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【完結】旅好き辺境伯令嬢の気まま紀行録  作者: りっく
【第1章】春の旅:パルメール領

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8.探検!父の部屋~私室編~

 風通しの良い2階の一室に三人分の湿った服を干し終え、ナターシャは息をつく。

 乾燥機がわりに温風を吐き出すホムラガイも近くにセットしてきたので、アルバート王子たちの上質な服が生乾きになることもないだろう。


 アルバート王子とテオドアには先に男二人で入浴してもらい、その隙に今更ながら来客の準備を進める。

 ナターシャは服だけ乾いたものに着替え、湿った髪にはまだタオルを巻きっぱなしのズボラな格好だ。


 もう50年本来の用途では使われていない田舎の屋敷である。大したもてなしは期待しないでほしい――と念を押したうえでナターシャは探し物をしていた。


 王子たちの潤沢な装備の中には、衣服は外出着しかなかった。

 野営をするつもりだったのだろうから当然といえば当然だが、せっかく暖かい屋敷の中にいるのだから、雨に降られてほんのり湿った重たい服を着て一晩を過ごさせるのもしのびない。


 そこで、この雪割邸を旅の宿として使っていた父の衣類が残っていないかと思ったのである。

 父の使っていた部屋は、ほとんどそのまま残してある。ナターシャが入るのは書斎くらいで、私室や物置は整理するどころか入ったこともないくらいだ。

 まるで来年もまた泊まりにきますと言わんばかりの――というか実際そのつもりだったのだろう放置された荷物に、ナターシャは手を付けられていなかった。


(いい機会だし、掘り出し物の一つでも見つけてやりましょう)


 ソワソワしながら、ナターシャは父の部屋の扉を開ける。父の部屋と言っても、寝室は別にあるので、正直何をしていた部屋なのかはわからない。

 ナターシャのように旅行の記録をつけていたのかもしれないし、何か大切なものを保管しているのかもしれない。勇み足で中に入って、ナターシャは思わず声を上げた。


「な、何これ、もったいない!」


 というのが率直な感想である。


 部屋の壁一面が、木製のワインセラーになっていた。もちろん、大量の酒瓶が保管されている。

 ナターシャは酒には詳しくないが、これだけあればかなりの価値があるのではなかろうか。酒好きが見れば泣いて喜ぶに違いない光景だが、意外でもあった。


「父様ってお酒をそんなに飲む人だったかしら……」


 記憶の中の父親はそんなに酒にうるさかった覚えがない。もちろん飲むときは飲むのだろうが、こだわりがあって買い揃えるような印象がなかった。

 子どもの前で見せないようにしていただけなのだろうか。もしくは、体が弱くて自由に食べるものも選べなかった母への気遣いか。


 本邸ではなく雪割邸の端の私室に保管しておくということは、隠れた趣味だったのだろう。


 売るわけにもいかないが、このまま腐らせていてももったいない。実家の兄に伝えたら引き取ってくれるだろうか。壁一面を覆うワインの瓶はナターシャ一人でどうにかできる量ではないので、後日誰かに手伝ってもらうしかないだろう。

 1本くらいくすねてやろうかと思ったが、家に泊める男性にいきなり酒を与えるのが貴族女性的にどうなのかわからないのでやめておいた。もてなしの質としては悪くないのだろうが、何か含みが生まれても困る。


 父の意外な趣味に驚きながらも、本題であるアルバート王子とテオドアの寝巻き探しに戻る。

 父はゴツゴツした見た目に似合わぬ几帳面な人で、自分の服は自分で洗って丁寧にクローゼットにしまっている。本邸でもそうだったので予想はついていたが、やはりここのクローゼットも隅々まで整頓されていた。


 衣装掛けにかかっているのは、旅装束として着ていた外出着だ。見覚えのある服を見て懐かしさをおぼえながら、衣装掛けの下にあるタンスの引き出しを一つ一つ開けてみる。

 一番上の段には下着やインナー、二段目にはバスローブ。三段目を開けると、部屋着にしていたようなゆったりとしたシャツやパンツが見つかった。

 大胆で無骨な姿ばかり見てきたから忘れがちだが、父はこの広大なパルメール領の前領主さまである。部屋着とはいえ良質なものを着ていただろう。物持ちの良い父に感謝しながら、できるだけサイズの小さそうなものや調整できそうなものを選ぶ。

 アルバート王子もテオドアもけして小柄ではないが、ナターシャの父ほどの大男でもない。特にアルバート王子は細身なので、ウエストがずり落ちたりしないようなものを選ばなくては。


 引き出しの中をあらかた見終えて、ふわふわの服を上下セットで2着、取り出した。


 本来の目的を達成し、ナターシャはあらためて室内を見渡す。


 入ってきてすぐ目に飛び込んできた壁一面のワインセラーに気を取られ、かなりの衝撃を受けていたが、それ以外は何の変哲もない部屋である。中央に質素な机と椅子が配置され、書き物ができるようになっているが、机の上には1本の羽根ペンだけ。

 机の下に引き出しがあるわけでも、近くに本棚なんかがあるわけでもないので、書き物をするときは何かを別のところから持ってきていたのだろう。秘蔵の日記でもないかと思っていたのだが、少なくともこの部屋にはなさそうだ。


 ワインの銘柄を一つ一つ確かめたり、机に隠れた引き出しがないか探ってみたりしたいところだが、あまり悠長にしていると湯浴みをしている二人が出てきてしまう。家主としてあまりのんびりはしていられない。


 この部屋の探索は後日に回し、室内の扉から繋がるもう一つの部屋――父の使っていた物置部屋に行ってみることにした。

少し本筋からそれて、ナターシャの家族のお話です。次回まで少々お付き合いください。

ナターシャが旅を好きになり、紀行録を書くようになったきっかけの父親。名前は本編にはまだ出てきませんが、モンドールさんといいます。

これからもたびたび話にあがると思いますので、大きな山男をイメージして読んでいただければ( ´艸`)

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