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悲しき仮面  作者: 碧野 颯
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隠された狂気 2

閑静な住宅街に入る。

こんな場所にもアジトを構えているのか。


キャデラックは一軒家の前で止まり、仲宗根たちは少し距離を置いて駐車した。

運転席から銃丸の手下が降り、後部座席のドアを開ける。

崎が降り、家の鍵を開けて中に入っていった。

見たところ、ここは作業場ではなさそうだ。


「なんか作業場ではなさそうですね」

「そうだな。もしかして奴の自宅か?」

仲宗根は車を家の正面に移動させた。


カーテンが閉められていて中の様子は見えない。

抗争中で用心しているのだろうか。

「ちょっと見てきます」


車から降り、忍び足で家のほうに歩いた。

どの窓もカーテンが閉められていたが、裏口のドアには小さな窓がついており、そこだけカーテンがなかった。

その窓から中を覗き込む。

作業台はなく、リビングにはソファーと巨大なテレビが置かれている。

どうやらここは奴の家のようだ。


すると、右側の部屋からスタイルのいい女性が現れた。年齢は20代くらいだろう。

銃丸№3、崎がその女性にキスをした。

仲宗根は思わず鳥肌が立った。


「あんな綺麗な女性が、あんな奴を好きになるとはな…」

仲宗根は車に戻り、比嘉に報告した。


「どうだった?」

「間違いありません。あいつの家です」

「よし、港に戻るか」

Uターンして来た道を戻り、再び港へ向かう。


ハンドガンを装備し、倉庫の扉の前に立つ裏口の組員たちに合図をおくり、仲宗根が扉を蹴破った。

銃を乱射する。

隙を突かれた銃丸の手下たちは反撃が遅れ、次々と倒れていった。

ものの数分で倉庫内の銃丸の手下は全員死んだ。


「全員やったみたいだな」

「二階も確認するぞ」比嘉が言った。

二人は階段を警戒しながら登り、事務所の扉を力強く蹴破った。

中には責任者らしき男が焦りながら書類をカバンに詰め込んでいた。


「おい、動くな」

二人は銃を向けた。


「はあ!」

と、男は手を上げた。

「殺さないでくれ…頼む…」

震えた声で男は訴えた。


男は40代後半、小太りで髪が薄く、スーツを着ている。

「あんたが責任者か?」

「あぁ、そうだ…俺はただ雇われただけだ…。」


男は体を震わせ、立つのもやっとの様子だ。

仲宗根は男の後ろに回り、ボディーチェックをした。

「何も持ってません」

比嘉は銃をしまった。


「…頼む…殺さないでくれ…」

「殺しはしねぇよ」

「ちょっと俺たちに協力してくれないか?」

「はい…?」

「あんた、銃丸№3、崎って奴の家に行ったことあるか?」

「あ…はい…」

「じゃあ、問題なしだな」


家に行ったことがない責任者がいきなり家に来たら、奴は警戒するに違いない。

「じゃあ、来い」


男は一人で歩けそうにないため、仲宗根が肩を持ち、建物から連れ出した。

車に男を乗せ、再び崎の家へ向かう。


「あんたにやってもらいたい仕事は、あいつの家のチャイムを押すだけだ。簡単だろ?」

「あぁ…はい。で、崎さん…どうなるの?」

「あぁ、死んでもらう」

「えっ…」

男は口を押さえた。


「じゃあ、俺は殺人の共犯者になるのか?」

「大丈夫だ。あんたはチャイムを鳴らすだけでいい」


崎の家が見え、再び道の端に車を止めた。


「晃、そいつに金を渡せ」

「はい」

仲宗根は胸ポケットから財布を取り出し、分厚い札束を渡した。


「えっ? 」

「あんた、こんなに金もらったんだ。警察にタレ込んだら…わかるよなぁ」

比嘉が低い声で言った。


「よし。じゃあチャイムを押すだけでいい。奴が誰だと言ってきたら名前を言え。わかったな?」

