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十章 忠王正妻

「俺は、子宝に恵まれないらしい。」

 いきなりの忠王の言葉に、李盛は目を丸くする。その話題は、前にもしていたことだが、あれから十年経とうかというのに、男子が一人もいないのだ。

「陛下が、もう少しお頑張りになれば、せめて三人ぐらいはできますよ。」

 サラリと言う李盛に、忠王は、ムッとなる。

「お前は、俺に一日に百人も相手にしろと言うのか?」

「お下品ですよ、陛下。それにしても、側室が流産する者が多すぎます。これは、何か裏があると思うのですが…。」

 李盛は、考えたくありませんが、と付け足す。

「何が言いたい?」

 忠王は、首を傾げる。

「例えば、陛下の子供を産ませまいと考えている者がいるとしか思えないのですが。」

「何故だ!?なぜそんなことを考える?俺に恨みでもあるのか?」

「その逆ですよ。陛下に愛されたいが故に、自分たちが子供を産もうと、躍起になっているのです。」

 忠王は、頬杖をつきながら、女子の考えることは分からんと、頭を抱える。

「俺は、平等に可愛がっているつもりなのだが…。」

「女子は、情の深いもの。自分一人が愛されたいと考えるのです。」

「はぁ。なんともややこしい生き物だな。」

 李盛は、そういう者ですよ、とため息をつく。

「それにしても、お前…。」

「はい?」

「俺に、ヤキモチやいたりしないのか?」

 以前の、忠王ご乱心の出来事から、自分たちの過去の因果を知ってしまったが、妃や側室といくら寝ても、少しも動揺しない李盛に対して、忠王は少し不服に思っていた。自分は、李盛をずっと探していたというのに、李盛は、あれからあっけらかんとしている。それどころか、子供を作れとせっついてくる。

「陛下。あなたは、いつも一言多いですよ。」

 李盛は、キツイ目で睨んでくる。

「す、すみません…。」

「陛下は、今や領土の半分以上を牛耳っているのです。お世継ぎを、多く作ってください!」

 忠王は、一つため息をつく。

「別に、女が牛耳ったって良いんじゃないか?」

「なりません!四百年前の朱清国(しゅせいこく)の女王の話を知っていますか?」

「いや。」

「朱清の女王は、それはそれはとてもわがままな女王でした。自分の思い通りにならないものは、全て斬首。そして、自分よりも美しい者は、手足を全て切り落とし、(ぬか)につけたと聞いています。もちろん、反旗を翻した者たちもいたといきますが、捕まったら、その場で斬首したそうです。彼女は、恐怖政治で国を当事していました。まあ、殷王(いんおう)と、どっこいどっこいですが、女性特有の陰険さが勝っていましたね。そんな国に、陛下はさせたいとお思いですか?」

 忠王は、う〜ん、と顎に手を当てる。

「彼女は、頭が良かっただけ、その恐怖政治を上手く使っていたようです。そして、彼女に逆らおうとする者は居なくなったそうです。逆らう者は、一気に苦しめるのではなく、ジワジワと苦しめていたそうです。ある意味、殷王よりも陰険ですね。」

 忠王は、頭を抱える。

「と言うことで、この件に関しては、私に一任していただきたいのですが、よろしいですか?」

「任せる。」

「御意。」

            ※

 正妻は、四人いる。勢力は、四つに別れている。その一人目は、鍬己(しゅうき)見た目は、とても人望に厚く、優しい性格の持ち主で、それでいて、とても芯のある人だと噂されている。二人目は、蓮遥(れんよう)。見た目は、とても可愛らしく、気弱で慎ましい人だと言われている。そして三人目は、晶橋(しょうきょう)と言い、幼い顔をしているが、とても気の強い女性だ。彼女も、一度子供を流産したことがある。それからと言うもの、あまり周りの人間に心を許さなくなったと聞いている。四人目は、嘉華(かか)。彼女は、敗走した城から唯一正妻になった女性だ。文武両道で、頭がキレるため、あまり他の正妻たちと、つるんだりしない。女性と言うものを、熟知しているからだ。

