罪と罰 3
仲宗根たちは、足を引きずりながら部屋を出た。
このまま階段を下りても、出口には間に合わない。
爆発に巻き込まれるのは確実だ。
ふと、比嘉が何かを思い出した。
「外にゴミ置き場があった!この建物の真下にゴミ袋の山があったはずだ。そこに飛び降りればクッションになるかもしれん!」
仲宗根は廊下の窓を割り、真下を見た。
比嘉の言う通り、ゴミ袋の山がある。幅も十分だ。
ここから飛び降りるしかない。
「ここから飛び降りるぞ!真下のゴミ袋の山にだ」
「まず頭からいってください!」
大城は震えながら窓に身を乗り出し、飛び降りた。
ボスン!という音が響く。
真下を見ると、大城がゴミ袋の山に倒れている。彼はすぐに立ち上がった。
「頭!大丈夫ですか!」
「あぁ…」
「兄貴、先に降りてください!」
比嘉も肩を借りて飛び降りた。
「先輩も早く!」
「俺が飛び降りたら、すぐお前も来い!」
先輩の前田はそう言い、窓から飛び降りた。
組長室の爆弾のカウントダウンは10秒を切っていた
――9、8、7…
仲宗根も深呼吸をし、窓から体を乗り出す。
ピーピーピーという音が耳に響き、彼は飛び降りた。
建物が遠ざかる…
その瞬間、爆発が起きた。
炎が窓を突き破り、仲宗根は全身に熱さを感じながら、ゴミ袋の山に着地した。
「晃!大丈夫か!」
比嘉が駆け寄る。
「大丈夫です。頭は?」
「頭も無事だ。起きろ!」
仲宗根はゴミ袋の山から降り、建物を振り返った。
全階の窓から炎が吹き出し、熱気が辺りに充満している。
地面にはガラスやコンクリートの破片が散乱していた。
「仲宗根、大丈夫か!」
大城が足を引きずりながら駆け寄った。
「大丈夫です」
「間一髪だったな」
仲宗根が息をつきながら前田に言った。
「先輩、あなたがいなければ俺たちは死んでいました。本当にありがとうございました。」三人は深く頭を下げた。
「いいさ。あんたらは行け。後処理は俺がしておく」
「ありがとうございます」
そう言って、車に向かう。
車に乗り込み、エンジンをかけた仲宗根は炎に包まれた銃丸本部を振り返り、呟いた。
「終わった…」
勅使河原会と銃丸の抗争は、これで幕を閉じた。
銃丸本部への襲撃から数日後。
足の手術を終えた仲宗根は、まだ抗争に勝ったという実感を持てずにいた。
喜屋武が銃丸のスパイだった――
その事実が心の奥に暗い影を落としていた。
松葉杖を使いながら階段を上り、勅使河原会本家の奥へと進む。
大城と比嘉が待っている部屋の扉を開くと、二人がグラスを手にしている姿が見えた。
「遅いじゃないか、晃」
比嘉が笑顔で声をかける。
「すみません。渋滞にはまってしまって」
「ほら、座れ。一緒に飲もう」
比嘉が席を勧める。
仲宗根は比嘉と向き合うように座り、差し出されたグラスを受け取った。
「ありがとうございます」
比嘉がボトルを持ち上げて見せる。
「これ、頭がわざわざ買ってくださった日本酒だ。一杯は飲めよ」
「そうなんですか。頭、いただきます」
比嘉がグラスに酒を注ぐ。
透明な液体が静かに溜まっていく。
「それじゃ、乾杯!」
大城がグラスを掲げた。
それに続いて、仲宗根と比嘉もグラスを持ち上げる。中の液体が揺れる音がわずかに響いた。
日本酒を口に運ぶ。
程よい甘さが口内に広がり、緊張していた心が少しだけ緩んだ。
比嘉がふと笑いながら口を開いた。
「大半の組員を失った。これから晃と大城の頭を親分として、勅使河原会は再出発ですね。ねぇ、頭、いや、大城の親父」
比嘉の言葉に応じるように、大城の方へ目を向けた仲宗根。
しかし、大城の様子がおかしい。
顔をうつむけたまま黙り込み、低くふー、ふー、と息を漏らしている。
「頭、大丈夫ですか?」
仲宗根が恐る恐る尋ねるが、大城から返事はない。
「頭?」
仲宗根がさらに声をかける。
その時、静寂を破るように大城がボソリと呟いた。
「…馬鹿がよ…」
「はい?」
仲宗根は眉をひそめる。
大城が顔を上げる。
その表情はこれまで見たことがない冷酷なものだった。
「お前らは馬鹿だ…クソヤクザども」
何を言っているのか理解できず、仲宗根と比嘉は顔を見合わせた。
「頭、何を言っているんですか?」
「うるせえな!頭、頭ってよ!」
大城が突然机を蹴り飛ばした。
反射的に仲宗根と比嘉も立ち上がる。
その時、大城がスーツのボタンを外し、背広を広げた。
それを見て、仲宗根は全身に鳥肌が立ち、心臓が跳ね上がった。
大城の上半身には複数の爆弾が巻きつけられていた――。
片手には安全ピンを掴んでいる。
「か…頭、何をしているんですか?」
比嘉が声を震わせて問いかける。
「お前らは脳が足りてねぇな…」
大城は薄く笑いながら呟く。




