罪と罰 2
鴻巣は天井を見上げて呟いた。
「でも、それは無理かもな。そうだろ」
鴻巣がそう言った瞬間、銃声が鳴り響いた。
足に激痛が走り、その場に倒れた仲宗根。
大城と比嘉も同様だった。
「すみませんね、皆さん…」
銃口を仲宗根たちに向けた立っている男。
その姿を見て、仲宗根は言葉を失った。
「お前…なんで?」
そこに立っていたのは喜屋武だった。
頭が真っ白になり、どういうことなのか理解できなかった。
「隆二…」
喜屋武は三人が落とした銃を蹴り、手の届かない場所へ移動させた。
「…隆二…お前が…銃丸の内通者なのか?」
喜屋武は鼻で笑い
「頭や兄貴たちには悪いと思ってます…ですが、これもビジネスなんですよ」
と、答えた。
喜屋武は大城に顔を近づけ、冷たく言い放った。
「所詮、あなたたちは捨て駒ですよ。役目が終われば捨てられるだけ。感謝してくださいよ、ここまで利用してやったんですから」
仲宗根は、ショックで体から魂が抜けたようだった。
「仲宗根の兄貴」
喜屋武が名前を呼ぶ。
「死ぬ前に一つ教えてあげましょう」
仲宗根はゆっくりと顔を上げ、喜屋武と目を合わせた。
「銃丸№3の崎を殺したのは、俺です」
仲宗根はその瞬間、すべて理解した。
崎の病室にいたのは、仲宗根の子分の村井だった。
「そしてあなたがかわいがっていた村井を殺したのは…おわかりですよね?」
その言葉を聞いた瞬間、仲宗根の心の中で何かが切れる音がした。
「馬鹿だなお前ら!武闘派極道ではあるが、おつむが足りないんだよ!」
煽るように鴻巣が口を開く。
「おい鴻巣、分け前は倍にしてくれよ?」
喜屋武が言う。
「もちろんだ。わかってる」
「隆二…」
仲宗根が震える声で言った。
「お前だけは死んでも許さん」
「今から死ぬ奴が何言ってるんだ?なぁ鴻巣、さっさと殺っちまえよ」
喜屋武が笑った。
鴻巣は椅子から立ち上がり、懐から銃を取り出した。
「かわいそうだな。信用していた人間に裏切られ、挙句の果てには――くくっ」
大城の顔に銃口を向けた。
「まずはあんたからだ、大城の若頭」
大城の体は小刻みに震えていた。
「待て!」
比嘉の声が響いた。
鴻巣がそちらを振り向く。
「殺すならまず俺を殺せ、このボケが」
「ほぅ、いいねぇ…だが、お前は後だ」
そう言うと、比嘉の足を再度撃った。
「ああっ!」
「兄貴!」
「さて、気を取り直して――」
鴻巣は再び大城に視線を戻した。
「大城の若頭」
銃口を突きつけながら続ける。
「勅使河原会長のところへ送ってやるよ」
「…こんな死に方なんてな…まぁ、あいつに会えるからいいか…」
「さようなら、大城の若頭」
鴻巣が呟く。
「頭!」
仲宗根は目を閉じた。
バン! バン!
二発の銃声が鳴り響いた。
「あぁ…あぁ…」
男の苦しそうなうめき声が聞こえた。
恐る恐る目を開けると、そこには信じられない光景が広がっていた。
鴻巣と喜屋武が苦しそうな声を上げて倒れていたのだ。
「頭!大丈夫ですか!」
比嘉が大城に駆け寄った。
「ああ…大丈夫だ。」
大城は無事だった。しかし、何が起きたのか理解できない。
「仲宗根!大丈夫か?」
背後から男性の声が聞こえた。
振り返ると、その声の主を見て仲宗根は目を見開いた。
「え?先輩?」
そこに立っていたのは、沖縄県警組織犯罪対策課の前田だった。
「立てるか?」
先輩が手を伸ばす。
「あぁ…はい」
仲宗根は先輩の手を借りて立ち上がった。
「あんた、晃の先輩じゃないか!」
比嘉も驚いた表情を見せる。
「なんで、ここに?」
「運がいいよ、お前らは。ちょうどこの銃丸の本部の場所が判明してな。上の命令で張り込んでいたんだ。そしたら騒々しい音が聞こえてな」
「う…あぁ…」
喜屋武が腹部を押さえ、うめき声をあげた。
仲宗根は地面に落ちている銃を拾い、喜屋武に向けた。
「仲宗根の兄貴…」
「気安く兄貴と呼ぶな」
信用していた人間、親しい人間に裏切られた気持ちは、こんなにも辛く悲しいものなのか。
「殺すなら殺してくださいよ」
引き金に指をかけたが、それは鉛のように重かった。
かつての喜屋武の姿が頭をよぎる。
彼は仲宗根の弟分で、数少ない信用できる存在だった。
徐々に息が荒くなる。
「どうしたんですか?兄貴」
喜屋武の言葉が冷たく響く。
その時、鴻巣が笑い声をあげた。
「お前ら、このまま出られねぇよ」
ポケットからリモコンを取り出し、赤いボタンを押す。
すると――
ピッ、ピッ、ピッ、とカウントダウンを示すような音が鳴り始めた。
「なんだ、この音は?」
「あっ!」
比嘉が部屋の隅にある棚を見て叫んだ。
仲宗根もその方向を見て息をのんだ。
背筋が冷たくなる感覚に襲われる。
そこにはダイナマイトが設置されており、カウントダウンが残り40秒を切っていた。
「足を負傷したお前らが、この制限時間内に出られるわけがない。はははは!」
鴻巣は狂ったように笑う。
「おい!早く出るぞ!」
先輩が声を上げる。
「頭、立てますか!」
大城を仲宗根が助け起こした。
仲宗根は銃口を喜屋武から外す。
喜屋武は微笑みを浮かべている。
「晃、行くぞ!」
「あぁ…はい」
仲宗根は一瞬、喜屋武に目を向けた。
「行かないんですか?早くしないと死にますよ」
喜屋武はかすれた声で笑う。
仲宗根は彼の胸倉をつかみ、低い声で言った。
「先にあの世に行ってろ。俺も時期に行く。その時に話し合おう」
喜屋武は微笑んで
「楽しみですね。待ってますよ」
と、呟いた。




