隠された狂気 7
前里専務が行方不明になってから一週間が経った。
都道府県警や警視庁に情報提供を依頼しているものの、いまだ手掛かりはない。
南城たちは車である場所に向かっていた。
一歩間違えれば、崖に真っ逆さまに落ちる狭い砂利道を慎重に進む。
「急な斜面ですね」
上原はハンドルを握りながら、冷や汗をかいている。
「あぁ、気をつけろよ」
周囲は森林に囲まれ、自然豊かな山道だ。
直進を続けると、瓦葺きの一軒家が見えてきた。
辺りにほかの住宅はなく、ポツンと佇んでいる。
「ここですね」
南城がインターホンを押すと、ピンポンという音とともに足音が近づいてきた。
「はい、はーい」
かすれた男性の声とともに引き戸が開き、白髪頭の男性が姿を現した。
「恐れ入ります。こういう者です」
南城は県警のバッジを見せる。
「え? 警察?」
男性の目が大きく開かれる。
この男性は前里専務の父親だ。
息子の行方を知る手掛かりが得られるかもしれないと考え、南城たちはここを訪れた。
「はい。息子さんのことでお伺いしたいことがあります」
「勝のことか? あいつに何かあったのか!」
「少しお時間をいただけますか?」
「…ああ、わかった」
戸惑いを見せながらも、男性は南城たちを家の中に招き入れた。
客間には座布団が敷かれ、南城たちはそこに腰を下ろした。
「ちょっと待っててくれ」
と言い、男性は奥へと消える。
しばらくすると、トレイに載せたペットボトルとコップを持って戻ってきた。
コップを南城と上原の前に置き、軽く頭を下げる。
「滅多に客が来ないものでね。こんな物しかないけど」
「いえ、お気遣いなく」
男性が座るのを待ってから、南城は口を開いた。
「単刀直入に言います。あなたの息子さんが、とある事件に関与している可能性があります」
「勝が…事件に?」
男性の顔に驚愕の色が浮かぶ。
「前里専務は裏社会の人間、反社会勢力と数々の不正な裏取引を行っていたことが確認されています。そして、我々が現在調査している殺人事件にも、関与している可能性が高いんです」
「…そんな…勝が…?」
「さらに、現在息子さんの行方がわかりません。父親のあなたなら何かご存じかと思い、こうして伺いました」
「いや、ここには来ていない。何かの間違いじゃないのか!」
動揺した様子で男性は声を張り上げる。
「落ち着いてください、前里さん」
南城は胸ポケットから写真を取り出し、机の上に置いた。
それは廃墟の地下で発見された、前里専務と勅使河原会幹部の大城が一緒に写った写真だった。
「この写真の男をご存じですか? 彼は指定暴力団『勅使河原会』の最高幹部、大城憲之という人物です」
男性は写真をじっと見つめ、顔を下げた。
「…わかりません」
声は小さく、かすれている。
「最近、息子さんから何か連絡がありませんでしたか? 電話や手紙など…」
無言で首を横に振る男性。
「ほんの些細なことでも結構です。何か心当たりはありませんか?」
「申し訳ないが、本当に何も知らない。帰ってくれ」
「…わかりました。お時間を取らせて申し訳ありません」
南城はそう言うと、玄関へと向かった。
靴を履き外に出ると、南城は肩を落としながら呟いた。
「収穫なしだな」
二人は車に乗り込み、砂利道を慎重に下った。
10分ほどで大通りに出たその時、南城のポケットから着信音が鳴った。
携帯を取り出し、画面を見ると課長からの着信だ。
「はい、南城です」
「あぁ、南城。今すぐ署に戻ってこい」
「え? 何かありましたか?」
「津波古株式会社の前里専務が自首してきた」
「…え?」
南城は耳を疑った。
「今回の殺人事件の被害者を殺害したのは、自分だと供述している」
驚きで動揺を隠せない南城は、携帯を閉じると上原に命じた。
「急いで署に戻るぞ!」
上原は頷き、車のハンドルを切った。
緊張が車内に満ちる中、南城の思考は走り続けていた。
前里専務が自首…これは一体どういうことだ…?




