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悲しき仮面  作者: 碧野 颯
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生まれた疑念 1

南城と上原は廊下を歩きながら会議室へ向かう。

扉を開け、自分の席に腰を下ろした。

隣には上原が座っている。

しばらくして、管理官と捜査一課の課長が入室した。

全員が席を立ち、挨拶を交わす。


「じゃ、始めましょうか」

課長が会議を始めた。

「捜査一課、報告を」

課長が指示を出す。

「はい」

南城が席を立ち、手帳を開いた。


「遺体の発見時刻は午前10時頃です。手首と足首が切断されているため、被害者の身元はまだ判明しておりません。死亡推定時刻は2月28日、木曜日、20時から24時の間とされています。腹部には刺し傷が四ヶ所あり、所持品はなく衣類も脱がされています。第一発見者の女性や近隣住民に話を伺いましたが、有益な情報は得られませんでした。しかし、現場近くの店の防犯カメラに、犯行に使われたと思われる白いワゴン車が映っていました。ナンバープレートを確認しましたので、現在、所有者の特定を進めています。以上です」


南城は報告を終え、席に戻った。

「続いて、凶器について、鑑識係長」

課長が促す。

「はい」

鑑識係長が席を立つ。


「凶器は包丁と特定されました。腹部の刺し傷の形状から見て間違いありません。司法解剖の結果、死因 は出血性ショックによる急性循環不全でした。以上です」

鑑識係長が席に戻る。


課長はしばらく考え込むような仕草をした後、言葉を発した。

「今回の事件は相当厄介だ。被害者の身元がわからない以上、交友関係も追えない。住民からの手がかりもなしとはな」

課長は頭を掻きながら続けた。

「まずはナンバープレートから、所有者を特定するまで待とう。解散」


捜査員全員が席を立ち、一礼して会議室を出て行く。

南城は必ず最後に出るようにしていた。

理由は、廊下で人混みに揉まれるのを避けたいからだ。



「おい、まだ交通課から何も来てないのか?」

廊下を歩きながら、南城は上原に尋ねた。

「えぇ、まだ何も」

「おい、南城」

後方から声をかけられ、振り返ると課長が立っていた。


「あっ、課長」

上原は一礼した。

「課長、何か御用ですか?」

「お前に課長と呼ばれると、むず痒いな」

えっ?と、上原は驚きの表情を見せた。


「今回の事件は長引きそうだな。ナンバープレートから所有者を特定してるから、何か動きがあるかもしれないな」

「君、上原だったか?」

「はい」

「こいつと組んでどうだ?」

「あっ、とてもいい人です。昨日が初現場で緊張していたんですか、南城さんが話しかけてくれて、どうにか頑張れました」


その言葉を聞いた南城の顔に、自然と笑みがこぼれた。

「だってよ、南城。」

彼の耳が徐々に赤くなるのがわかる。

「上原、南城は照れると耳が赤くなるんだ。覚えておけ」

「うるせぇよ」

南城は聞こえない声でつぶやいた。


「はは、上原、ほら」

課長はペットボトルのカフェオレを渡した。

「これ飲んで頑張ってくれよ」

上原の肩をたたいた。


「ありがとうございます」

上原は、歩いて行く課長に礼を言う。

課長は片手を軽く上げて、返事をした。


「ところで、南城さんと課長ってどういう関係なんですか?」

「あぁ、小中高が一緒で、プライベートでは俺の一番の友人だ。職場では目の上のタンコブだけどな」

「そうなんですか」

その時、上原の携帯が鳴った。


「ちょっとすみません」

上原は携帯を開き、耳に当てた。

「はい、上原です。はい、はい、あっ、はい、わかりました。ありがとうございます」

電話を切ると、上原は顔を上げた。


「誰からだ?」

「交通課からです。車の所有者がわかりました。車の所有者は津波古株式会社の車両みたいです」


津波古株式会社は県内で一番の大企業で、車の販売も行っており、県警にも車両を卸している。


「よし、向かうぞ」

南城は言い、二人はエレベーターに乗り込んで地下駐車場へ向かった。



