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【完結】旅好き辺境伯令嬢の気まま紀行録  作者: りっく
【第1章】春の旅:パルメール領

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11.不思議生物の神秘2

 雪割邸、応接室。


 突発的に始まった、ナターシャによる輸入生物講座は、なかなかの盛り上がりである。

 生徒はたった二人だが、これが興味津々にいい相づちを打つのだ。


 ナターシャは気分をよくしながら、机の上に広げた道具の一つを指差して説明を始める。


「次はその隣ですね」

「これは知っている。ファイアリザードだろう?」


 ナターシャが指し示した赤褐色の布を見て、アルバート王子が言う。ナターシャは頷いた。


「そうです。最近は衣服の生地にもよく使われていますね。耐火性と保温性に優れたハイテク布、ファイアリザードの皮です」


 厳密には皮を加工して作ったブランケットである。とにかく暖かいうえ、耐火性が高くまったく燃えない。たき火の隣でブランケットに包まって寝ても火事にならないなんて、ナターシャにとっては最高の大発明である。


 ナターシャのそんな説明に相槌を打っていたアルバート王子が、あることに気づく。


「その隣の小さな白い石のようなのは? それも何かの動物のものかい?」

「はい。それもファイアリザードです。爪ですね」


 アルバート王子が見つけたのはファイアリザードの爪。縦に細長い三角錐形の、軽い石のような物体が2つセットで置かれている。


「2つを打ち合わせると簡単に火が起こせます。自動式のランタンはこれを加工したものなので、お二人も気づかぬうちに使ったことがあるかと。火花が散るので、それをワラや木に移すだけです」


「へえ! ボタンを押すだけで火がつくランタンは、そういう仕組みになっているのか。触っても?」


「はい」


 この旅にも彼らは自動式のランタンを持ってきていたはずだ。

 雨の中で湿って火がつかなかったと言っていたが、それもそのはずファイアリザードは水にめっぽう弱い。湿気らないよう、常に密閉できる瓶に入れて持ち運んでいるくらいだ。

 

 アルバート王子はファイアリザードの爪を2つとも手に取り、軽くカチカチとぶつける。

 及び腰なのか火花が散らなかったので、見兼ねたテオドアが手を出した。


「貸してください」

「はい、どうぞ。……うわっ!」


 アルバート王子から爪を受け取ったテオドアがカツン! と勢いよく爪同士をぶつけると、大きめの火花が派手に散った。

 思わずアルバート王子は声を上げて身を逸らす。


「あ!! も、申し訳ございません!」


 自分がやらかしたことに気づいてテオドアは慌てて立ち上がり、頭を下げる。

 テオドアはどうやらときどきやりすぎる傾向にあるようだ。山の中でもこんな光景を見たような気がする、と呆れながらナターシャは続ける。


「爪は使い捨てなので、それは捨てておいてくださいね。……そうそう、使い捨てといえば、先ほどお二人が入ったお風呂にも輸入生物の力が活用されています。体の部位をそのまま使っているわけではありませんが」


「へえ! それは興味深い。そういえば、いい香りがしていたね。バスソープか何かと思ったけれど」


「ふふん、甘いですね」


 興味を示すアルバート王子の様子を見て、ナターシャは満足げに笑う。

 机の上に置いた巾着を開けて、中に入った白っぽい欠片を数個手の上に出した。陶器の破片のようなそれは、乳白色に混ざってうっすらとそれぞれに違う色をしていて綺麗だ。


「これはフローラルチョークといいます。北方の草原に棲むボイラーホップという虫――バッタの仲間ですね。それが花の蜜を集めて作るもので、彼らにとっては保存食のようなものなのですが。なんとこれが水と反応して熱を発するのです」


 水に入れるとシュワシュワと泡を発しながら溶け、熱を発する。そして、材料となった花の香りがふわりと漂う。

 薪で沸かすことなく風呂を入れることができるので、入浴剤として国外では重宝されている。各地にボイラーホップの養殖場があり、さまざまな香りが研究されているそうだ。

 消耗品なのに一粒で庶民の5年分の給金が飛ぶ金額なのが玉に瑕である。今日はアルバート王子とテオドアのために3つある雪割邸の浴槽すべてにお湯を張ったので15年分だ。


「火を使わずに湯を沸かせるのか。時間の節約にもなるね」


「はい。浴槽に放り込んで3分待てばお風呂に入れるという優れものです。まあ、水の殺菌という意味ではしっかりと火で沸かした方が健全でしょうが……うちは井戸水をろ過して使っていますし、フローラルチョークでも一応沸騰はしているので、大丈夫かと」


「旅に限らず日常生活でもかなり便利ですね。王城で紹介したいくらいです」


 テオドアも感心したように頷く。

 彼の言うとおり、国外での需要は日常使いしている貴族がほとんどのはずだ。


 正式に国としての輸入経路が整えば、養殖場から個人的に取り寄せるより安くなるかもしれない。お金に困っているわけではないが、安いなら安いほうが嬉しいに決まっているので、ナターシャはテオドアに強く賛同しておく。


「今回持ってきているのはこんなものですね。生きた動物は気温によって連れてこられないこともあるので、まだ紹介しきれていませんが」

「勉強になったよ。さすがの知識量だ」

「はい、今後の参考にさせていただきましょう」


 ホクホク顔で頷くアルバート王子に、テオドアも真面目な顔で頷いている。

 装備の軽量化は旅の順調さに大きく関わる。テオドアの荷物が次はもっと減ることを祈るばかりだ。


 満足そうな二人に頷き返して、ナターシャは言う。


「では、食事をとって寝ましょうか。明日のプランも考えなくては」

「ですね。支度をいたしましょう、携帯食は潤沢にお持ちしています」


 テオドアも立ち上がり、自分たちの荷物から食事を持ってきてくれるようだ。

 家主であるナターシャも当然、その場を片付けて料理の準備に移る。

 

「もちろん私も手伝おう! ……何をすればいいかな」


 一人遅れて立ち上がったアルバート王子は、慣れない様子でそう言った。


 

本日も、前回に引き続き輸入生物の紹介回です。

次回はドキドキ☆クッキング回(!?)アルバート王子が人生で初めてキッチンに入ります。

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