生まれた疑念 2
南城は専務の表情から、何かキナ臭さを感じ取っていた。
腕を組みながらつぶやくように言った。
「あの専務には何かあるかもしれないな」
「よし、みどり公園に行ってみるか。」
車に乗り込み、カーナビをセットする。
「ありました。ここです」
上原がセットを終え、車を発進させた。
「おい、ちょっと待て」
コインパーキングから出ようとした瞬間、南城が車を止めさせた。
「何ですか?」
「ほら、見てみろ」
南城は指さした。
その方向には、専務取締役の前里が会社から出てくる姿があった。
何やら急いでいるようで、小走りで地下駐車場に向かっていく。
「尾行だ」
「あっ、はい」
上原が緊張した声で応じる。
1分後、白色の高級車が駐車場から出てきた。
それに続いて、南城たちもコインパーキングから車を出す。
「気づかれるなよ」
「はい」
しばらく尾行を続けると、車は次第に山の中へと入っていった。
周囲には人の気配がなく、どう見ても仕事が目的とは思えない。
「なんでこんな山に来たんだ?」
南城が疑問を口にした。
すると、専務の車が細い道を右折した。
その先には、「マウンテンホテル」と書かれた看板が建っている。看板は錆びついてボロボロだ。
細道をさらに進むと、奥に専務の車が停めてある。
その隣には黒色の車が停まっていた。
どうやら誰かと会っているようだ。
南城たちは道路脇に車を止めて降り、細道を歩いて奥へ進む。
そこには古びた建物があり、落書きが目立ち、コンクリートもひび割れている。
「中に入るぞ」
南城は声を低くして言った。
二人は階段を登り始める。
上階から男性たちの話し声が聞こえてきた。
南城たちは壁に身を隠し、その会話を盗み聞いた。
「今日、会社に刑事が来ました」
「そうか…なんて訊かれた?」
「現場近くの防犯カメラに私たちの会社の車が映っていたと」
「私の言った通りに答えたか?」
「はい。貴方の方は順調ですか?」
「あぁ、順調だ。ただ、ちょっと抗争があってな」
「ニュースで見ましたよ。気を付けてください」
「抗争?」
南城の頭に疑問が浮かぶ。
相手は裏社会の人間か?
「前里、ありがとう」
「いえ、とんでもございません」
南城は二人の顔を見ようと、そっと身を乗り出して覗き込んだ。
前里専務の向かいには、スーツ姿で体格のいい男が立っていた。
年齢は50代後半くらいだ。
「また刑事が来た時の対処法は、後日電話で話す」
「はい、わかりました。それじゃ」
二人の会話が終わると、専務がこちらに向かって歩き出した。
「おい、行くぞ。ほら早く」
南城たちは素早く、階段を降り柱の陰に隠れる。
前里専務は階段を降り、車に乗り込むと廃墟を後にした。
時間を少し置いてから、再び上階から相手の男が降りてくる足音が聞こえてきた。
南城はポケットから携帯を取り出し、階段の方へ向けて録画を開始した。
男が立ち止まる。
南城は慌てて録画をやめた。
「バレたか…」
一瞬緊張が走る。
しかし、男は気づかずにそのまま車に乗り込み、エンジンをかけて走り去っていった。
「危なかったですね」
上原が息をつきながら言った。
「あぁ、本当にな」
南城も軽く頷いた。
「前里と会っていた男は何者なんでしょう?」
「わからん」
南城は携帯を開き、録画したフォトを確認する。
少し遠めではあるが、男の顔がはっきり写っていた。
「撮れてますか?」
「あぁ」
南城は短く答えた。そして言う。
「署に戻ろう」