那覇市中央区の十字路を右折したところで、南城はふと口を開いた。


「俺、那覇があまり好きじゃないんだよな」

「沖縄には地下鉄や電車がないから、どこに行くにも車移動だし、道も渋滞するからな」

南城は不満を漏らした。


「そういえば、この津波古株式会社の社長、ヤクザ抗争に巻き込まれて奥さんを亡くしたんですよね?」

「あぁ、そうだったな。確か名前は…津波古蓮司だったか」

「抗争に巻き込まれて奥さんを亡くすなんて気の毒ですね」

「一番辛いのは、愛していた人間をこんな形で失うことだろうな」

南城は静かに答えた。


目の前に「津波古株式会社」の看板が見えてきた。

車をコインパーキングに止め、二人は会社内に入った。



受付の若い女性に声をかける。

「すみません」

「いらっしゃいませ」

「あの、こういう者です」


南城たちは警察手帳を見せた。


「ここの責任者にお伺いしたいことがあるんですが」

「大変申し訳ございません。社長はただ今休暇を取っておりまして」

女性は恐縮した様子で答える。


「あぁ、そうですか」

「対応できる者に確認を取りますので、しばらくお待ちください」

女性はすぐに受話器を手に取った。


「専務、警察の方がお見えになっております。はい、承知しました」

受話器を置くと、女性はにこやかに言った。

「今からこちらに降りて参ります。そちらのソファでお待ちください」

「ありがとうございます」


エレベーターが開く音がした。

振り返ると、小太りの男性が歩いてくる。


「初めまして、私は専務取締役の前里です」

と、名刺を差し出してきた。


「本日社長は休暇を取っておりますので、私が代わりに対応させていただきます」

「どうもすみません。急にお伺いしてしまって、私は捜査一課の南城です。

「上原です」

 二人は警察手帳を見せた。


「少しお話をお伺いしたいのですが」

「それでは、私のオフィスでお話をお伺いします」

前里はエレベーターのボタンを押し、40階行きのボタンを押した。

「それにしても、大きなビルですね。私たち県警も御社と取引しています」

「それはそれは、我が社の製品を利用いただき、誠にありがとうございます」

前里は微笑みながら答えた。


40階のアナウンスが流れると、エレベーターの扉が開いた。

「こちらです」

長い廊下を歩き、右側には社員たちが作業をしているのが見えた。

それを通り過ぎ、しばらく歩くと専務室の前についた。

「どうぞ」

前里がドアを開け、南城たちは部屋に入った。


部屋の本棚には本が隙間なく並べられ、壁には沢山の賞状が飾られていた。

「おかけになってください」

前里は、クッション製の椅子に誘導した。


「早速ですが、お話を訊かせていただきます。我々はある事件を調べていまして、現場近くの防犯カメラに貴社の所有車が映っていました」

「はい」

前里は顔を少しこわばらせた。


「事件の内容は?」

「詳細は今のところお話しできませんが、目撃情報を集めているところです」

「あぁ、そういえば…営業中に車が盗まれたと報告がありまして。社員が急にお腹を壊して、公園のトイレに行ったところ、戻ってきたら車がなくなっていたようです。そのため、盗難届を出す準備をしていました」

 前里は慌てて話し出した。


「盗難車か…。盗まれた車両のナンバーはわかりますか?」

「ちょっとお待ちください」

前里は席を立ち、デスクに向かってパソコンを開いた。


しばらくすると

「あっ、ありました。ナンバーは、くの5876です」

と、答えた。


「間違いない。犯行に使われた車だ」

南城は確認して言った。

「盗難にあった公園の名前は?」

「あぁ、確か、みどり公園だったと思います」

「みどり公園ですね」

 上原がメモを取った。


「よし。すみません、忙しいところお伺いしてしまって」

「いえいえ、こちらこそ、とんでもございません」

「ご協力ありがとうございました。それでは、私たちはこれで」


南城たちはオフィスを出て、エレベーターで1階に降りた。


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