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万里夢想  作者: 絹機ヒコネ


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七章 猿の帝

 斉国が滅び、仕えていた文官たちは、残る者と忠国の都に行く者とで別れた。

 その分担は、嵩高仔(すうこうこ)に任せていた。

「わが国に行く者は、志願しろ。そうでない者は、里に帰れ!」

「わ、私は、ついてまいります!」

「私も!」

 意外と多くの志願者がいて、千人を越えていた。

 斉国が滅びる、一ヶ月前。帝の国境を越えようとしていた蒼仁軍に、一報が入った。

「申し上げます!帝が、陥落!陳王が、帝の命を奪い、自ら帝を名乗っております!」

「な、なんだと!?」

 仝徳(どうこく)は、口をあんぐり開ける。

「それに加え、榛王の軍が敗北をし、今はわが国の禁軍に加わっているとのことです!」

「なんだ。榛王も、大したことないんだな。アッサリと敗れちまうとは…。」

 蒼仁が、ため息をつく。

「言ってる場合か!これで、俺たちは、後ろ盾を無くしたんだぞ!?しかも、タイミングよくこの国境に戦を仕掛けて来やがる!これじゃあ、防戦一方だ!」

 仝徳は、頭を巡らす。

「…いや。この際、狼裴族の力を借りて、夜襲をかけるのも悪くないかもな!」

 仝徳は、外に控えていた甜奉を呼ぶ。

「お前たちは、俺たちの軍に加わった。それが、契約だからな。そこで、嗅覚の良いお前たち狼裴族の軍に、国境を越えて、森を抜け、敵陣に夜襲をかけてもらいたい!」

「俺たちは、あんたに従うまでだ。それが、契約だからな。良いだろう!」

 甜奉は、自軍に戻った。

「仁!俺たちは…。」

 仝徳は、盛邦(せいほう)が、千里眼を使っていることを考慮し、二重、三重の罠を仕掛けることにした。

どの策が成功するかは、運に任せるしかない。


 敵陣が、森の中で野営していた。焚き火を焼き、複数の兵士が座っている。

 それを見て、甜奉が仲間たちに合図を送る。一斉に野営している兵士たちに噛みつくが、なんと藁人形だった。

「あんたの読み通りだったぞ!」

 森中に、甜奉の声が響く。すると、門の前に、敵兵たちが待ち構えていた。

「今だ!囲め〜!!」

 仝徳は、甜奉たちをおとりとして、更に門の外側に伏兵を潜ませていた。

 一気に敵兵を囲み、反撃に出る。そして、狼裴族も仲間に加わる。だが、あまりの数に、逆に追い詰められる形となっていた。

「仁!敵将は、まだ見つからないか!?」

「こいつら、陳国の兵じゃねぇ!朱清国(しゅせいこく)の兵士だ!」

「なんだって!?」

 仝徳が、一瞬気を抜いたと同時に、一本の矢が仝徳の頬をかすめる。

「っ…!ぶねぇ!」

 仝徳が、怪我をしたところを見て、蒼仁が仝徳の傍に行く。

「大丈夫か、仝徳!?」

「ああ。大したこと…!?」

 蒼仁は、傷口を舐める。

 仝徳は、ギョッとする。

「お、おい!仁!こんな時に、何を…!?」

 蒼仁は、覇気を出して怒り狂う。

「綺麗な仝徳の顔に、傷をつけた奴はどいつだ!?」

「お、おい!仁…!?」

 仝徳は、我を忘れた蒼仁をなだめようとする。

「おめぇら、叩きのめしてやる!!」

 蒼仁は、いつにもなして、怒りのままに突進して行った。