 そんな、嘉華の評判は、どこから降って湧いたのか、城中に"気のオカシな人間のため、話をかけてはいけない"と言われていた。だが、それを知らない嘉華は、何故誰一人として、城の者たちが自分にこえをかけてこないのか、疑問に思っていた。きっと、敗戦した城の女人だからと、嘉華のなかでは思っていた。

 気のオカシな女人だと言う噂は、忠王のところまで届いていた。だが、嘉華を妻にしたのは忠王である。

 嘉華は、敗走時に、他の側室達を守るために、自ら盾になって剣を振るっていた。そして、忠王に決闘を申し出てきたのである。

「私たちは、お前たちに辱めを受ける気はない!ころすなら殺せ!」

「威勢の良い女子だ。その申し出に、俺が応えてやろう。負けたら、お前は俺のモノだ。」

「戯言を!」

 嘉華の剣の腕は、噂に違わぬものだったが、忠王の相手にはならなかった。そんな中、嘉華は死を覚悟で忠王に斬りかかる。

「はぁあ〜!!」

「木の強い女だ。」

 忠王は、隙を見て、嘉華に口づけする。

「っ…!」

「気に入った!俺のモノになれ。」

「何をっ…!!」

 忠王は、嘉華が深い口づけをした。

 嘉華は、初めての事に、剣を手から放した。

「美しい。お前は、武人にしておくには惜しい。」

 こうして、嘉華は四人目の正妻になったのである。

 そんな、見初められた嘉華に対して、嫉妬の目が向けられないわけがなく、三人の妃が共謀して、嘉華は"気のおかしな人物"と噂を流され、城での評判は最悪になっていた。そのせいで、城の者たちは誰も嘉華に声をかけたり、側に寄らなくなっていた。ただ、側近の女は、唯一身の回りの世話をしていたが、一人でそれをこなしていた。

