十一章 忠王と李盛
李盛は、湯浴みをした後、忠王が言った通りに、忠王の寝所の扉の前に立っていた。だが、そんな体験がない李盛が、軍事以外で長けていることはなく、ただただ戸惑っていた。
『忠王陛下と、…あんなこと…?!』
しばらく、そこに立ったままでいると、中から声がした。
「入れ。」
その声に、ビクッと身体をすくめる。心に決めなくてはいけない。忠王の気持ちに、応えるように。
「し、失礼いたします。」
李盛は、ゆっくりと扉を開けた。
部屋に入ると、忠王は酒をあおっていた。そして、李盛の姿を見ると、にこやかに笑った。
「そう、身構えるな。まあ、一献付き合え。」
「は、はい。」
李盛は、思ってもいなかった展開に、少し気が楽になる。
「ここに座って、一息つけ。今回のお前の活躍は、分かっている。これで、俺の跡取りができたんだからな。」
湯殿での態度とは一変して、忠王はいつもの穏やかな雰囲気になっていた。
「ありがとうございます。」
李盛は、寝床の忠王がいる隣に腰を下ろし、盃を受けとる。
小刻みに震えている李盛を見て、忠王は苦笑いする。
「先ほどは、すまなかった。俺も、我慢が足りなかった。安心しろ。俺は、蒼仁と違って、襲ったりしない。」
「は、はぁ…。」
李盛は、忠王に酒をついでもらい、一口酒を口にする。酒を口にするのは、何年振りになるだろう、と思う。少なくとも、学友たちと飲んでいた時を思えば、二十年は口にしていない。
「以外でした。あなたが、私にそのような感情を抱いているとは…。」
李盛は、フッと笑って見せる。
「お前に、初めて会った時から抱いていたよ。だが、お前とは、身体だけではなく、心から繋がりたいと思ったのだ。欲情も、人の感情の一つ。だが、その感情に囚われてしまっては、信頼という大切な感情が失われてしまう。それこそ、取り返しがつかない。」
忠王も、一口酒を口にする。
「お前が、俺を無視することになっては、政はなりたたんからな。だから、少しずつで良い。俺を受け入れてくれるか?」
真っ直ぐ自分を見る忠王の瞳に惹きつけられ、李盛は、ドキリとする。
「…は、はい。少しずつでしたら…。」
李盛は、もう一口酒を口にする。
それを見て、忠王は軽く笑う。
「なら、今夜はどこまでなら許せる?口づけまで?」
生娘を扱うように言いよってくる忠王は、李盛の顎に手をそえた。
李盛は、ドキリとする。
「そ、その…。不慣れなので、そこまでなら…。」
「分かった。」
そう言うと、忠王は盃を置いて、李盛の手に手を添え、顔を近づける。唇の感覚を感じ、李盛は盃を床に落とす。始めは、浅く軽く。そして、徐々に深くなっていき、自然と身体が熱くなっていた。息も荒くなり、互いに確かめ合っては、また唇を重ねていく。
言葉通り、それ以上忠王は強引に触ってこなかった。だが、何故かどこかで、まだ欲しいと思ってしまうところがあった。
「っ…!」
互いの粘膜が糸を引き、それ以上を求めてしまう。
だが、それ以上はなかった。
「今宵は、ここまでだ。」
「えっ…?」
拍子抜けしたように、李盛は思わず声を出してしまったが、忠王は苦笑いして、顔をそらす。
「これ以上は、持ちそうにない。部屋に戻れ。」
忠王は、身体を起こして、また盃を手にする。
「わ、分かりました。それでは…。」
李盛は、ゆっくりと身体を起こすと、一礼して部屋を出ていく。そして、扉にもたれかかった。
「はぁ…。」
以外にも、忠王は優しく接してくれて、ホッとした。だが、何故か身体は火照りを残したままだった。
忠王は、本能に疼くのをひたすら我慢して、酒を思い切りあおった。
「くっ…!まだだ。少しは、自重しろ…!」
忠王は、盃を床に投げる。
※
あれから、李盛が忠王の寝所に出入りすることが、頻繁になっていた。そして、密着度も多くなっていた。
「あっ…!へ、陛下。そこはっ!」
李盛の大事な部分を、忠王は手で上下して愛撫していく。すると、クチュクチュと音を立てて濡れて、硬くなっている。
「我慢しなくて良い。もっと、声をきかせろ。」
忠王は、言いながら、愛撫の手を早め、李盛の耳を噛む。
「ああっ!」
熱い液が出て、身体が火照り、ビクッと跳ねる。まさか、こんな声が出るとは思わず、恥ずかしさで顔を赤くする。
「愛らしい奴だ。何も、恥じることはない。今宵は、最後までいけそうだな。」
「えっ?」
忠王は、李盛の蕾に指を当てる。
「そ、そんなところっ…!」
指は、ゆっくりと中へ入っていく。
「力を抜け。怖くはない。」
忠王が、触れている部分は、痺れたような感覚があり、熱くなる。
「あぁ~!はぁっ!」
李盛は、身体を仰け反る。忠王は、李盛の首に口を押し当てていく。そして、丁寧に味わうように、愛撫を続ける。
「李盛…!」
忠王は、指を抜き、自分の硬くなっているものをグッと中に入れていった。
「いっ…!あっ!あぁあ〜!」
腹の圧迫と、感じた事のない快感で、李盛は更に身体を仰け反る。
忠王は、ゆっくりと、身体を動かしていく。
「くっ!李…盛…!」
「ん…!あっ、へ、陛…下ぁ〜!!」
ようやく、一つになることができて、快感と嬉しさで、お互いに想いをぶつけ合った。
会議中。李盛は、まだ身体の感覚が残っていて、ぼ〜っとしていた。正直、始めは痛かったが、それを通り越すと、信じられないほどの快感が、電流のように流れた。その、余韻が、半端ではない。
「…盛。李盛…?」
忠王に、声をかけられ、李盛はハッとする。今は、会議中。ぼ〜っとしていられない。
「も、申し訳ありません。では、次の議論を…。」
一つ咳払いして、頬を赤くしている李盛を見て、忠王は、ニッと笑う。
「李盛。今夜も、俺の寝所へ来い。」
「っ…!は、はい…。」
李盛は、顔を赤くして顔を背けた。
また、昨夜と同じ事をされるのかと思うと、恥ずかしくて、穴があったら入りたい気分になる。
そんな最中、陳国の都だった所に移住していた蒼仁と仝徳に、事件が起きていた。
陳国が、滅んだと言うのに、一向に仲間になろうとしない貴族軍団がいた。その軍団は、陳王に少女たちを献上していた連中だ。見過ごすわけにはいかない。なので、仝徳はその軍団との決戦に備えて、近くを視察に来ていた。そこで、多くの盗賊と思わしき連中に取り囲まれ、消息を絶ったというのだ。
忠国から帰ってきた蒼仁は、その一報を聞き、いてもたってもいられなかった。
「なんだと!仝徳が、行方不明だと!?」
すぐに、助けに行きたいところだったが、奴らがどんな要求を出してくるかわからない。なので、気持ちを押さえて、蒼仁は拳に力を入れていた。
「クソッ!俺が、居ない時を狙うとはな…!」
そこへ、一報が届く。それは、琴眇という、男からだった。
「蒼仁様!このような手紙が…!」
蒼仁は、急いで紙を開く。
「仝徳は、預かった。連れ戻したければ、我らの元に足を運ぶが良い。」
その手紙を見て、蒼仁は紙をビリビリに破る。
「上等だ!その挑戦、受けてやろうじゃねぇか!!」