「ば、馬鹿野郎!一人で突っ込んだら、孤立して…!」

「…突っ込む…?俺は、もう何日も、仝徳にイチモツを突っ込んでねぇんだよぉ〜!!くそがぁ!!」

「こんな時に、冗談言ってんじゃねぇ〜!!」

 仝徳の説得虚しく、帝の森の中で、蒼仁と仝徳軍は、孤立してしまった。

「…ほら。言った通りになっただろ?」

 蒼仁軍は、国境の砦から離れたい場所で、体をやすめていた。気を抜くと、どこから敵が出て来るか分からない状態だ。

「…わり!」

 軽く言う蒼仁の頭を、仝徳が小突く。

「あ〜あ。これじゃあ、禁軍の援護を待つしかねぇ〜のかぁ!李盛の奴に、借りを作っちまう!」

 仝徳は、狼裴族の一人を伝令として向かわせて、自軍の周りには、鼻に敏感な狼裴族の兵士たちに見張りをさせていた。

「なあ、国境の砦まで、誰も居ないみたいだが、戻らないのか?」

 蒼仁が、人の姿がいない砦周辺を指さす。

「罠だ。行けば、蜂の巣にされるぞ!」

「そいつの言う通りだ。何人もの人間の臭いがする。」

 甜奉が、答える。

 すると、蒼仁軍の近くに、砦から紙のついた矢が放たれた。

 仝徳は、その矢の先についている紙を見る。

「斉国が、陥落したとよ!先に、禁軍の将軍二人が、国境に向かっているそうだ!」

 その伝達に、皆、おお、と歓声を浴びる。

「こうなったら、ここでこまねいている暇はないな!一気に、帝を落とす!その前に、腹ごしらえだ!おい、狼裴族のお前ら、近くに食べ物の匂いがしないか?」

 仝徳の言葉に、狼裴族たちは、辺りをクンクンしながら探す。

「あった!昨日、奴らが野営していた所の近くにある!」

「しめた!おい、お前ら、奴らの兵糧を頂くぞ!」

「おおっ!」

 蒼仁軍は、狼裴族の案内で、朱清軍の兵糧にありつけた。皆、やはり腹を空かしていて、一気に平らげる。

「仁。敵将は、きっと帝に集まっているかも知れない!あれだけ探してもいないのは、雑兵だけしかいないからじゃないのか?」

「なるほどな。通りで、手応えがある奴がいないと思った!なら、奴らの本拠地である帝に向かったほうが、一気に叩けるってわけたな!」

 仝徳は、蒼仁の腕に手を当てて尋ねる。

「敵兵の将軍は、数多くいるだろう。それでも、持ちこたえられるか、仁?!」

 その言葉に、蒼仁はニヤリと笑う。

「俺が、そのくらい出来ると思って言ってるんだろ?なら、俺の力を信じろ!」

「ああ。頼りにしてるよ!」

 仝徳は、蒼仁の頬に口づけする。すると、蒼仁のイチモツが、元気よく飛び出す。

「仝徳〜!!」

「今は、それどころじゃない!!抑えろぉ〜!!」

 蒼仁は、チッと悲しそうな顔をする。

「わーったよ!敵将たちを、全員倒すまで、我慢してやる!」

 仝徳は、やれやれと思う。

「全員、腹ごしらえが終えたら、進軍するぞ!」

「おお〜!」

 仝徳の号令に、兵士たちが片腕を挙げる。

            ※

 蒼仁軍は、帝がおわす城に向かった。すると、陳王の軍と朱清軍の新たなる将軍、水晶(すいしょう)が待ち構えていた。

 水晶は、帝の愛人であり、朱清王の唯一の後継者だった。だが、帝に拝謁した際に、気に入られてしまい、朱清王亡き後も継ぐことができないでいた。だが、その帝は、陳王により息絶え、城へ続く大橋の上に縄で縛られて、見せ物にされていた。