 そこで、李盛は自分の影を一人送ることにした。

「お初にお目にかかります。今日より、身の回りのお世話をさせていただく、彩女(あやめ)と申します。」

「世話になります。その、そなたは…?」

「私は、柳菜伺(りゅうさいし)様から言い使ってまいりました。命をかけて、お守りいたします。」

 名前を聞いて、嘉華はホッとする。

「あの軍師様の…!とても、心強いです。よろしくお願いしますね!」

「はっ!」

            ※

 連日、続いて子作りに励めと言ってくる李盛に対して、忠王は面白くなかった。とは言え、励むには励んでいるのだが、少しも気にしていない李盛の心情にむくれていた。

「お前に言われた通り、一晩に二人も相手をしているぞ。これで、満足か?」

「ええ。問題ありません。」

 李盛は、書類に目を向けたまま答える。

「…して、嘉華に護衛を付けたと言うことは、男が産まれるからか?」

 忠王の言葉に、李盛はようやく顔を向けて、にこやかに微笑み、無言のまままた作業を始める。

「抜け目のない奴だ。なら、それまで、我慢してやる!それで良いな、李盛!」

「ええ。」

 忠王は、酒をグッと飲み干す。

「分かって言ってるのかぁ?」

「はい。何がですか…?」

 急に態度が変わった忠王に、李盛は顔を再び向ける。

 忠王は、李盛の服の袖を引っ張って、顔を近づける。

「俺が、何を我慢しているのかだ!」

「え?で、ですから、二人もの女子を相手にすることではないのですか?」

 李盛の答えに、忠王は眉をひそめて、口づけをする。

「っ…!?」

 李盛は、驚いて目を見開く。忠王は、神妙な面持ちを向ける。

「お前にだけは、他の相手を抱けと言われたくないのだぞ!!」

「ご、ご冗談を!私は、子を成すことは出来ないのですよ?」

「子を成すか、成さないかの問題ではない!心の問題だ!!俺が、どれだけ我慢していると思っている!」

 忠王は、李盛の頬を撫でる。そして、部屋から出て行った。

 取り残された李盛は、言葉を失い、忠王が撫でた頬を触る。

「…っ。熱い。」


 忠王は、ため息を吐いてある場所にいた。

「…やって、しまった…!」

「だから、いつまで我慢できるのかって言ったんだ。」

 庭先には、朱清国の使者として来ていた蒼仁の所だった。

「お前の事を、馬鹿に出来なくなりそうだ。」

「俺は、ほとんど毎日、仝徳(どうとく)を抱きまくってるけどな。もぉ~可愛いんだぁ!」

「あーはいはい。それは、どうでも良い。毎日、女を抱いてたお前が、仝徳一筋になっただけだ。喜ばしいことじゃないか。」

 蒼仁は、ため息を零す。

興清(こうせい)、お前は、一応国の主なんだからよ、子供作らねぇといけないのは当たり前じゃねぇか。」

「そんなことは、わぁーってるよ!でも、どんな相手を抱くのかは、自分で決めた相手にしたいだろ!?」

「なら、早く男を作ることだな。そうすれば、思い通りになるじゃねぇか?」

 蒼仁の言葉に、忠王は目を見開く。

「跡取りを作れば、後は好きなように出来るじゃねぇか。」

「蒼仁。お前が言うと、説得力があるな!さすが、子種をまきまくってた男の言う言葉だ!…にしても、お前も、何人か子供が出来てるなら、その母親を正妻にしないのか?」

「しねぇよ!第一、仝徳が居るからな。まあ、でも俺の子供作った女には、仕送りはやってる。子供がデカくなったら、養子に迎えて、仝徳と家族になるつもりだ!」

 自慢気に語る蒼仁を見て、内心呆れる。もはや、この男には、仝徳以外見えていないのだろうと思う。


 それから、数ヶ月過ぎた。

 李盛の元に、一報が届いた。なんと、嘉華が懐妊したと影からの情報がきた。

「そうか!周りに知られないように、警戒を怠るな。」

「御意!」

 それ以外にも、側室の何人かが懐妊したことを知る。さすがの忠王は、体力が限界にきていた。

「これで、満足か李盛?」

「いえ。今からが本番です!お産まれになるまで、油断はできません。」

 李盛が、危惧していた通り、どこからか嘉華が懐妊してことが、城内に広まっていた。

「まさか、こんなに早く広まるなど、一体どこから漏れたのか調べさせます!」

 李盛は、影に命じて発信源がどこなのか調べ始めた。

 彩女は、嘉華に運ばれてくる食事を毒味したり、周りの女官や妃たちの動向を伺っていた。

 そんな時に、珍しく一番の正妻である鍬己(しゅうき)が、嘉華の元を訪れた。

「体の具合はどうかしら?」

 当たり前、と言うように、鍬己は尋ねてきた。

「い、一体、何事でございましょう?私は、いつもいたって健康ですが…。」

「あら、しらを切るの?城内では、あなたの事を知らない者はいないわよ。」

 カマをかけてくる鍬己に、彩女が口を挟む。

「失礼ながら、どの様な噂でございましょう?」

「あなたの食事が変わった。気づかないとでも思った?それとも、まだしらを切るつもりなの?」

 鍬己は、(かんざし)を、嘉華の腹に向かって突き刺そうとした。その行動に、嘉華は無意識に腹を手で覆って庇った。

 それを見て、鍬己はニヤリと笑う。

 彩女は、嘉華を庇う。

「なんのご冗談を!?仮にも、嘉華様に怪我をさせるおつもりですか!」

「ごめんなさい。正直に、赤子が腹に出来たと言わないものだから、試させてもらったわ。忠王様の子を、大切に育てることね。」

 そう言い、鍬己は立ち去った。間違いない。噂の発信源は、鍬己のようだった。この事を、彩女は李盛に伝えた。

「なんと!あの、聡明な鍬己が、そのような大胆な行動をとるとは…!」

 忠王は、目を丸くする。

「鍬己妃は、唯一子を成すことが出来ないお体。それを、面白く思わないのでしょう。それにしても、侍女たちに、逐一見張らせていたとは…。どうやら、嘉華様のお噂を広めたのは、鍬己様で間違いないようですね。」

