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悲しき仮面  作者: 碧野 颯
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隠された狂気 3

喜屋武の病室を訪れた。

扉を開けると、ベッドで横たわりながら読書をしている喜屋武がこちらに気づき、本を閉じた。


「仲宗根の兄貴。お疲れ様です」

「元気か?」

「えぇ、暇でしょうがないですよ、あと一週間で退院です。銃丸の奴らを皆殺しにしますよ」


比嘉が部屋に入ってきた。


「よう、喜屋武」

「比嘉の兄貴。お疲れ様です」

「元気してたか?」

「はい、なんとか。比嘉の兄貴、バナナありがとうございました。美味しかったです。何か進展ありましたか?」

「あぁ。あの銃丸№3、崎の家を襲撃した…」

「奴が命乞いしたんだよ。殺さないでくれってな」

比嘉は椅子に腰を下ろした。


「殺らなかったんですか?」

喜屋武が問いかける。

「逃したら、銃丸№2後藤の居場所を教えるってよ」

「今どこにいるんですか?」

「手術が終わって、ここで寝てる」


その時、コンコンとノック音が鳴り

「失礼します」

と、村井と組員一人が入ってきた。


「病室はこっちだ」

喜屋武の部屋を後にし、崎の病室へ案内する。

「ですが、組長」

歩きながら村井が話し始めた。


「あんな野郎を信用していいんですか?」

「信用してねぇけど、本当に銃丸№2の居場所を知ってるのなら、生かしたほうがいいだろう」


ドアを開けると、奴がベッドに横たわっていた。

「明日また来る。逃げようとしたら容赦なく撃て。だが、殺すなよ」

「わかりました」

村井と組員は病室の中に入った。

帰ろうとした時、村井がドアを開けて仲宗根を呼び止めた。


「組長、こいつが組長と比嘉の組長を呼べって言ってます」

「え? でも先生は麻酔で寝てるって…」

「早めに話したいそうです」


比嘉を呼び、再び病室に戻った。

中に入ると、ベッドに銃丸№3、崎が横たわっていた。

その横にある椅子に二人は腰を下ろした。

ふぅ、と崎が息を吐く。


「早めに話しておかないと、明日には銃丸の奴らに殺されているだろうからな。明後日の正午、オリエンタルオキナワリゾートで台湾マフィアと話し合いをするらしい」

仲宗根は崎に質問を投げかけた。


「なんでお前は俺たちに寝返った? 自分が助かりたいからか?」

「俺は最初からこの戦争には反対だったんだよ。無意味に仲間を失うだけだろこんなの」

村井はペンと手帳をポケットから取り出し、素早くメモを取った。


「明後日の正午、オリエンタルオキナワリゾートか…」

書き終えると、メモを仲宗根に渡す。


「じゃあ、村井とお前、頼むぞ」

仲宗根は村井に指示を出し、比嘉と共に部屋を後にした。

部屋を出た仲宗根は、大城に報告するため本家へ向かった。



「頭どこに行ったんだ? 部屋に行ってもいなかったぞ」

「あっ、一人でどこかに出かけました」

「一人で? 護衛も付けないでか?」

比嘉が疑問を抱き、問いかけた。


「俺たちも心配だったんですが、『一人で行きたいから護衛はいい!』と怒鳴られまして…」

こんな抗争中に、一人でどこに行ったんだ?

