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悲しき仮面  作者: 碧野 颯
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真実への一歩 2

後日南城たちは車を走らせ、ある場所に向かっていた。


大通りを右折して目的の場所に到着した。

南城が見た建物には「大城組」と大きく書かれていた。

これは勅使河原会の若頭であり、前里専務と会っていた男の組だ。

彼に話を聞こうとここまで来た。


「よし、行くか」

南城は車から降りたが、上原は運転席に座ったまま動かなかった。

「どうした? 行くぞ」

「あ…はい…」

上原はゆっくりと運転席から降りた。


どうやらヤクザが相当怖いらしい。

以前、市場でヤクザに聞き込みをした時も、南城の後ろにぴったりとくっついていた。


「大丈夫だ、そんな怖がらなくていい」

南城は上原の肩を軽く叩いた。

「はい…」

上原は深呼吸をして、大城組へ向かった。


玄関のインターホンを押すと、しばらくして低い声の男が応じた。

「はい」

「あっ、すいません。警察の者なんですが、大城さんはいらっしゃいますか?」

「は?」

低い声の男が息をのむ音が聞こえた。


「あの、すみません」

「警察が何の用だ! 帰れ!」

そう言い残して、通話が切れた。


「あの、すみません」

再び声をかけても、返事はなかった。


「切られたか…」

すると、上の階から慌ただしい物音と男たちの声が聞こえてきた。

どうやら銃や違法な物を隠しているようだ。


南城は再びインターホンを押した。

物音が続いているので出ないだろうと思った矢先、別の低い声が応じた。


「どちら様でしょう」

「あっ、すみません。警察の者ですが、大城さんはいらっしゃいますか?」

「私が大城です。どのようなご用件でしょうか?」

思いがけず丁寧な口調だったため、南城は内心驚いた。


「少しお話を伺いたいのですが、よろしいでしょうか?」

「少々お待ちください」

通話が切れ、二分後に玄関のドアが開いた。


「どうぞ、お入りください」

笑顔を浮かべた大城が立っていた。

その予想外の対応に、上原は拍子抜けした間抜けな顔をしていた。


「こちらです」

大城が案内する中、組員たちがいるデスクの間を歩いていく。

スキンヘッドの男が睨んでいるのを見て、上原は思わず顔を下に向けた。


案内された組長室は、勅使河原会の代紋が飾られた空間だった。

大城は皮製の椅子を指し

「こちらにお座りください」

と、促した。


「どうも」

南城は椅子に腰を下ろした。

大城も席につき、三人が向き合った。


「先ほどはうちの舎弟が無礼な態度をとってしまい、申し訳ありません」

その対応は、ヤクザらしからぬ丁寧さだった。


「いえ、まぁ、いきなり警察が来たら驚くのは普通ですから」

「それで、私にお話があるということですが、何でしょうか?」

「実は、ある事件を調査しておりまして…」

南城は、胸ポケットから前里専務の写真を取り出し机に置いた。


「この男性、ご存じですか?」

大城は写真を手に取り目を凝らした。

数秒の沈黙の後、

「ん?」

と、声を漏らした。


「これは津波古株式会社の専務ですよね?」

「えぇ、ご存じなんですか?」

「まぁ、ニュース等で見たことがあるぐらいですけど」


大城も前里専務と同様に嘘をついた。この二人には何かある。

すると組員が入ってきて、お茶を人数分テーブルに置き、そのまま退室した。


「それで、なぜ彼の写真を私に?」

「あなたはこの専務と山奥の廃墟で会っていますよね?」

「え?」

大城はお茶を取ろうとしていた手を止めた。


「どのような要件で、あんな山奥へ行かれたんですか? できれば詳しくお聞きしたいのですが」

「ああ…」

大城が言葉を詰まらせたその時、着信音が鳴り、大城は胸ポケットから携帯を取り出した。

「すみません。ちょっと失礼します」

そう言い残し、大城は部屋を出て行った。


「上原、今の反応を見ただろ」

「はい」

ドアが開き、大城が戻ってきた。


「誠に申し訳ありませんが、急用ができてしまいまして。お話の続きは後日ということで…」

と、頭を下げた。

「急用?」

南城は眉間に皺を寄せた。


「大変申し訳ございません」

「…そうですか」

南城は椅子から立ち上がり、大城に名刺を渡した。


「それではお時間が合えば、こちらにお電話ください」

「はい、わかりました」

大城は名刺を受け取った。

「では、失礼します」

南城たちは大城組を後にした。


車に戻る途中、南城は二人の会話を思い返していた。

「あの二人は何か隠している」

「あと、前里専務と大城、廃墟で話していたことを訊こうとした時、二人とも態度を変えましたよね」

「そうだな。今から廃墟に行ってみるか。何かあるかもしれん」

「はい」


上原はエンジンをかけた。

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