終末への予兆 3
高速道路に入り、速度を上げて右の追い越し車線を走る。
後部座席に座っている比嘉が煙草を口にくわえた。
「兄貴、失礼します」
隣に座っている仲宗根がライターで火をつけた。
「ありがとう」
比嘉は一息、ニコチンを肺に入れた。
一時間ほど走り那覇に到着した。
住宅街に入り、先輩から教えてもらった住所を探す。
「ここみたいです」
運転している村井が車を止めた。
外見は、沖縄ではよく見られるコンクリート造りの外人住宅だ。
家の前の庭は芝生が綺麗に手入れされている。
しかし、車庫には車が停まっておらず、人の気配もない。
「那覇市十五番地八八五七、間違いないよな?」
「兄貴、中の様子を見てきます」
「あぁ、気をつけろよ」
仲宗根は車から降り、家に近づいた。窓から中を覗き込む。人はいなかった。
「ガセネタか?」
そう思ったが、「ん?」と視線が止まる。
中央に鉄製の作業台が置いてあるのが見えた。
ここに奴らがいたのは間違いなさそうだ。だが、既に逃げられたのか…。
仲宗根は急いで車に戻った。
「どうだった?」
比嘉が訊いた。
「誰もいません」
「なに? じゃあ警官の情報はガセか?」
「いえ、ガセネタではなさそうです。中には作業台がありました。奴らが使っているものです」
「そういうことか…」
比嘉は深いため息をついた。
「とりあえず、この場所から離れるぞ。出せ、村井」
比嘉がため息を交えながら言う。
「何かが、おかしい…。」
比嘉がつぶやいた。
そして、次の一言が場を凍りつかせた。
「……裏切り者がいるんじゃねぇか?」
村井はブレーキを踏み、バックミラー越しに二人を見た。
比嘉の言うこともわかる。
こんなのはおかしい。
だが、本当に内部に裏切り者がいるなんて信じられない。
しかし、この住所を知っているのは俺たちと県警だけだ。となると、警官に内通者がいる…。
仲宗根はそう確信した。
「いや、兄貴、それはないと思います。この勅使河原会に裏切る奴なんていません。この住所を知っているのは俺たちと県警だけです。だから、奴らは警官を買収しているんですよ」
「あいつら…」
比嘉は少し考え、顔を上げて仲宗根を見た。
「そうだよな。この勅使河原会に裏切り者なんているわけないよな。悪い」
「いえ、兄貴が言うこともわかりますよ」
再び車を走らせ、高速道路に入り、来た道を戻った。




