四章 千里眼の軍師の苦悩
忠国に来てから、一年半の時が過ぎようとしていた。
李盛が、編成していた禁軍は、まだ一万にも満たない数だったが、少人数でも、統率は出来るようになってきた。
そして、目を見張るのは、蒼仁の軍である。あっという間に、三千を越していき、一気に五千もの軍に増強されていた。
「へっへぇ〜!見たか、李盛!俺たちの軍の力を。」
などと、仝徳が、書庫で自慢していた。
「あ〜、そうだな。その調子で、一万越してくれ。」
素っ気なく、李盛は返事を返す。
そして、ある事に李盛は頭を捻る。
「そう言えば。なんで、お前って蒼仁と居る時にいつも、抱えられて…。」
言い終える前に、嵩高仔が、李盛の口を押さえる。
「李盛!時には、人には知らなくても良いこともあるのだぁ!」
李盛は、知らなくても良いこと?と頭を捻る。
ある事に、李盛は頭を抱えていた。それは、忠王の側室が百余名居るにも関わらず、一人も男子が産まれていないと言う事だ。
「どう言うことだ?こんなに、沢山居るのに、お世継ぎが居ないなんて…。」
と、朝まで考えてしまい、何故か仝徳たちの事が気になってしまったのだ。
そんな最中、朝一で書庫の扉を開けると、あるものを見てしまう。
「んっ、んん~!」
書庫の机にうつ伏せになっていた仝徳の隣に、腰を動かしている蒼仁の姿があった。
仝徳は、李盛の存在に気づくと、顔を赤くする。
李盛は、無言で扉を閉める。
「なあ、嵩高仔。仝徳たちって…。」
「考えるなぁ〜!まさか、千里眼で見たのか!?」
嵩高仔は、顔を青くする。
「そんなことに、千里眼を使うか!でも、ちょっと、蒼仁に聞いてみた。」
「何を…!?」
「仝徳と、そういうことする理由。そしたら…。」
「え?何故って、…ムラムラするから?」
蒼仁の答えに、仝徳は頭を小突く。
「って、答えてた。」
それを聞いて、嵩高仔は、頭を抱える。
「李盛よ…。お前と言うやつは…。」
「…!と、言う事はだな!陛下が、連れていらっしゃる側室の方々は…!」
李盛は、酒をあおっている、忠王の所に行って、聞いてみた。
「陛下が集められた、側室の方々は、陛下がムラムラした方たちなのですか!?」
李盛の問いに、忠王は酒を吹く。
「っな!なんだ、その、ムラムラとは!?」
「え?違うのですか!?蒼仁に聞きました。奴は、毎日励んでいるので。なら、何故こんなに…。」
李盛は、再び考え込む。
「蒼仁め、余計な事を吹き込みやがってぇ〜!あのな、相手をきめるのに、一つと言うことはないのだぞ?なら、梓伯にも聞いてみろ!」
「梓伯様に?」
と、言う事で、既に第一子を腹に宿した泉嘉妃がいる梓伯に、稽古中に聞いていた。
「何故って、…その〜。ドキドキしたから?」
「ドキドキ?ムラムラではなく!?」
それを聞いて、梓伯は、口をあんぐり開ける。
「そ、そりゃ、む、ムラムラしないこともないけど…。って、まだ、言わないといけないの?かなり、恥ずかしいんたけど…。」
それを、忠王に話しすると。
「…ま、まあ。ドキドキもするだろうが…。あいつは、まだ若いからな。俺と比べる事ではない。と言うか、最近どうした李盛?」
「どうしたではありません!返事は、大国の主だと言うのに、まだ一人もお世継ぎがいらっしゃらない!」
言われて、ああ、と顎に手をやる。
「まあ、そのうち出来るだろ。しかし、正妻の小夜は、子を無せぬ腹だからな。それに、姫なら十分に居るだろ?問題ないのではないか?」
「私の事を思い、共に寝屋を一緒にしている場合ではありませんよ!女子が好みな陛下は、一体どんな女子にドキドキし、ムラムラするのですか!?」
真剣に言う李盛に、忠王は、ニヤッとする。
「李盛。俺が、いつ女子しか好みではないのだと言った?」
「へ?」
忠王は、李盛の頬に手をやる。
「お前が、スヤスヤ寝て居る時に、口づけしていることを、知らないのか?」
「…。」
李盛は、眉間にシワを寄せる。
「…と、言う事は、陛下は、…両サヤ!?」
「ちょーっと待て、李盛!どこで、その単語を知った!?」
「え?蒼仁が…。」
「また、奴か…!」
後に、忠王は、蒼仁を呼び出した。
「蒼仁、貴様!俺の李盛ちゃんに、余計な知識を植え付けるのを止めろ!」
「だってよぉ。あいつが、よく聞いてくるから。なんか、あったのか?」
忠王は、ため息を吐いた。
「俺の、世継ぎの事で、余計な事考えちまってるみたいなんだ。出来れば、まだその段階では無いことを、教えてやりたいのだが…。本人に自覚がない。」
「ああ。あいつ、お前が気があることに、まったく気がついてないのか!」
蒼仁に言われて、忠王は頭を下に下げる。
「人付き合いが、全くなかったから、様子を見ているのだが…。それこそ、赤子に教えてやるように、ゆっくりとな。」
蒼仁は、忠王の肩を叩く。
「まあ、気長にやるこったな。」
「それこそ、お前のように猛獣ではないから、襲って寝たりしない!」
それを聞いて、蒼仁は、ニヤッと笑う。
「さあ。どこまで持つかなぁ?」
忠王は、蒼仁の胸を軽く叩く。
李盛は、クシュンとくしゃみをした。
「陛下の好みは、ムラムラ、ドキドキ、キュンキュンする相手なのですか?」
忠王は、また酒を吹く。
「な、なんか、単語が増えてるな…。誰に聞いた?」
「え?嵩高仔に…。」
「…ダメだ、こりゃ。」
李盛を自覚させるには、手が焼けそうだった。