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悲しき仮面  作者: 碧野 颯
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悲しき仮面

「私は…津波古だ…」

「津波古?だれ?」

と、比嘉は問い返した。


「勅使河原を殺したのを、あの半グレ組織のせいにしてくれて好都合だったよ…お前らの大好きな勅使河原を殺したのは…私だ」

「えっ?」


比嘉は思わず息をのんだ。

頭が混乱する。会長を殺した?どういうことだ?


「頭、何を言っているんですか?」

と、仲宗根が問い詰めた。


その瞬間、仲宗根の頭の中にある記憶が蘇る。


勅使河原会の組員が誤射で殺した女性の夫の名前――それは津波古。

あの津波古株式会社の社長だった。

しかし、目の前にいるのは大城そのものだ。


津波古は話を続けた。

「勅使河原が死んだ日、私は勅使河原と、自分以外の酒に下剤を仕込んだ。案の定、お前らは腹を痛めてトイレに行き、私は勅使河原と二人きりになった。私はこの時を待っていたんだ。懐から消音付きのピストルを取り出し、あいつの体に銃口を向けた。手が震えたが、引き金を引いた。あいつは、一番信用していた男に裏切られたと思いながら死んでいった…」


津波古の抑えていた怒りが爆発する。

「お前らのせいで…私の妻は死んだ…お前らのせいで!」


そう叫びながら津波古は銃を取り出し、発砲した。

その目には憎しみと悲しみが浮かんでいる。

            

「どうして…どうして……あいつが(嫁)が死ななければならなかったんだ…」

津波古の声は涙で詰まっている。

「彼女は何もしていない。いつも笑顔で優しくて、どんなことにも一生懸命だったのに…なぜ、彼女が死ななければならなかった。お前らが死ねばいいだろう!」

その時、比嘉が津波古の銃を奪おうと動いた。


「動くな!」

津波古は銃口を比嘉に向ける。

「本当に頭じゃないのか?」

と、仲宗根が呟いた。


「じゃあ、本物の頭はどこにいるんだ!」

と、比嘉が声を荒げる。

津波古は冷笑を浮かべた。


「本物の頭、そいつは、私の顔を見て驚いていたよ。まさか自分と同じ顔の人間に殺されるなんて思いもしなかったんだろうな」

比嘉が怒りを込めて叫ぶ。

「貴様…!」

津波古は低く呟く。


「これで分かっただろう。大切な人を亡くしたらどういう気持ちになるか…彼女は戻ってこない。私はこの爆弾の安全ピンを外し、お前らへの復讐を果たす。そして、妻のもとへ行く」

津波古は目を閉じ、深呼吸を数回繰り返す。

仲宗根の心臓は早鐘のように鳴っていた。


「じゃあ、そろそろ行くか…」

津波古がピンを外そうと手をかけた瞬間、ドアが開く音がした。


「全員動くな!」


部屋にスーツ姿の中年男性と若い男性が、銃を構えたまま入ってきた。

「津波古さんですね、私たちは警察です」

「…警察」

津波古は眉をひそめる。


「まず、その銃を下ろしてください。そして、その手にかけている安全ピンも」

津波古はため息をついた。

「邪魔をするな…今、私の大切な人を殺した外道に制裁を与えるところだ!」


南城は銃をしまい、静かに語りかけた。

「こんなのは間違っています。あなたの奥さんも復讐を望んでいませんよ」


津波古は怒りに声を震わせた。


「お前に何が分かる、彼女が…妻が…!」

「もし私があなたの奥さんだったら、そう望みません」

「それはお前の意見だろう!」

津波古は声を荒げた。


「もういいだろう。早く妻のところへ行かせてくれ…」

南城は落ち着いた声で続けた。

「前里専務もこんなことを望んでいませんでしたよ」

「え…」

津波古は刑事を見つめた。


「前里専務は泣きながら頼みました。『社長を止めてくれ。あの人を失ったら社員が路頭に迷う自分も生きていけない』と」

その言葉に、津波古の手は一瞬止まり、安全ピンから手を離す。


「前里専務はあなたを守るために動いていました。不正取引を示す資料を捏造し、あの廃墟に置き、あなたを捜査線上から外そうとまでしたんです。彼は全てを自白しました」

「…やめろと…言ったのに」

津波古は呟いた。


「多くの社員と前里専務は、あなたを必要としています。ですからこんなことはやめてください。奥さんの分まで生きてください。彼女も、それを望んでいるはずです」

津波古は顔を下に向け、動かなくなった。


南城がゆっくりと近づく。

しかし、津波古は突然顔を上げ、安全ピンに再び手をかけた。


「こいつらには、死んでもらわなければならない!そして早く妻のところへ行きたい…」

津波古の手は小刻みに震えていた。

深呼吸を繰り返し、静かに言った。


「刑事さん、前里に伝えてください…『お前はとても優秀だ。私のために、ありがとう。会社はお前に任せた』と」


その言葉と共に、津波古が安全ピンを抜いた。

カチン、と音が響く。

部屋に緊張が走る。


「上原!」

南城は上原に体当たりするように抱え込み、部屋の外にとび出した。

仲宗根も比嘉のもとへ駆け寄ろうとするが、その距離が果てしなく遠く感じられる。


「綾子ォォォォー!もうそっちに行くからな…」


「兄貴!!!」


「晃!!!」


そして津波古の体に巻きつけている爆弾が破裂した。

段々と迫りくる黒い煙が視界を襲った。

そして辺り一面何も見えなくなった。


三人の姿は見えない。



………とても静かだ……


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