三話
呆気に取られる私を他所に、殿下の演説は続く。
「本当なら、大罪を犯した貴様には広場での公開処刑がお似合いだが、真の聖女であるミミリアの慈悲により、私との婚約破棄と魔の森への追放で勘弁してやる! ミミリアに感謝するんだな!!」
婚約破棄に魔の森への追放? いや、その前に治癒の力って、おま……
言われた内容を理解する前に、あっという間に殿下付きの近衛兵に囲まれ、パーティ会場を連れ出され、着の身着のままで馬車の中に突き飛ばされる。
そのまま、乱暴にドアが閉められ、馬車が荒々しく走り出す。揺れる馬車内で考えが纏まるはずも無く、一昼夜殆ど休みなく馬車に揺られて、魔の森に運ばれてしまった。
御者も推定王太子殿下側の人間らしく、馬車からぐったりした私を乱暴に引きずり出し、森の中に突き飛ばして、去っていってしまった。
……え、いや、何が何だったの?
とりあえず、馬車酔いしまくって気持ち悪かったので、気分が治るまで、森の木に背中を預けて休む事にした。
* * *
だいぶ落ち着いたので、状況を整理しよう。数回しか会っていなかったから、確信が持てなかったが、あの訳の分からない事を言っていたのが王太子殿下でいいんだよね?
で、私が偽聖女で、治癒の力を持つミミリアさん? が真の聖女??
まず、そこから分からない。
私が神殿で習った基礎知識によると、この世界の魔法と聖女・聖人については、こんな感じだったはず。
魔法について、この世界では主神である創生神様と7人の女神様がおり、私達人間は、それぞれ7人の女神様の内のお一人から祝福を賜って魔法を行使する事ができる。
その為、人間が使う魔法の属性は、女神様と同じ7属性(光・闇・火・風・土・水・木)。この内の光と闇は、適性を持つ人が少ない上に、他の5属性と違って、司る現象に干渉する以外に、副次的な力も使える事から、レア属性と言われている。光なら、光そのものと治癒。闇は、闇そのものと鎮静。
次に聖女・聖人について、こちらは女神様から直接加護を賜った存在で、女性なら聖女。男性なら聖人と呼ばれる。
加護を賜ると、瘴気を浄化する事の出来る「浄化の力」を使えるようになるほかに、通常の人間ではあり得ない威力の魔法を行使することが出来る。ただ、魔法の属性自体は変わらない。
例えば、過去の逸話だと、枯れたオアシスを甦らせた水の聖女や、一晩で岩の城を作り出した土の聖人がいたそうな。(私もそんな立派な過去の聖女・聖人に倣って励むようにと、耳にタコができるくらい話を聞かされたもんだ)
まあ、まとめると、木の属性しか持たない木の聖女である私が、光の属性である治癒を出来ないのは、当たり前だという事だ。
……ほんとに、聖女だろうが、なんだろうが、自分の属性以外の力をが使えるわけないじゃん。これ、基本知識って神殿の人達は言ってたよ? 王太子殿下も、周りにいたお貴族様達も知ってるはずだよね? 私の故郷みたいに、学びの機会も少ない、田舎の平民じゃあるまいし。
あと、私は神殿に正式に認められて、聖女として国内各地を巡り、瘴気溜まりを浄化した実績があるけど、そのミミリアさんは? 何したの??
それにもし、私以外に聖女が現れたら、神殿の人が大騒ぎするはずだけど、そんな素振り無かったよ?
それから、私が神官の人達を騙した?
むしろ、私が聖女になったら、問答無用で王都の神殿に連れて来て、訓練やら教育やらやって来たのは、神官様方ですが? こっちの要望とか、ほぼ聞く耳持ってもらえませんでしたが?? そんな状況で、誰を騙せたと?
あと、罪状も意味不明だ。私と殿下の婚約って、王様が決めたやつじゃなかったでしたっけ? 殿下が勝手に破棄して良いやつなの? それから追放先だけど、何で「魔の森」なの?
私がどこを浄化してきたと??
そう、私が国内を巡った浄化の旅で一つだけ浄化しきれず、応急処置のみ施した場所。それがこの「魔の森」である。
200年前に先代の聖女様が命をかけて封印したものの、その封印は長い時の中で徐々に緩み、漏れ出た瘴気によって、森の中の植物や動物が魔物化し、かなりの危険地帯となっていた。
しかし、それも過去の話。瘴気を全部浄化出来なかったものの、周囲の魔物は、この領地の騎士達と一緒に退治したし、漏れ出た瘴気も浄化済み。問題の封印も周りに浄化の力を込めた聖樹を生やして補強済み。
ここはもう危険な「魔の森」では無く、ただの深い森なのだ……。