 嘉華が、懐妊した事が、このような形でバレてしまい、更に周りを強固にするしかなくなった。


 やがて、嘉華の腹は膨らみ、本格的に懐妊していたことが公になった。

「ご懐妊、おめでとうございます!」

 蓮遥(れんよう)と、晶橋(しょうきょう)が、嘉華の元を訪れる。

「あ、ありがとうございます。」

 嘉華は、頭を下げる。

「もっと早く、教えてくだされば良かったのに。」

 蓮遥が、微笑みながら話す。

「そうですよ。そうすれば、私たちもご協力いたしましたのに。元気な、男子を産んでくださいね!」

 晶橋が、明るく笑いかける。

「お心遣い、ありがとうございます。」

「手土産を持ってきたの。よろしかったら、食べてちょうだい。」

 蓮遥は、様々な食べ物を置いていった。だが、素直に食べる気がしなかった。

 蓮遥と晶橋が帰って行った後、彩女は置いていった果物を一つ、水槽に入れた。すると、元気に泳いでいた金魚が、途端に動きを止めて、死んでしまったのである。それを見て、嘉華は顔が青くなる。

「こ、こんなことって…!」

「嘉華様。これからは、見知らぬ食べ物など、お口に入れぬよう、お気をつけください。食べ物を口にする際には、私が毒味いたしますので!」

「え、ええ。」

 三人の正妻たちが、こんな事を平気でしていたのかと思うと、男子が産まれなかった理由が分かる。

            ※

 臨月が近くなろうとしていた。その間にも、様々な堕胎薬や毒が、食べ物や部屋のあちこちに運ばれていた。その為、嘉華は気が気ではなかった。

 風の噂では、同じように懐妊していた側室の一人が、似たような手口で、流産したと耳にしていた。

 その事は、忠王の耳にも届いていた。

「女子とは、恐ろしいものだな。仮にも、俺の子供を簡単に葬り去るとは…。」

「これは、由々しき事態です!陛下が、どれだけお励みになっても、子がなせません。嘉華様も、精神的にも気が滅入っていて、これでは元気な男子が産めません!」

 忠王は、ふむ、と顎に手をやる。

「なら、同じように、子を宿している、梓伯の奥方を話し相手に呼んでみたらどうだ?ちょうど、四人目の子を宿しているだろう。」

「なるほど。泉嘉様ならば、周りに気配りのきく侍女たちも沢山いますので、良い方法かもしれません!」


 忠王は、早速梓伯と泉嘉たち家族を、里帰りと称して来させることにした。

「興清、久しぶりだな!話しは聞いたぞ。難儀なことだな。」

 梓伯は、随分と風格が出てきて、顎髭を生やしていた。体つきも、以前より大きくなっていた。

「お前も、元気そうで何よりだ!都の状況を、詳しく聞かせてくれ。」

「ああ。」

 梓伯は、泉嘉に目で合図すると、別室に行き、それをくみ取った泉嘉も、軽く頷き、嘉華と庭先に行く事にした。

「嘉華様。さあ、私たちもお話しいたしましょう。」

「は、はい!」

 泉嘉は、優しく嘉華を先導する。周りには、泉嘉の二人目の子供と、三人目の子供が、走り回っていた。その為、とても賑やかだった。

 それを見て、嘉華もにこやかに微笑む。

「泉嘉様は、素晴らしいですね。ご立派な、跡取りをお作りになって。私は、子をなすのが初めてなので、とても不安なのです。」

「分からないことがあったら、なんでと聞いてください。私でよろしければ、いつでもご協力します!」

「ありがとうございます。」

 久しぶりに、同じ立場の女人と会話をすることができて、嘉華はホッとした。自然と、泉嘉との会話は弾んでいた。

 そんな中。お腹を空かした、泉嘉の二人目の子供である梓京(しきょう)が、机に置いてあった果物に手を伸ばした。その場面を目にした嘉華は、見覚えのない桃に、ハッとする。

