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悲しき仮面  作者: 碧野 颯
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止まぬ血の雨 3

仲宗根と比嘉は若い衆を連れて、普天間三番地に向かっていた。

他のアジトは喜屋武の組に任せてある。


まず初めに、うるま市石川のアジトを襲撃した。

築50年のアパートで、外見はかなり古く、部屋の中は黄ばんだ壁にヤモリの糞が散乱していた。

畳にはカビが生え、きつい臭いが漂っていた。

襲撃の際には東南アジア系の外国人五人が作業していたが、彼らは状況を知らない様子だったため、そのまま撤収した。


車内では比嘉がタバコに火をつけ、煙が充満していた。

仲宗根はその臭いを我慢しながら、次の目的地に向かう。



普天間三番地


「ここか?」

比嘉が尋ねる。

「そうみたいです」

仲宗根は、目の前の二階建ての新築住宅を見上げた。


普天間三番地。

ここで間違いない。


その時、仲宗根たちの車の横を黒いワンボックスカーが横切り、新築住宅の前に止まった。

車から、ピアスで飾られた男三人が降りてくる。その中の一人に仲宗根は見覚えがあった。


「あっ、兄貴、あいつ!」

仲宗根が指を差す。

「ほら、幹部の宇野山ですよ」


髭を生やし、まるでハリウッド俳優のような風貌の男――

銃丸№4、宇野山だった。


三人は住宅の中に入っていった。

仲宗根、比嘉、そして若い衆は住宅の方へ歩き出す。

玄関に着き、若い衆がドアノブに手をかけた。

その瞬間、


ピンッ


何かが外れる音がした。


恐る恐る下を見ると、手榴弾が取り付けられており、安全ピンが外れていた。

玄関を開けると爆発する仕組みだった。

仲宗根は咄嗟に比嘉を道路へ押し倒し、自分が覆い被さった。


その瞬間――


ドカーン!


鼓膜が破れるほどの爆発が二人を襲った。

仲宗根の肩とあばらには凄まじい痛みが走り、耳鳴りで何も聞こえなくなる。

煙が充満し、視界が遮られた。

その間に、宇野山ら三人は住宅内にあった武器が詰まった木箱を車に積み込み、走り去った。


仲宗根は気を失った。


どれくらい時間が経っただろうか。

意識が戻ると、周囲には煙もなく、奴らの姿も消えていた。

隣を見ると、比嘉が頭を抱えながら立ち上がっていた。

「おい!晃、大丈夫か!」

比嘉が肩を貸し、仲宗根を立たせる。

「兄貴、大丈夫ですか…」


比嘉は助手席のドアを開け、仲宗根を車に乗せると、そのまま車を発進させた。

この襲撃失敗で、仲宗根と比嘉は殆どの若い衆を失った。


一方、喜屋武は組員20人を引き連れ、得た情報を元に銃丸のアジトを次々に潰していた。

今向かっているのが最後の場所だ。

田舎道を直進すると、一面の畑の中にぽつんと建つ大きな倉庫が見えてきた。

薄緑色の外壁は錆が目立ち、周囲に民家はない。

助手席の喜屋武は銃をスライドさせ、組員たちに指示を出した。


「よし、行くぞ」

車を降り、倉庫の入口のドアに近づく。

横の小窓から中を覗くと、30人ほどの男たちが作業をしていた。

奥では一際目立つ男が指揮を取っている。


「あいつ、幹部の崎だぞ」

喜屋武が小声で組員に伝えた。

「じゃあそいつをやれば、壊滅に近づきますね」

「その通りだ。お前ら15人は正面突破だ。俺らは裏に回る。挟み撃ちにしてハチの巣にしろ」


喜屋武たちは裏手に回り、正面組が突入するのを待つ。

「よし、行くぞ!」


ドアを蹴り破り、組員たちが突入する。

だが、予想に反して敵は降参のポーズを取った。全員が両手を挙げたのだ。


「どういうことですか、これ?」

組員が困惑しながら喜屋武に尋ねる。

「分からん……とりあえず中に入るぞ」

倉庫内に入ると、銃丸№3の崎が突然声を張り上げた。

「おい!やれ!」

その瞬間、作業員たちが手に持っていたスイッチを押した。


パチン!


何かが切れる音が響き、喜屋武が真上を見上げると――


ドン!


巨大な鉄板が組員たちの頭上に落下した。

立っていた組員たちはその場で下敷きになった。


「皆殺しだ!」


崎が指示を出すと、男たちは一斉に銃を構え、喜屋武に向けて発砲してきた。

鉄板の下敷きを逃れた喜屋武は物陰に隠れるが、銃弾が次々と飛んでくる。

喜屋武も応戦し数回撃ち返すが、状況は圧倒的に不利だった。

ふと小窓から外を見ると、裏手に回った組員たちも鉄板の下敷きになっているのが見えた。


「あぁ…生きているのは俺だけか…」


喜屋武は車に戻り、手榴弾を取り出した。

ピンを外し、敵に向かって投げつける。


ドカーン!


爆発の衝撃で数人が倒れたが、まだ敵は残っている。


「もう無理だ……」

喜屋武は自分にそう言い聞かせるように呟き、車に乗り込むと猛スピードでその場を離れた。

車には複数の銃弾が命中し、車体がボコボコに凹んでいた。


ふと振り返ると、倉庫の前に銃丸№3の崎が立っていた。

奴は勝ち誇ったように笑みを浮かべていた。



白いシーツに覆われたベッドで、仲宗根は横になっていた。

右肩とあばらには包帯が巻かれ、少し動かすだけでも激痛が走る。

ドアが開く音が聞こえ、誰かが部屋に入ってきた。


「体調はどうですか、仲宗根さん?」


声の主は、凄腕の闇医者だった。

裏社会の御用達で、重症患者でも確実に治療することで知られている。


「あばらが痛い」

仲宗根は静かに答えた。

「爆発の時、破片が直撃したんですから当然ですよ」

医者は冷静に言った。


「早くここから出してくれ」

「それはまだ無理です。敵を倒したい気持ちは分かりますが、今は安静にしていないと。無理に動かせば大変なことになりますよ」


仲宗根はしばらく天井を見つめ、低く呟いた。

「このままでは足手まといになっちまうか……」

その時、勢いよくドアが開いた。


村井が息を切らしながら部屋に入ってきた。

「大丈夫ですか、組長!」

「おう、大丈夫だ。肩とあばらは折れたけどな」

「組長が無事でよかった……。でも、あいつら絶対許せねぇ……。」

村井の目には怒りが宿っていた。


しばらくして、再びドアが開いた。

「あっ、大城の頭。お疲れ様です」

村井が振り返り、一礼する。


「おい、仲宗根、大丈夫か?」

「ああ、頭……申し訳ありません。幹部の宇野山を逃がしてしまって……」

「いいんだよ。お前が無事で何よりだ」

大城は安堵した表情を見せた。


「とにかく、今は安静にしていろ。それが一番だ。」

「はい、本当にすみません。」

「じゃあな。お大事にな。」


大城は医者の方に目を向ける。

「先生、あとはよろしく頼む。」

「承知しました。」

医者は深く頷いた。


大城は静かに部屋を後にした。


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