 そんな中、盛邦(せいほう)が出しゃばっていた。

「ここから先に足を踏み入れることは許されん!足を踏み入れることが出来るのは、王のみであるぞ!」

「何を世迷言を!帝を手にかけておいて、よくも抜け抜けと言えたものだ!」

 仝徳が、蒼仁に大橋の前に構えている敵兵をなぎ倒すように合図をおくる。

 蒼仁は、いつになくその力を発揮し、陳王軍をなぎ倒して言った。

「腕に覚えがる奴はいないのか!相手しやがれ!」

 だが、蒼仁の狂気乱舞に、誰も敵わず、大橋の方へ後退して行った。それを見て、盛邦も焦りを見せる。

「何を恐れるこたがある!こちらは、帝がおわすのだぞ!帝をお守りしろ!」

 盛邦は、千里眼を片手に叫ぶ。

「我らの方が有利だ!突入せよ!」

 蒼仁の大斧の餌食になっている兵士たちの悲鳴を聞いて、陳王軍は、ガタガタと恐怖していた。

「オラオラ!かかってくる奴は、いねぇのか!?」

 陳王軍の、将軍たちだと思われる数人も、あっという間に首を跳ねられていた。

「ヒッ!こ、こんなヤツに敵うかぁ!!」

 一人の兵士が逃げると、他の兵士たちも武器を捨てて逃げようとする。すると、逃げ出してきた兵士を一人、盛邦が斬り捨てる。

「これ以上、下がるのなら、私が手にかけるぞ!」

 すると、前にも後にも行くことが出来なくなった兵士たちが、立ち止まる。

「こちらには、帝と千里眼があるのだぞ!?」

 盛邦が、鼓舞しようとするが、効き目はあまりなかった。

「こ、こんな話し、聞いてないぞ!陳王様が、帝になれば、手出し出来ないのではなかったのではないか!?」

 兵士の一人が、不満を零す。

「そうだ!そうだ!!千里眼が、そう示していると言ったではないか!」

 盛邦に、文句を言う兵士たちが、多くなり、内心盛邦も焦っていた。

 手に持っていた千里眼は、この様な事態を、映し出すことはなかった。ただ、帝に扮した陳王が映り、この大橋を、蒼仁の軍が攻めてくることは、想定外だった。本来なら、孤立した蒼仁軍を、朱清の軍が取り囲んで、全滅することになっていた。だが、蒼仁の奮闘振りは、映し出されていなかった。

「ええい!後方の朱清軍は、一体何をやっているのだ!」

 盛邦の言葉を聞いて、仝徳が鼻で笑う。

「お前、千里眼に振り回されすぎなんだよ!臨機応変も、兵法の一つ。死ぬ気になれば、皆火事場の馬鹿力を発揮するもんさ!それに、何よりうちの蒼仁を舐めすぎなんだよ。仁は、一騎当千できる猛将。奴に敵う奴は、そうそういないんだよ!」

