だという孤独。それに慣れているはずだったが、時折、耀華の光が恋しくなる。
「…耀…華…。」
瞼を閉じようとした瞬間。翆仔は、懐かしい同胞たちの声を聞き取るのだった。
「おい、聞こえるか!?」
「…恐神。」
手を伸ばすと、その手を二人の神が受け止めた。
「迎えに来た!」
樂峯の言葉に、翆仔は、フッと笑う。
「…その声。初めて聞いたぞ。」
慧貴は、照れを隠すため、翆仔から顔を背けた。
「そ、そんなことより、世の中は大変な事になっている!天帝が、邪神と化して、世界は生命の息吹を失った!邪神に対抗できるのは、邪神であるお前だけだ!」
「天帝が、邪神に…!?」
そんなことになっていようとは、つゆ知らず、翆仔は目を見開く。
慧貴と樂峯が、翆仔を連れ戻し、戦の準備は整った。
「今こそ、我らの同胞たちの無念を晴らすのだ!」
「天帝ー!!」
天帝と戦ったのは、誰あろう翆仔だった。
「よく戻ってこれたな。また、私に葬られに来たか?」
「ほざけ!!」
天帝と翆仔の戦いは、とても激しいものだった。その戦いは、何百年にも渡って繰り広げられた。そして、その終止符を打ったのは、耀華であった。激しい雷鳴により、翆仔は大きなダメージを受け、倒れ込んだ。
「くっ…!」
「死ね、翆仔〜!!」
天帝は、ためらわず翆仔に剣をたてる。だが、それは翆仔に当たらなかった。
「…なっ!耀華…!?」
「…翆仔。」
「耀華!!」
耀華は、翆仔を庇い、耀華に剣を刺してしまった天帝は、動揺して言葉を失った。
「…やっと、会う事が…出来たわ…。」
耀華は、光を失い、翆仔の体に倒れた。もはや、息はしていなかった。
「うあぁあ〜!!」
翆仔は、怒りが頂点に達して、天帝の首を跳ねる。天帝の首は、玉座へと続く階段を転がり、見守る神々の目の前に落ちた。
「…ゆ…るさぬぞ、…翆仔っ…!」
天帝が、死んだ事で、六人の神々の戦は終わった。
「こ、これで、我々は天帝から解放される…!」
「長い戦いは、終わったんだ!」
六人の神々は、天帝の首を天高く掲げるのだった。すると、どこからかともなく、見知らぬ声が響き渡る。
「天帝殺しの罰により、そなたらを地上へと追放いたす。」
その声に、皆は驚く。
「だ、誰だ!?」
誰からともなく声が漏れる。
「…我は、天地神明の神なり…。」
神々は、天帝よりも上の存在など知らなかった。そして、その瞬間、六人の神は、地上に落とされるのだった。
あえなく、六人の神々は、落神となってしまった。
それから、地上には、六国の国が作られた。それを知る者は、今は忠王だけとなっていた。
天帝から受けた呪いは、先祖代々受け継がれ、邪神だった時の記憶も、引き継がれていった。
忠王の呪いの傷に触れ、昔の事を思い出していた李盛は、涙を流す。涙が、気を失っていた忠王の頬に溢れ落ち、目を覚ました。
「…ん?どうした、李盛…。」
李盛は、泣きながら忠王の顔に手を触れる。
「あなたは、ずっと私を探して下さっていたのですね、陛下。いえ、翆仔」
李盛の言葉に、忠王は笑みを見せる。
「ああ。そうだよ、耀華。やっと、共に生きる事が出来たのだ…!」
李盛は、切なくなり、忠王に口づけをした。