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【完結】旅好き辺境伯令嬢の気まま紀行録  作者: りっく
【第1章】春の旅:パルメール領

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9.探検!父の部屋〜物置編〜

 父の使っていた部屋を物色しながら、ナターシャは本邸での片付けのことを思い出す。


 本邸の方の父の荷物は、父が死んですぐに、ナターシャと兄とで協力して片付けた。旅に使えそうなものはもらったし、領地に関係するものは兄が引き継いで処理をしたはずだ。

 そのときに、雪割邸にあるものは旅にまつわるものばかりだろうからナターシャの好きにしていい、と兄からは言われている。


 しかし、父の物置部屋に入ったナターシャは、頭を抱えることになる。


 物置部屋は驚くほど散らかっていた。先ほど私室を見て、父のことを几帳面で整理の行き届いた部屋の持ち主だと評したのを撤回しなければならないほど。しかし、別にゴミが放置されているとか脱ぎっぱなしの服が落ちているとかそういうことではない。

 汚い要素は一つもないが、ただひたすらに物が多すぎたのだ。


 そしてその全てが、家族にまつわるものだった。


 兄が学院でとってきた賞状やトロフィー。ナターシャのかいた絵日記に紀行録。旅先で買ったお土産や、たわむれに摘んだ花で作った押し花。覚えはないがおそらく子どもからのプレゼントであろうどんぐりのネックレス。

 海岸で集めたシーグラスをくっつけて作った小物入れの中には、大粒のダイヤモンドがついた指輪が入っている。急な貴重品だ。


 それから、ナターシャの知らない――外国で買ってきたのであろうゴブラン織のタペストリーや、年季が入ってさすがに色褪せているドライフラワー。どこかで絵師に描かせたのであろう肖像画には、若いころの父と母が描かれていた。

 なるほど、このあたりに置かれているのは、すべて母との思い出の品だろう。


 ナターシャの好きにしていいと言われたが、こんなの自分一人で勝手に好きにできるわけがない。


「どうして、こっちに……」


 どうして雪割邸に。ナターシャは疑問に思う。

 ここは父がほとんど一人で使っていた別邸である。家族と過ごした思い出が色濃いのは本邸の方だろうし、兄の賞状や母との肖像画に至っては本邸から勝手に持ち出してきたものだと思われる。


 なぜわざわざそんなことをしたのか、不思議に思うナターシャだが、ふと床に落ちた1冊のノートが目にとまって思考を中断した。


 そう、そういうのを探していたのだ。


 ナターシャは一旦いろいろな疑問を捨て置いて、そのノートに飛びつく。その場にしゃがみ込んでそれを手に取る。年季入りの日記帳のようだ。


 父はナターシャに絵日記や紀行録をかかせては満足げに読んでいたが、自分が書いた日記や旅の感想はけして見せてくれなかった。見せてもらえないとなると、逆にどんどん気になるものだ。

 父がどんな言葉で何を残しているのか、単純な興味でナターシャはそのノートの最初のページを開く。


『1672年8月11日

 今日はカメリアと散歩に出かけた。遠出はできないが、外の空気を吸うと晴れやかな気持ちになるようだ。』


『1672年8月27日

 今日はルドルフとナターシャが喧嘩をして大変だった。二人とも大きくなったものである。大人の手に負えなくなってきた。喜ばしいことだ。』


 日付は13年と少し前、ナターシャがまだ4歳の頃だ。

 飛び飛びの短い日記で、やはり書いているのは家族のことばかりである。カメリアはナターシャの母、ルドルフは兄の名前だ。


 数ページめくるだけでいくつものエピソードが書き留められているのがわかる。父が家族のことを愛していた証拠のようなノートだった。

 ナターシャは丁寧にそのノートを閉じ、懐にしまう。


 ナターシャは父と一緒に何度も旅をしていたから、父の人となりをよくわかっている。愛情表現は下手だが、親バカなことも知っている。

 だから、このノートを本当に読むべきなのはナターシャではない。本邸で父の跡を継ぎ働く兄にこそ読ませるべきだろう。

 

 まったく、せっかくこんなに家族を大切にしているのに、家族からそれを隠していては意味がない。伝わらないのなら思っていないのと同じである。


 もういない不器用な父に呆れたような愛おしいような感情を抱きながら、ナターシャは立ち上がる。


 日記を見つけてしまったせいで、物置に入ってから数分は時間が経っている。

 ナターシャ一人の夜なら隅から隅までこの部屋を探索したいところだが、今日はアルバート王子とテオドアがいる。


 そろそろ二人ともお風呂をあがる頃だろう。

 ナターシャは物置部屋を出て、先ほど見つけ出した父の寝巻きを2着持って浴場へ向かった。



   *   *   *



「寝間着の用意、ありがとうございます」

「着心地も良くて快適だよ。このホムラガイというのも便利でいいね」


 湯浴みを終えたアルバート王子とテオドアが、応接室のソファでくつろいでいる。

 ナターシャもさっさとシャワーだけ浴びてきた。自前の寝間着に着替え、髪は軽く拭いてから頭のてっぺんでお団子結びにしている。高貴な来客に見せる恰好ではないが、旅先で急遽なのだから無礼講でいいだろう。


 アルバート王子の手には、温風を吹きだすホムラガイが握られている。先ほど追加でエサを与えたので、元気に王子の髪を乾かす乾燥機として活躍中だ。


 ナターシャは、二人が座るソファの前に置かれたローテーブルに、昼間使っていたリュックの中身を並べていく。

 すでに話題に上がったホムラガイやルーンディアの角も含め、この世界に生息する不思議な動物や植物の力を借りた便利道具の数々である。貴族の豪勢な暮らしに使われているものもあれば、マイナーなものもある。


 アルバート王子とテオドアは、テーブルの上に広げられたいくつかの道具を見ながら感心したような声を上げた。


「へえ、これをお使いですか」

「私は初めて見たものばかりだね……」


 興味深々な二人に向けて、ナターシャは気分を良くして言う。


「では僭越ながら、私の旅道具たちをご紹介します」

ナターシャパパ回その2。

ちなみに、ナターシャの母カメリアは12年前に病没しています。ナターシャが産まれたときにはもう病を患っており、あまり一緒に出かけることはできませんでした。

なのでナターシャ一家の勢力図としては、

ナターシャ&父モンドール→チームアウトドア(旅好き)

兄ルドルフ&母カメリア→チームインドア

という感じです。

これからもっと深い話をすることもあるでしょう。どうぞお見知りおきください。


次回からは、この物語のファンタジー要素である“輸入生物”のお話です!

明日夜に更新しますので、よろしくお願いします!

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