 仝徳は、盛邦に斬りかかる。だが、その前に弓兵が現れる。

「舐めているのは、どちらだ!お前さえ倒せば、挽回できる!」

 弓兵は、仝徳に向けて弓を投げ放つ。だが、仝徳は冷静なままでいた。剣を背中に回し、思い切り回転して弓矢をたたき落としていく。

「俺の事も、舐めすぎなんだよ!何年この剣の腕を磨いてきたと思ってる!」

 仝徳は、フッと笑う。

「くっ!だが、ここから先は、王以外まかり通ることは出来んぞ!」

 盛邦は、後方に下がり、前に朱清王となったばかりの水晶を置いた。

「新たな帝に、朱清王の名をいただいた。その恩は、返す!」

「帝?そいつは、縄に吊る下げている奴がそうじゃないのか?帝の血筋でもない、ただの王が、勝手に帝を名乗って良いものなのかよ!?」

 仝徳の言葉に、水晶はフッと笑う。

「確かに、父亡き後、跡取りである私が、帝に見初められたことは、名誉だが、朱清王の血筋が続くのなら、喜んでその道を進むさ!」

 水晶は、仝徳に向かってきた。二人は、剣を交える。

「へえ。帝の、抱き枕になってたわりには、良い腕してんだな!」

「それは、どうも!」

 仝徳と水晶は、火花を散らして剣を交える。その隙に、盛邦は城の方へ走って行く。

「…まさか…!こんなはずでは!?奴らは、息絶えるはずだ!」

 盛邦は、千里眼を見るが、その映像を見て、顔が青くなる。

「ヒィッ!」

 仝徳は、自軍を取り残して城の中に逃げていく盛邦を見て、歯を食いしばる。

「あんの野郎〜!逃げやがって!」

「よそ見をしている暇はありませんよ!」

 水晶が、仝徳に斬りかかる。それを受け止め、また刃を交える。

「そ、そんなはずはない…!そんなはずは…!!」

 盛邦は、ひたすら走って行く。

            ※

 帝に向かっていた禁軍は、帝の首都である(ぎょう)に向かっていた。馬車に乗った李盛の右目からは、ダラダラと血が出ていた。

「陛下。どうやら、決着はすぐにつきそうです。」

 横で馬に乗っていた忠王に、李盛が言う。

「…そうか。それにしても、盛邦の奴め、千里眼を使いすぎているようだな。大事ないか、李盛?」

「はい。さすがに、慣れてきました。それに、奴が見ているものは、私にも見えております。盛邦は、今までに行ってきた罪を、償うことになるでしょう。」

 李盛は、右目から出てくる血を拭い去る。


 蒼仁が、敵将をなぎ倒して、残りの陳王の雑兵たちを蹴散らせている時に、仝徳が水晶とあと少しで決着がつくところを見ていた。

「ぐあっ!」

 仝徳が、水晶の剣を叩き倒し、利き手である左腕に傷をつけて、使えなくした。

「ここまでだ!」

 水晶は、くっ!と唇を噛む。

「ここで、朽ち果てるか。それとも、朱清王として国に帰るか、決めろ!」

 水晶は、その場に足をつく。

「今更、朽ち果てた地に、未練は無い!だが、朱清の民たちは、助けてほしい!」

「朱清の軍は、今は狼裴族が相手をしている。どのくらい、生き残っているか分からないが、その望みだけは忠王陛下に伝えておこう。」

 それを聞いて、水晶は穏やかに笑う。

「感謝する!」

 そう言うと、自ら大橋の下へ落ちていった。

 仝徳は、驚いて下を覗く。橋の下は、断崖絶壁で、暗くて底が見えない。

「なんて奴だ。この地に、身を投じる…か。」

 なんとも、皮肉な最後だなと、仝徳は首を振った。


 盛邦は、玉座に座っている陳王の元に行った。

「陳王陛下!いや、帝!勅命を出して下さいません!この城には、王以外、立ち入りを禁じると!」

「何を慌てておる、盛邦。朕は、帝なるぞ?今や、この国で、一番偉いのは、朕なのだ!」

 帝の衣装を纏った陳王は、高笑いする。

 盛邦は、ひたすら千里眼を見る。だが、結末は目に見えていて、何度見返しても変わる事はなかった。

「もう直、忠王の禁軍が来ます!お早く、お触れを出して下さい!!」

 盛邦は、冷や汗をかく。

 その焦り用に、陳王もさすがに、うむ、と汗をかく。数分後、陳王はお触れを出して、帝の玉璽(ぎょくじ)を押して、大橋のど真ん中に掲げた。

 それを見て、蒼仁軍は足を止める。

「王以外、立ち入りを禁じるだぁ?」

「どこの猿が、こんなお触れを出しやがったんだ!」

 仝徳は、頭をかく。

「戻るぞ。後は、陛下に任せる事にしよう。」

「へ?攻め込まないのか?」

 蒼仁が、仝徳に聞く。

「よく見ろ。帝の玉璽が、打たれている。判断は、王であるお方たちに任せたほうが良いだろう。」

