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悲しき仮面  作者: 碧野 颯
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戦の始まり5

彼は沖縄県警組織犯罪対策課の課長、前田雅彦で、仲宗根の高校の先輩でもある。

警官と聞いて普通はヤクザと相反する存在だが、彼はまったく逆だ。

ヤクザから賄賂をもらい、警察内部の情報を仲宗根たちに提供している。

沖縄県警の中でも相当な汚職警官で、金にしか興味がない。

ここに来るときも大抵は金目当てだ。

抗争で一般人に被害が出ても気にもかけない、冷酷な人間である。

前田が管轄している組織犯罪対策課には、彼と同類の警官がほとんどで真っ当な警官

はごくわずかしかいない。

従って、今回張り込みをしている警官は真っ当な警官ということになる。


「邪魔するぜ」

「先輩、ここに来て大丈夫なんですか? サツが張り込んでいるのに見られたらどうするんですか?」

前田は少々笑顔を見せた。

「大丈夫だ、裏口から入ったから」

「そうですか。どうぞ座ってください」

「じゃあ、遠慮なく」

前田は組長室の中央にあるソファーに腰を下ろし、その向かいに仲宗根が腰を下ろした。

「どうしたんですか?」

「ああ、新しい情報が入ったからな」

タバコを口にくわえ火をつけた。

前田はかなりのヘビースモーカーでセブンスターを愛用しており、一日に三箱も消費

する。

このご時世によく吸えるな、と仲宗根は口には出さないが内心思っている。


「先輩、タバコやめたらどうですか?」

「この前検査で引っかかったよ。肺年齢が八十歳だってさ」

「それで、情報って?」

煙を吐き出しながら前田が答えた。


「ああ、今週の金曜日、県警が勅使河原会関連の組にガサ入れを行うそうだ。」

「今週の金曜日ですか?」

「そうだ。まぁ、気をつけろよ」

「わかりました。情報提供ありがとうございます」


仲宗根は前田には感謝している。

彼がいなければ仲宗根たちはとっくにサツに逮捕されていただろう。

「この情報は高くつくぞ」

前田がネチネチとした口調で言った。毎回この瞬間が緊張する。彼はいつも相場より高い額を要求してくるからだ。


 200か、それとも300万か・・・?

 仲宗根の額にうっすらと汗がにじんだ。

前田はまだ金額に悩んでいる様子だ。

「よし、決めた!」

急な大声に驚いた。

物事を決めた時、彼は必ず大声で「決めた!」と叫ぶ。

この癖は高校時代から変わっていない。


「100万だ」

仲宗根は安堵した。

いつもの前田なら2〜300万は余裕で要求してくるのに、今日は珍しい。

仲宗根は盗難車ビジネスを行っているため、百万ならお安い御用だ。

「100万ですね、わかりました」


組長室の角に設置された金庫にシノギで稼いだ金を保管している。

過去に強盗に入られ、金庫ごと持っていかれたことがあったため、今では金庫が少しでも動いたら警報が鳴る仕組みになっている。

仲宗根はダイヤルを回して金庫を開けた。

中には大量の札束が保管されており、一億はありそうだった。

その中から百万を取り出し、金庫を閉めてから前田に手渡した。

前田は札束を受け取り、スーツの右胸ポケットにしまった。

仲宗根は左ポケットに目をやった。


そこにはスミス&ウェッソンM36がしまわれていた。

1950年代に「チーフスペシャル」として知られていたもので、日本の警官がよく使う銃だ。

映画でもよく見かける口径9ミリ、銃身47ミリ、装弾数五発のリボルバーである。銃を見た瞬間、仲宗根の脳裏に懐かしさがよぎった。


仲宗根はかつて、20年前に捜査一課に所属していた刑事だった。

県警でも優秀と評されていたが、日々のストレス解消のためギャンブルにのめり込み、最終的に辞めざるを得なくなった。

 無一文となり、公園のベンチで日々を過ごしていたところ、勅使河原会長に拾われて極道の道を歩むことになったのだ。


「また何か情報があったら、よろしくお願いします」

「ああ、またな」

「今度飯行きましょう」

「おう、またうまい店を見つけたから、今度行こう」

「その時は先輩のおごりですよね?」

仲宗根は冗談っぽく言った。

「当たり前だ。裏社会の人間にはおごられたくないからな」

「ちょっと、どういう意味ですか?」

二人は笑った。


前田がソファーから立ち上がり、仲宗根は組長室のドアを開けた。

「また何か情報があったら寄らせてもらうぜ」

「ええ、お待ちしてます」

前田は組長室を出て、仲宗根はドアを閉めた。

外を見ると、日が落ちて暗くなっている。壁にかけられた時計は午後5時半を指していた。

 書類確認が長引きそうだったので、気分転換にコンビニで飲み物でも買いに行くことにした。


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