隠された狂気5
車を走らせ、銃丸№2後藤が現れるであろうオリエンタルリゾートへ向かった。
今日は晴天だが、冷たい風が吹いている。
「晃、大丈夫か?」
助手席の比嘉が心配そうに口を開いた。
「無理はするなよ。」
「はい、ありがとうございます。あと少しで会長と村井の仇が打てます」
大通りを直進すると、リゾートの看板が見えてきた。
すぐそばに道の駅が建っている。
「ここだな」
「おい、奴らは台湾マフィアと話し合いをする。銃丸の手下も大勢いるはずだ。正面から行けばリスクが高いぞ」
仲宗根は笑みを浮かべ、後部座席に手を伸ばして、細長いアタッシュケースを取り出した。
「スナイパーライフルです。武器屋で仕入れました」
「おお、さすがだな。だが、どこから狙う?」
「あそこです」
仲宗根は真横にある七階建ての建物を指差した。
「あの建物なら狙いやすいかと思います」
「完璧だ。行くぞ」
二人は車から降り、その建物の中へ入った。
エレベーターは故障中だったため、階段で屋上まで登ることに。
二人とも40を超えているため、屋上に着いた頃には息が上がっていた。
屋上に到着すると、アタッシュケースを開けた。
「久しぶりに持つな。腕が衰えてなきゃいいが」
比嘉はスナイパーとしてはプロ中のプロだ。
「今、何時だ?」
仲宗根は腕時計を確認した。
「11時50分です」
「あと10分だな」
比嘉はスコープを覗きながら調整を始めた。
「よし、完璧だ」
すると、グレーの高級車がリゾートのエントランスに入ってきた。
その前には黒いワゴン車が誘導している。
「銃丸か?」
比嘉がスコープ越しに確認する。
車がエントランスに停まると、中から白髪交じりの中年の男が降りてきた。
明らかに銃丸の人間ではない。
「あいつら台湾マフィアか。大勢連れてるな」
「えぇ」
見たところ20人以上の手下を引き連れている。
台湾では相当な大物らしい。
そして12時ちょうど、黒いワゴン車と二台の車がリゾートの駐車場に到着した。
車から派手な姿の男たちが降り、一人がワゴン車のスライドドアを開ける。
青いジャケットに、蜘蛛の巣のようなタトゥーを顔に刻んだ後藤が降りてきた。
奴は入口へ向かい歩き始める。
「来たな」
比嘉はライフルをコッキングした。
比嘉はスコープを覗き、引き金に指をかけた。
その瞬間、後藤が立ち止まり、仲宗根たちの方を振り返る。
そして笑みを浮かべた。
「…!」
「こっちを見たぞ…!」
次の瞬間、背後で「ドン!」と扉が開く音がした。
二人が振り返ると、銃丸の手下五人が銃口を向けて立っていた。
視線を戻すと、後藤は手を振りながらリゾートの中へ入っていく。
「動くな、じじいども。銃をこっちに投げろ!」
手下の一人が地面を撃ち、脅しをかけた。
「次は脳天ぶち抜くぞ。さっさと投げろ!」
スナイパーライフルを手下に投げ、さらに懐に隠していた銃も差し出して手を挙げた。
「残念だったな。№2暗殺計画、逆にお前らが消されるんだからなぁ」
手下は煽るように笑った。
「クソガキが!」
銃丸の手下が、比嘉の顔面に足を振った。
比嘉は地面に倒れる。
「うるせぇんだよ」
「おい!」
その瞬間、仲宗根は右手を力強く引き、小型銃を手元に引き寄せた。
袖に仕込んだスリーブガンだ。
「死ね!」
素早く発砲し、手下全員の胸に弾丸を撃ち込む。
五人は膝から崩れ落ちた。
仲宗根は立ち上がり、比嘉に手を差し伸べた。
「大丈夫ですか、兄貴」
「ああ、大丈夫だ。それより…どこから出したんだ、その銃?」
「これです」
仲宗根が袖をまくり、小型レバーを見せる。
「ああ、スリーブガンか」
比嘉が感心したように頷く。
その場で倒れていた手下の一人が
「ああ…」
と、呻き声を上げた。
比嘉はハンドガンを取り出し、その男に向け静かに引き金を引き、男を仕留めた。
再びスナイパーライフルを手に、リゾートの入口に狙いを定める。
30分後、台湾マフィアたちが守られながら車に乗り込み、去って行った。
その直後、後藤と思しき男が手下に囲まれながら出てきた。
しかし仲宗根は異変に気づく。
「兄貴、待ってください。あいつは影武者です」
「なんでわかる?」
「歩き方が違います。入る時はスマートでしたが、今は蟹股です」
「ガラをかわしたか…」
「恐らく」
「クソ!」
急いで車に戻りエンジンをかけようとするが、鈍い音を立てて動かない。
「どうした?」
「エンジンが…」
再度キーを回すも反応がない。
その時、目の前に停めてあった車から10人の男たちが降り、銃を構えた。
明らかに銃丸の手下たちだ。
「動くんじゃねえぞ!」
声が響き渡り、手下たちは車に近づいてきた。
運転席のドアが開き、手下が銃で仲宗根のこめかみを殴る。
「ぐはっ!」
激しい痛みが走り、仲宗根は意識を失った。




