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【完結】旅好き辺境伯令嬢の気まま紀行録  作者: りっく
【第3章】秋の旅︰王都

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5.発表の準備

 大量の本が並ぶ図書館の一角で、ナターシャとアルバート王子は熱心に図鑑を読んでいた。


 王立学院の卒業発表会といえば、由緒正しき学問の場である。

 発表者が誰になるかはともかくとして、もう「輸入生物と旅の暮らし」というプログラムは公表されている。発表者が誰になるかはともかくとして、まずは原稿作りに取り掛からなくてはならない。アルバート王子の主張に、ナターシャも頷いた。それなら喜んで手伝うし、旅好きが高じただけの自分の知識が役立つなら嬉しいことである。


 輸入生物は、その呼び名の通り国外から入ってくる不思議な力を持った動物たちや、その力を借りて作られた道具の総称だ。シュタイン王国の中でも買うことはできるし、一部の道具は流通しつつもあるのだが、いかんせん集められる情報が少ない。

 まずナターシャの『紀行録』を読み返しながら記憶をたどり、その旅で役に立った輸入生物について別の動物図鑑で調べる。ナターシャが父や商人から口伝(くちづ)てに得た知識を裏取りすることで、卒業発表会の場にふさわしい堅実な発表を作ろうというのが王子の策だ。


「そもそも、どうして輸入生物の発表をすることになったんです? 好き嫌いの分かれる分野かと思いますが」


 作業の合間にナターシャはアルバート王子にふと気になったことを尋ねる。アルバート王子は言葉を選ぶように一瞬何かを言いかけて黙ったが、すぐに気を取り直して答えた。


「そもそもは、学生たちに自宅以外の場所で暮らす意義について伝えたいという話になったんだ。つまり寮生活の話だね。使用人に頼らない、対等な仲間との共同生活……旅の体験談が参考になるだろう? 私がこれまでの旅で得た気づきを、と頼まれて一番に思いついたのがこれだったのさ」


「なるほど。確かに、最初はルーンディアのツノさえお持ちでなかったアルバート様が、今ではずいぶん私のコレクションにも慣れてくださいましたね」


 夏の旅では深海魚の浮き袋を体に巻いて海に浮かんでいた。シュタイン王国に貴族多しといえども、あの経験をしたことがあるのはナターシャとアルバート王子くらいだろう。寮生活の意義を説くために参考になるかどうかはわからないが。


「ではあくまで旅がメインということですね。「快適な旅暮らし、意外と大変ではないですよ……そう、この輸入生物たちがあればね!」といったところでしょうか」

「うん。悪くないと思う。自立というのかな、それを楽しいと思わせられたら御の字だ」


 指針は決まった。ナターシャとアルバート王子は再び机の上の書物たちに視線を落とす。

 日が暮れるまで、二人は黙々と調べ物を続けた。



「予想はしていたことだけれど、かなり時間がかかりそうだね」

「そうですね。何度も来ることになるというのはこういうことでしたか」


 帰り道。日はすっかり暮れて、街灯の柔らかい光に石の街がぼんやりと照らされていた。

 馬車の中で二人とも背もたれに身を預けて疲れた様子で座っている。小さい文字ばかり見て、頭を使い続けたので脳が疲れているのだ。


「数時間歩いたあとより疲れているみたいだね?」


 ナターシャの様子を見てアルバート王子はくすくす笑う。王子ももちろん疲れた様子はあるが、普段から慣れているのかナターシャほどくたびれた様子ではなかった。王子の言う通り、ナターシャは体を動かすより頭を使う方がずっと苦手だし疲れてしまう。


「これが数日続くと思うと、正直かなり堪えます」

「ふふ」

「……何がおかしいんです」


 こちらを見てニコニコしているアルバート王子に、ナターシャはムッとして返す。


「いや、君の弱点を知れたなと思って」

「悪趣味な……」


 弱点なんていくらでもあるし、取り繕っているつもりもないのだが、何が嬉しいのか満面の笑みを浮かべているアルバート王子から、ナターシャはそっと目を逸らした。


 

 行きと同じく、馬車の窓から見える建物について軽く説明をしてもらいながら、王城まで戻る。

 午前中にも案内された道を通って、二人は離れへと向かった。


「到着してすぐだし荷解きもあるだろう。今日は少し早いけれど、自室でゆっくり休んでくれたらいい。食事は部屋に運ばせよう」

「アルバート様はご一緒ではないのですか?」


 いつも一緒に旅に来たときはともに食卓を囲んでいたはずだ。ナターシャが首を傾げると、王子は心底残念そうな声音で答える。


「そうしたいのは山々なんだけれど……今日は本邸の方で食事に呼ばれていてね。君もそっちに来てくれるというなら歓迎するけれど?」

「う。結構です……」


 そうだ、ナターシャにとってはここは旅先だが、アルバート王子にとっては自宅である。ナターシャは自分の勘違いを恥じながらも大きく首を振る。アルバート王子はどこまで本気なのかわからないが、間違っても自分が王城の食卓での夕食に参加することなどあり得ない。

 そんなに否定しなくても、とくすくす笑っているアルバート王子を咎めるように、ナターシャは半眼で王子の顔を睨みつける。


「もう。からかわないでください!」

「ふふ、ごめんよ。明日からはできるだけ一緒に食事をしよう」

「べつに一緒に食べたかったわけでもないです! ただ気になったから聞いただけで……」


 余裕そうなアルバート王子の態度が気に食わないわ恥ずかしいわで、ナターシャは自分の頬が熱くなるのを感じる。

 照れ隠しによく口が回るナターシャを封殺するように、アルバート王子は一言放って、城の方へ戻って行った。


「私が一緒にいたいんだ。だから、また明日」

王都での旅、1日目が終わりました。まだ調べ物しかしていませんが、明日からは観光もできるといいですね!

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