しかも護衛も付けずに…。


外を見ると、黒塗りの高級車が駐車場に入ってきた。

車から大城が降りてくるのが見えた。仲宗根たちは外へ出た。


「頭、お疲れ様です。どこに行ってたんですか?」

「ちょっとな」

「危ないですよ。護衛を付けずに外に出るのは。どこに行ってたんですか?」

比嘉が再度問いかけた。


「息子の学校の担任の法事だ。あんなガラの悪い連中を担任の法事に連れていけるわけないだろう」

「あっ、そうでしたか」

「それで、おじきが持ってきた住所には行ったのか?」

歩きながら大城が訊ねた。


「はい。ついでに銃丸№3を見つけ、尾行しました。奴は自分の家に向かいました」

「﨑だったか? それで、殺したのか?」

「いいえ」

「え?」

大城が立ち止まり、仲宗根を睨むように見た。

「どういうことだ?」

と、声を荒げた。

「家に襲撃を仕掛けて、奴に致命傷を負わせました」

比嘉が説明を始めた。


「それで、奴は命乞いを始めました。『後藤の居場所を教えるから助けてくれ』と」

「後藤…あぁ、銃丸の№2」

「はい。それで晃が病院に連れて行き、奴から情報を聞き出しました」

仲宗根はポケットから紙を取り出し、大城に見せた。


「ここです」

「オリエンタルオキナワリゾート? 聞いたことないな」

「ここで明後日の正午、台湾マフィアと会うみたいです」

「なるほどな。よくやった。明後日、その野郎のタマを取ってこい」

大城は仲宗根の肩を軽く二回叩き、自分の部屋へと歩き出した。


銃丸の№2を始末すれば、トップの鴻巣の周りには誰もいなくなる。

抗争の終結は間近だ。


仲宗根は本部を出て、武器商人の元へ向かった。

明後日の暗殺に使う銃を調達するためだ。

時計を見ると、時刻は午後八時を過ぎていた。

仕入れたスナイパーライフルをトランクに収め、後部座席に乗り込む。


「出してくれ」

運転手に指示したその時、仲宗根の携帯が鳴り響いた。

表示されたのは喜屋武からの電話だった。

こんな時間に何事だろう?


「もしもし、隆二か?」

「兄貴…」

「どうした?」

すると、信じられない言葉が耳に飛び込んできた。


「…村井が…死んだ…」


仲宗根は急いで医者の元へ向かった。

「先生! 村井は!」

病院に駆け込むと、医者が硬い表情で応じた。

「…こちらです…」


まさか…村井が死ぬなんて…。信じられない。


医者の案内で、遺体安置所へと向かった。

無言のまま安置所の扉を開けると、遺体を見つめる喜屋武の後ろ姿があった。

その背中は悲しみに包まれているようだった。

隣に立ち、遺体を見下ろす。

そこには変わり果てた村井が横たわっていた。額には銃弾の跡が残っている。


「嘘…だろ…」

仲宗根は足に力が入らず、膝から崩れ落ちた。

「仲宗根の兄貴…すみません…」

喜屋武が深々と頭を下げた。


一時間後、少しずつ平静を取り戻した仲宗根に、喜屋武が水を差し出した。

「仲宗根の兄貴、どうぞ」

キャップを開け一口飲んだ後、仲宗根は問いかけた。


「何があったんだ?」

「あ…はい。いつも通り病室にいたんですが、いきなり﨑の病室から銃声が聞こえて…。急いで駆けつけたら、﨑も村井も、組員全員頭を撃たれて死んでいました…」

「裏切りの報復か…村井まで殺すなんて…。」


仲宗根はペットボトルを床に叩きつけた。

水がじわじわと床に広がる。

怒りを抑えながら、仲宗根は訊ねた。


「犯人は見たのか?」

「いえ…逃げた後でした。裏口のドアが開いていて…」

「本当にすみません。俺がもっと早く行っていれば…」

「お前は悪くない」

そう言い、椅子から立ち上がった仲宗根は、眠るような村井の遺体に向かい、誓った。


「お前の仇は必ず取るからな」


仲宗根は安置所を出て行こうとする。

「仲宗根の兄貴」

喜屋武が呼び止めた。

「本当にお悔やみ申し上げます」

深々とお辞儀をする喜屋武に、仲宗根は元気のない声で返した。


「あぁ…」

廊下を歩きながら、仲宗根は心に誓う。


銃丸の№2後藤、トップ鴻巣…絶対に殺してやる。

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