「いけません!」

 嘉華は、急いで梓京の手を払い、桃を落とした。

「ど、どうなさったのですか!?」

 泉嘉は、いきなりのことで、放心状態になっている梓京の元に行く。嘉華は、桃を池に落とした。すると、池で泳いでいた鯉たちが大暴れしたと思うと、全部死に絶えて、プカリと浮かんできたのだ。

「な、なんてことなの!?」

 泉嘉は、思わず梓京をギュッと抱きかかえた。と、同時に、驚いた梓京が大泣きしだした。

 庭先の大騒ぎを聞き、別室にいた忠王と梓伯が急いで入ってきた。

「どうした!一体、何があった!?」

「あなた!」

 泉嘉は、梓京を抱きしめたまま、梓伯に訴えた。梓伯は、泉嘉たちの元に駆け寄り、池を見る。

「なっ…!これは、一体!?」

 嘉華は、もう我慢の限界だった。急いで、籠に入った大量の桃を持って、正妻たちの元に向った。

 珍しく、三人の正妻たちが、楽しそうに談笑していた。

「今頃は、お陀仏してるんじゃないかしら?」

「あら、やだぁ〜!そう簡単にはいかないわよぉ。」

「でも、そう長くもたないわ。」

 そんな三人のもとに、嘉華が姿を現す。

「お待ちください!夫人たちは今…!」

 嘉華は、思い切り扉を開けて、三人に向かって籠を放り投げ、毒入りの桃をばら撒いた。

「なっ、なんなの!?」

「あ、あなた、一体…!?」

「黙りなさい!!仮にも、忠王陛下の正妻ともあろう者だというのに、このようなことばかり繰り返し、赤子の命をなんだと思っているのです!危うく、忠王陛下の弟君のご子息が、口にするところだったのですよ!!あなたたちは、正妻である資格がない!!今すぐ、罪を償いなさい!!」

 いつも大人しい嘉華が、激怒した姿を見て、三人は言葉を失った。

 そこへ、李盛が姿を現す。

「これは、私が出る幕はなかったようですね。」

 李盛の姿を見て、三人は凍りつく。

「そこの御三方、今までの反逆ともとれるこの行動、処分は分かっておいでですね?」

 笑いながら威圧してくる李盛に、三人は言葉を失った。

            ※

 蓮遥(れんよう)晶橋(しょうきょう)は、忠王の部屋に呼ばれた。何を言われたのかは分からないが、それから大人しくなった。以外にも、正妻から側室への降格だけで済んだ。そして、鍬己(しゅうき)は、決して忠王の部屋を訪れることはなかった。一番の妻と言うプライドが、他の女の子供によって剥奪されるのが、許さなかった。次々と妻を娶っていく様を目の当たりにして、嫉妬で苦しまないわけがなかった。そして、子供をなせなくなった自分が、とても恨めしかった。