男は震えながら頷いた。


「じゃあ、行くぞ」

仲宗根は男を車から降ろし、玄関に向かわせた。自分と比嘉は見えないように扉の端に隠れる。

「変な真似するなよ」

仲宗根が小声で男に言った。


二人は銃を構える。

「押せ」

男がチャイムをゆっくり押した。


しばらくして、中から

「誰だ?」

と、いう声が聞こえた。


「崎さん? 私です。相川です」

「相川?」

足音が近づき、ガチャっと鍵が解除された。


「なんだ? どうした?」

ドアが開くと同時に、比嘉がチェーン越しに銃丸№3、崎に銃を向けた。


「死ね!」

「お前! クソ!」

崎は驚いてドアを閉めようとするが、比嘉のほうが速かった。


バン! バン!


二発の銃弾が崎の腹部に命中する。

「あああ!」

と、崎は血を流しながら家の奥へ走り去った。


「待て!」

比嘉はチェーンを撃ち壊して中に入り、仲宗根も続いた。


床には崎の血が垂れている。

キッチンの戸棚の壁に身を隠す比嘉。

崎は銃を乱射している。


「死ね! クソヤクザ!」

弾丸が壁や柱に当たり、木片や破片が飛び散る。

「腹に当てたのに、ピンピンしてやがる…」

比嘉が息を呑む。


銃声が鳴りやみ、比嘉が覗き込んだ瞬間、崎が弾切れの銃を投げつけた。

それが比嘉の顔面に直撃する。

比嘉は顔を抑え込む。


「大丈夫ですか、兄貴!」

「あぁ。それより、あの野郎を殺せ!」


仲宗根がキッチンに目を向けると、崎の姿がなかった。

床に続く血痕が裏口へ向かっている。

どうやら外に逃げたらしい。


急いで外に出ると、庭に倒れている崎を発見した。

死んだかと思い近づくと、荒々しい息を吐いていた。

腹部からは大量に出血している。


「はあ…はあ…」

背後から足音が聞こえ、振り返ると額から血を流している比嘉が駆け寄ってきた。


「死んだのか?」

「いえ、まだ息があります」

「しぶとい野郎だな…」

比嘉は崎に銃を突きつける。


「ま…待て…待ってくれ…」

崎は手のひらを見せ、命乞いを始めた。

仲宗根は

「半グレと言っても所詮ガキだな」

と、内心思った。


「何が待ってくれだ。地獄に行け」

「№2、後藤のいる場所を知っているぞ…!」

「後藤?」

仲宗根の眉が動く。

銃丸№2、顔に大きなタトゥーがあるあの男だ。


「後藤って、銃丸の№2の?」

「あぁ…そうだ。あいつの場所を教える。だから、その代わりに俺を助けてくれ…」

「はあ? 信用できるか!」

比嘉は引き金に指をかける。


「待て! 教えるから! 頼む!」

「晃、どうする、こいつ?」

「…とりあえず医者に連れていきましょう。もし本当に後藤の場所を知っているなら、抗争の終わりが近づきます」

「わかった」

比嘉は崎にしゃがみ込み、冷たく言い放った。


「俺だったら、お前の内臓をぶちまけているが、この広い心を持つ仲宗根晃が医者に連れて行くんだとよ。命拾いしたな」

「ほら、立て」

比嘉は崎の肩を担いだ。二人は銃を懐にしまい、全速力で車へ向かう。


闇医者の病院に到着し、崎は手術を受けることになった。

「もしあいつが嘘をついていたらどうする?」

タバコを吸いながら比嘉が言う。


「その時は俺が必ず息の根を止めますよ」

「あいつが逃げ出さないように、村井に見張らせたほうがいいな」

「同感です」


手術室のランプが消えた。

先生が出てくる。


「どうだ、先生?」

「心配ありません」

「話せるのはいつ頃ですか?」

「えぇ、明日には話せるでしょう。今は麻酔で眠っています」


ポケットから携帯を取り出し、仲宗根組若頭の村井にここに来るよう指示を出した。

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