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悲しき仮面  作者: 碧野 颯
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嵐の幕開け 2

階段を上がってくる足音が聞こえた。

 徐々にこっちの部屋に近づいてきて、待合室のドアが開いた。


「おぉー晃、元気だったか」

「兄貴、お久しぶりです」

 仲宗根は立ち上がり、ゆっくりお辞儀をした。


彼は勅使河原会の幹部である、比嘉組組長の比嘉勝正だ。

仲宗根の兄貴分で組織の№3である。


彼は抗争中、敵対組織に刺され右目を失った。その為、今は黒の眼帯をしている。

比嘉は、沖縄市と北中城村を仕切っている。

彼と仲宗根は、かれこれ十五年の付き合いになる。

元々県内随一の武闘派で殺しに精通しており、裏社会では有名な人物だ。

射撃で国体を目指す選手だった、という過去がある。


「すごい雨だな。チッ、俺のスーツが濡れたじゃねえか」

「…」

「どうしたんだよ晃、そんな顔して?」

 仲宗根が座っている席の右側に比嘉が座った。思っていたことが、つい顔に出てしまったようだ。


「うちが雇っている運び屋がパクられてしまって。このままだとビジネスが成りゆかないというか…」

「そういうことか」

と、比嘉が眉をひそめた。


「わかった じゃあ、うちの若いもん使えよ」

「えっ…」

 比嘉の言葉に仲宗根は戸惑った。

 村井も驚いた表情で比嘉を見ている。


「だからお前が雇っている運び屋が捕まってビジネスに影響するんだろ?」

「はい」

「じゃあ、俺の若いもんが運転得意だから使え」

 軽く言っているが、そこに比嘉の情けを感じる。


「いいんですか?」

「おう、その代わりちゃんと面倒みてくれよ。あいつ最近子供が産まれて、養っていかないといけないからな」

「兄貴 ありがとうございます」

 仲宗根と村井は深く頭を下げた。


「いいよ頭上げてくれ。困っていたら助けるのが兄弟だろ」

「本当にありがとうございます、兄貴」


 頭を上げ比嘉を見ると、彼は笑顔でこちらを見ていた。

 仲宗根と村井は椅子に座った。

 比嘉がポケットからタバコを取り出し口にくわえた。

 それを見て、仲宗根は素早くライターを取り火をつける。

 仲宗根はタバコは吸わないが、比嘉のタバコに火をつける為に持っている。


「兄貴のビジネスは順調ですか?」

「順調だ。密輸酒はすごく儲かるぞ」

 比嘉が煙を口から出し答えた。

 比嘉が行っているのは密輸酒ビジネスと賭博ビジネスだ。

 彼が密輸する酒はブランド高級酒で、高額だが飛ぶように売れる。


「だけど最近サツの連中が厄介だな、現場まで尾行してくる」

 面倒くさそうに比嘉が言った。

「本当ですよ、ここに来るときも駐車場で乗り換えてきたんです」

「俺もだ。それに電話も盗聴されているかも知れないから取引をする時は隠語を使っている」


 隠語とは特定の職業、仲間の限られた人物の間で通じるようにした語だ。

 一般人が聞いても理解できないだろう。勅使河原会独特の暗号みたいなものだ。


「まぁ警察も厄介だが、最近俺たちを襲っている奴らがいてな」

 比嘉が頭をかきながら言った。

「俺の舎弟が襲撃かけられて…二人殺された」

 比嘉は怒りを露わにしているように見えた。

 仲宗根は数日前、自分が襲われたことを話した。


「俺も襲撃されました」

「お前もか?」

と、驚いた表情を見せた。


「えぇ、道を歩いているときに刃物を持った男に」

「チっ、また別の奴らが勅使河原会に喧嘩を吹っ掛けてきているな」

 そう言いながら、煙を吐いた。

「まぁいい、俺の舎弟を殺した報いは受けさせる…」

 吸っていたタバコを強く握りつぶした。

「あぁ悪い、声を荒げちまって」

「いや 気にしないでください舎弟の首取られて黙っている親父なんていませんよ」



 再びドアが開き男が入ってくる。

「ご無沙汰してます。仲宗根の兄貴と比嘉の兄貴」

「隆二か、久しぶりだな」

 仲宗根が言った。


彼は喜屋武 隆二。


俺たち四十代後半とは違い、二十代という若さで勅使河原会の幹部だ。

彼は国頭村と普天間で、麻薬ビジネスを仕切っている。

グローバルな見識を持ち、メキシコ麻薬カルテルと取引をし海外まで手を伸ばしてる。

喜屋武はいつも黒のビジネスシャツに白のパンツを着用している。

その為、陰ではパンダと呼ばれている。

可愛らしい名前とは裏腹に、一度キレたら手に負えない凶暴な男だ。


「喜屋武の組長、ご無沙汰しております。」

 村井がお辞儀をした。


「すごい台風ですね」

「あぁ、俺の家は停電になった」

「えっ、本当ですか」

 まさかというような顔だ。

「だから、今日はホテルに泊まらないといけない」

「喜屋武」

 比嘉が呼びかける。


「お前の所には襲撃きていないのか?」

「え?兄貴たちもそうなんですか?」

 驚いた表情を見せた。


「やっぱりお前もか…」

「えぇ二日前に…火炎瓶を倉庫に投げられて、半分以上の物がやられました。兄貴たちは?」

「こいつは刃物を持った男に襲われた、俺は舎弟二人殺された」

「殺されたんですか…」

「一体どこの奴らが?」


 喜屋武が独り言のように呟いた。


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