「鍬己。」

 忠王は、何年か振りに鍬己のもとを訪ねた。

「うあぁあ〜!」

 忠王の姿を見るなり、鍬己は飛びかかって寝台に忠王を倒し、首を絞めた。

「…くい…!…憎い!あなたも!あなたの側へよる女たちも…!!」

 忠王は、抵抗せずに、鍬己の頬に手を当てる。

「…すまなかった。お前の気持ちに配慮せず、ずっと苦しませてきた。辛い思いをさせてしまったな。」

 すると、首を絞める手が緩み、鍬己の目からは涙がこぼれ落ちていた。

 忠王は、鍬己を抱きしめる。

「お前が、俺の一番の妻だということは変わらぬ。ここまで、俺を想っている妻が、他にいようか?」

 鍬己は、声を出しながら泣き喚いた。

「こんな、駄目な男の側に、いてくれるか?」

「…陛下…!」

 鍬己は、久しぶりに感じた暖かみに、背中に手を回した。

「いいえ、陛下。もう、私は…顔を見せられません。」

 数多くの子供を手に掛けてきた報いが、鍬己に回ってきた。

「…そうか。」

 忠王は、手を放し、申し付けを言った。

 鍬己は、毒の刑に処されることになった。因果応報である。

 そして、嘉華は男子を産み、唯一の正妻となった。
















 全ての事が終わり、忠王はため息をつく。

「お前の言う通りにしたぞ、李盛。」

「はい。このように、次々と跡取りを増やしてください!」

 李盛の言葉に、忠王は反論する。

「跡取りは、一人で十分だ!」


 その晩。一仕事終えた李盛は、湯浴みをしていた。

「やれやれ。これで、幾分かはマシになったか。」

 李盛は、風呂場の中央にある滝水の方へ行き、鼻歌を歌いながら体を洗っていた。

 すると、湯気で辺りが見えなくなっている所へ、一つの人影が現れた。

「ん?誰だ!」

 李盛は、自分に近づいてくる人影に身構える。その影は、服を脱ぎ捨てながら、ザブザブと李盛の所に近づいて来た。

「…もう、我慢の限界だ…!」

 その姿は、忠王だった。

「へ、陛下…!?」

 突然のことに、李盛は近くに置いてあった服を手に取る。だが、体を隠そうとした瞬間に、その場に押し倒される。

「観念して、俺のモノになれ…!」

 忠王は、深い口づけをしてきて、硬くなっている部分を、李盛のモノに押し当ててきた。

「っ…!」

 あまりのことに、李盛は体が固まる。

「へ、陛下…!お気をたしかに!」

 李盛は、忠王から逃げようとする。だが、忠王は本能のままに、李盛の身体を(むさぼ)っていく。

「あっ…!」

 忠王は、自分の硬くなっているモノを、李盛の中に入れようとする。

「な、なりません!」

 李盛は、本能的に忠王を投げ飛ばした。

 忠王は、湯の中にダイブした。それを見て、李盛は慌てて湯殿を出て行こうとする。

「も、申し訳ありません!」

 李盛は、胸がドキドキしながら、上がろうとする。だが、足首を掴まれる。

「逃さん…!」

「お、お待ちください!」

「俺は、全てお前の言う通りにした!ならば、今度は俺の言う通りにしろ!」

 忠王の気持ちは、本気だった。

「そ、それは、陛下と、(ねや)を共にしろと言うことですか?!」

「その通りだ!鈍いお前でも、ハッキリ言えば分かるだろ!?」

 李盛は、顔を赤くする。

「お、お待ちください!私の気持ちは、無視なのですか!?」

「なら、俺の事をどう想っている?」

 改めて聞かれ、李盛は、えーっと、と考える。

「へ、陛下のことは、もちろん大切に思っています。で、ですが…。」

「なら、俺と寝るのは嫌なのか!?」

「改めて聞かれると、分かりません!私は、女子ではありませんので…!」

 李盛の言葉に、忠王は、ムッとする。

「俺は、蒼仁とは違う!だから、お前の気持ちが定まるまで、本能を我慢して、側室たちを抱いてきた。お前も、俺の気持ちに気づいているはずだ!」

「い、今、襲われたのですから、十分に理解はしています!で、ですが、もう少し、ご有余を…!」

「もう、待てるか!ならば、お前から俺の寝所に来い!それまで、あと少し我慢してやる。」

 忠王は、李盛から手を放し、湯殿を出て行った。

 それを見送り、李盛は、頭が混乱していた。





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