「そういうもんか?」

「そういうものだ。それに、既に積んでいる!」

 仝徳は、軽く蒼仁の胸を叩き、引き返すように促す。

「行くぞ、仁。俺たちの役目は、果たした!」

 蒼仁軍は、禁軍が来るのを待つことにした。



 忠王の禁軍の中に、榛王と菟均も混ざっていた。それは、陳王が妹の蝉嬌(せんきょう)を連れ去り、無理矢理妃にしたと聞いたからだ。

「忠王陛下。城の中に、陳王と盛邦がおります!」

 仝徳が、大橋付近で蒼仁軍を整列させて、出迎えた。

「そうか。」

 忠王は、大橋に掲げられている、陳王の書いたお触れ書きを見て、その紙を破いた。

「帝の玉璽を、勝手に使いおって!」

 その帝は、今だに大橋の上に縄で遺体を吊るし上げられていた。

菟均(うきん)、帝を救ってさしあげるのだ。」

「御意!」

 菟均は、矛を振りかざし、縄を斬って帝の遺体を降ろした。

 忠王と榛王は、城の中に入る。

「おお。参ったか、忠王に榛王!朕の前にひれ伏すが良い!」

 陳王は、顎を上げて帝になりきっていた。

 その側に、鎖で繋がれた蝉嬌(せんきょう)の姿を見て、榛王が拳を強く握る。

「あ、兄者!」

 蝉嬌が、声をあげると、陳王が掴んでいた蝉嬌の鎖を目掛けて、一瞬何かが放り投げられて、鎖が切れた。よく見ると、榛王が腰にぶら下げていた剣だった。それが、壁に突き刺さる。

「おのれ、猿…!よくも、我が妹を家畜のように扱いおって!!」

 陳王は、榛王が放つ怒りの王気に、ビクッと体を震わせる。今までの穏やかな榛王の顔ではなく、鬼の様な形相を目の当たりにして、恐れおののく。

「…ぶ、無礼であろう!朕の御前で…!」

「朕?格好だけ帝に見立てた、ただの猿にしか見えんがな!」

 忠王が、フンッと鼻で笑う。

「兄者〜!」

 蝉嬌は、榛王の元に走って行く。榛王は、泣く蝉嬌を思い切り抱きしめてやった。

「蝉嬌!…すまないな。この、自分の部をわきまえない猿を始末してから、慰めてやるからな!」

「うん…!」

 蝉嬌は、榛王の後ろに隠れる。

「覚悟は、出来ているだろうな、猿!誰の賛同もない帝など、あってはならないことだ!帝の真似事も、ここまでだ!」

 榛王が言い放ち、忠王と共に玉座に座っている陳王の元へ歩いて行く。

「こ、これを見よ!玉璽だ!!これが、朕が帝である証であるぞ!!」

 陳王は、玉璽を見せびらかす。だが、二人の足を止めることは出来なかった。

 それを見て、陳王が周りを見て、ある人物を探す。

「せ、盛邦!盛邦はどこじゃ!?」

 盛邦は、また城の裏から逃げようとしていた。

 だが、二度も逃がす李盛ではなかった。先回りして、盛邦が来るのを待っていた。

「ここまでだな。それを、返してもらうぞ!」

「せ、千里眼の主…!何故…!?」

「何故ここに、か?その千里眼が、お前の最後を示しているだろう?」

 李盛は、月慶たちと共に盛邦が出て来るのを待っていた。

「そ、そんな、はずは…!!」

「年貢の納め時だ。盛邦!」

 すると、盛邦の首に、細い糸が巻かれて、宙を舞う。

「うっ、ぎゃあぁあ〜!!」

 盛邦の首は、ボトリと地面に落ちた。

 陳王は、忠王に刃を向けられ、玉座からズレ落ちていた。

「あ、ああっ!い、命だけは…!!」

 陳王は、恐怖で下が濡れていた。

「なんとも、威厳のない帝だなぁ。帝を手に掛けた罪は、重いぞ猿!」

 忠王は、剣を振り上げた。

「うぎゃあ〜!!」

 陳王は、恐怖のあまり、気を失った。

 それを見て、忠王は、やれやれと剣をしまう。

「帝の血筋は、途絶えた。もはや、王たちが集まる事も無くなるだろう。」

「そうですね。」

 最後の見せしめとばかりに、城の壁に、陳王が首を絞められて吊るされ、その横には、悪事の限りをつくした盛邦の首が置かれた。


 李盛は、盛邦が持っていた千里眼を、忠王に渡す。

「今度は、捨てずに、ちゃんと持っていて下さいませ、忠王陛下。」

「ああ。そうしよう。これ以上、お前に負担をかけることは出来ないからな。」

 李盛は、言いながら、頭がクラッとして、忠王の方へよろける。

「っ…!少し、血を流しすぎた…ようです。」 

「安心しろ。俺が、お前を守ってやるから、今はゆっくりと休め。」

「はい…。」

 李盛は、忠王に抱えてもらい、目を閉じた。

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