真実への一歩 1
南城と上原は、津波古株式会社付近の道路の端に車を止めていた。
県警は前里専務に疑いを持ち始め、南城たちは前里専務の行動を把握するため張り込んでいた。
南城が発見した切断された手足は、現在DNA検査が行われている。
しかし、腐敗が進んでいるため、結果が判明するまで相当時間がかかるという。
県警は今回の殺人事件の被害者のものと断定している。
腕時計に目を向けると、時刻は午後九時を回っていた。
「遅いですね」
「あぁ、もうそろそろ出てくるだろう」
「前里専務、また勅使河原会の大城と会いますかね?」
「その可能性はあり得るな」
かれこれ二時間半待っている。
さらに三十分後、専務の白い高級車が地下駐車場から出てきた。
「やっと来ましたね」
「よし、尾行しろ」
エンジンをかけ、車一台分の間隔を空けて車を追った。
北部方面へ向かい続けること一時間。
先ほどの都会の景色とはかけ離れた田舎道に差し掛かった。
開発されていない自然豊かな地域で、畑には赤いトラクターや軽トラックが止まっている。
「あっ、止まりました」
専務の白い車は二階建ての一軒家に止まった。
この地域には不釣り合いなほど高級な車だ。
前里専務が車から降り、家の中に入っていった。
「家か? こんな遠いところに住んでいるのか」
「みたいですね」
「前里は何か動くかもしれん。張り込もう」
南城は大きく口を開け、あくびをした。
夜が明け、張り込みを続けているが、専務が動く気配はなかった。
運転席の上原は目を閉じ、夢の中だ。
腕時計を見ると午前六時半を指していた。
南城も睡魔に襲われ、瞼が重くなってくる。
やはり、張り込みは退屈な仕事だ。
その時、前里専務が家から出てきたのが見えた。
「おい、上原」
南城は上原の体を揺らし、彼を起こした。
「はい…」
上原は背伸びをしながら返事をした。
「前里が出てきたぞ」
専務は車に乗り込み、車庫から出た。
「追うぞ」
「はい」
エンジンをかけ、前里専務の後を追った。
高速道路を降り、那覇市に入った。
ビルが立ち並ぶ中央区を通り、前里専務の車は津波古株式会社の地下駐車場へと降りて行った。
「まっすぐ会社に向かいましたね」
「だな。大城のところにも行かなかった。今、訊いてみるか。なぜ大城とあの廃墟で会っていたのか」
二人は車から降り、駆け足で地下駐車場へ向かった。
前里専務が車の鍵を閉め会社の中に入る寸前、南城が専務を呼び止めた。
「前里さん」
「はい?」
専務は二人のほうに振り返った。
「あっ、この前会社に来た刑事さん」
「どうも、おはようございます」
「おはようございます。どうかされましたか? こんな朝早くから」
「ちょっとお聞きしたいことがあります。お時間よろしいでしょうか?」
「あっ、はい。じゃあ、私のオフィスで」
「いえ、すぐ終わりますので。ここで結構です」
「わかりました。何でしょうか?」
南城は胸ポケットから勅使河原会幹部の大城の写真を取り出し、専務に見せた。
「この男のことはご存じですよね」
前里の眉が少し動いた。
「いや、知らないです」
と、首を傾げ、しらを切った。
「いえ、あなたはご存知なはずです」
専務は目を見開いた。
「あなたは沖縄の指定暴力団幹部、大城とマウンテンホテルという廃墟で会っています」
「…」
専務は黙り込んだ。額にはじんわり汗が浮かび始めた。
「なぜ暴力団の男と会っていたんですか? 教えてください」
「これは任意ですよね? 私は知りません。」
専務は腕時計をちらっと見て、
「仕事の時間なので失礼します」
と言い残し、会社の中へ消えていった。
廃墟の話をした時、態度が一変した。
そして、大城の写真を見せた時の反応も不自然だった。
汗をにじませるほど焦っていた彼は、何かを隠しているに違いない。
「何かありますね、彼と大城は」
「あぁ、署に戻るぞ」




