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悲しき仮面  作者: 碧野 颯
31/46

終末への予兆 3

高速道路に入り、速度を上げて右の追い越し車線を走る。

後部座席に座っている比嘉が煙草を口にくわえた。


「兄貴、失礼します」

隣に座っている仲宗根がライターで火をつけた。

「ありがとう」

比嘉は一息、ニコチンを肺に入れた。


一時間ほど走り那覇に到着した。

住宅街に入り、先輩から教えてもらった住所を探す。

「ここみたいです」

運転している村井が車を止めた。


外見は、沖縄ではよく見られるコンクリート造りの外人住宅だ。

家の前の庭は芝生が綺麗に手入れされている。

しかし、車庫には車が停まっておらず、人の気配もない。


「那覇市十五番地八八五七、間違いないよな?」

「兄貴、中の様子を見てきます」

「あぁ、気をつけろよ」

仲宗根は車から降り、家に近づいた。窓から中を覗き込む。人はいなかった。


「ガセネタか?」

そう思ったが、「ん?」と視線が止まる。


中央に鉄製の作業台が置いてあるのが見えた。

ここに奴らがいたのは間違いなさそうだ。だが、既に逃げられたのか…。

仲宗根は急いで車に戻った。


「どうだった?」

比嘉が訊いた。

「誰もいません」

「なに? じゃあ警官の情報はガセか?」

「いえ、ガセネタではなさそうです。中には作業台がありました。奴らが使っているものです」

「そういうことか…」

比嘉は深いため息をついた。


「とりあえず、この場所から離れるぞ。出せ、村井」

比嘉がため息を交えながら言う。

「何かが、おかしい…。」

比嘉がつぶやいた。

そして、次の一言が場を凍りつかせた。


「……裏切り者がいるんじゃねぇか?」


村井はブレーキを踏み、バックミラー越しに二人を見た。

比嘉の言うこともわかる。

こんなのはおかしい。


だが、本当に内部に裏切り者がいるなんて信じられない。

しかし、この住所を知っているのは俺たちと県警だけだ。となると、警官に内通者がいる…。

仲宗根はそう確信した。


「いや、兄貴、それはないと思います。この勅使河原会に裏切る奴なんていません。この住所を知っているのは俺たちと県警だけです。だから、奴らは警官を買収しているんですよ」

「あいつら…」

比嘉は少し考え、顔を上げて仲宗根を見た。


「そうだよな。この勅使河原会に裏切り者なんているわけないよな。悪い」

「いえ、兄貴が言うこともわかりますよ」


再び車を走らせ、高速道路に入り、来た道を戻った。


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