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悲しき仮面  作者: 碧野 颯
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戦の始まり6

組長室を出ると、椅子に座って作業していた組員たちが立ち上がり、頭を下げた。

「組長、お疲れ様です」

周囲を見渡すと、若頭の村井の姿がなかった。

「あれ?村井はどこ行った?」

「カシラなら倉庫に行きました」

村井は、組のビジネスをすべて仕切っている。向こうで集計でもしているのだろう。


「ちょっとコンビニに行ってくる」

「組長、買い物なら俺が行きますよ」

「いいよ。気晴らしがてら行ってくる」

「そうですか、お気をつけて」

事務所を出ると、昼より風が強くなっており、空も曇っている。

コンビニまでは歩いて五分ほどだ。

店に入り、栄養ドリンクと甘い菓子を手に取って会計を済ませる。

外に出て袋からドリンクを取り出し、一気に飲み干した。そして、ゴミ箱に捨てて事務所に戻ろうと歩き出した。


「仲宗根さん」

と、背後から名前を呼ばれた。

振り返ると、フードを深くかぶったがっしりとした体格の男が立っていた。

「何か?」

相手は一言も喋らない。

「何か用ですか?」

「…」


その時、男がポケットから鋭いナイフを取り出すのが見えた。

男は仲宗根の腹部めがけてナイフを振りかざしてきた。

仲宗根は素早く後ろに身を引き、間一髪でかわした。

「なんだ、お前!」

男は再びナイフを振り下ろし、仲宗根は男の手をつかんで振り切った。ナイフが地面に落ち、音を立てた。


次の瞬間、フード男の拳が仲宗根の顔面に直撃し、ものすごい衝撃で脳が揺れた。しかし、仲宗根は渾身の力を振り絞り、男の顔面に拳を叩き込んだ。

 男はふらつき、間髪を入れずに腹にも拳を打ち込むと、男は苦しそうな声を漏らして膝から崩れ落ちた。

 顔面を蹴り上げると、フード男は大の字に倒れた。


「はあはあ…誰だ、お前は?」

仲宗根は男のフードを外した。

血だらけの顔、口元に髭を生やしている。

よく見ると、かなり若い男だった。

その時、男が地面に落ちていたビール瓶を掴み、仲宗根の頭に叩きつけた。

瓶は割れ、破片が飛び散る。

仲宗根は膝をつき、男はその隙に急いで立ち上がり路地裏へと逃げ去った。


「ああ…くそ」

ゆっくりと立ち上がり、彼の後ろ姿を見送った。


「どこのもんだ?見たことがないやつだ。去年まで県内のヤクザと抗争していたが、手打ちで終わったはずだ…また別のやつらが俺たちに仕掛けようとしているのか…」



「これで大丈夫です。浅い怪我でよかったですね」

「先生、ありがとうございました」

村井は闇医者に茶封筒を渡し、礼を言った。

「それでは、仲宗根さん、傷口はこまめに消毒してください」

医者は組長室を後にした。


「何やってんだよ、お前ら!」

村井が組員を怒鳴りつけた。

「すみません!」

組員たちは頭を下げた。

「馬鹿野郎!組長がこんな目にあってたのに、お前らは事務所にいたのかよ!」

近くにあったゴミ箱を思い切り蹴り飛ばした。


「村井、もういい、俺が一人で行くと言ったんだから」

「襲ってきた奴はどこの組のもんですかね?」

「わからん、顔は見たが、見覚えのない若い男だったな」

「もしかして、手打ちしたはずの…」

と、白のジャージを着た組員が小声で言った。

「いや、あそこの組とは話がついている」

「また新しい奴らが抗争を仕掛けてきましたね」

村井が険しい表情をした。

「やられたらやり返すだけだ」


仲宗根は頭を上げ、目を閉じた。


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