血塗られた誓い 6
「すっかり晴れましたね、仲宗根の兄貴」
「あぁ、そうだな」
仲宗根と喜屋武は、情報屋から入手した銃丸の№5、峯岸の行きつけの喫茶店で張り込んでいた。
「腹減ったなぁ。これ食っていいですか?」
横に置いてある袋を指さした。
「あぁ、いいよ」
「じゃあ、いただきます。」
袋の中に手を入れ、パンを取り出した。
再び喫茶店の方に目をやる。
「もう2時間経ってますよ。全然来ないじゃないですか。ガセネタじゃないですか?」
喜屋武が不満げに言いながら仲宗根に目を向けた。
「いや、それはありえねぇよ。かれこれ10年間あいつから情報をもらってるけど、ネタが外れたことなんて一度もない」
「そうですか?じゃあ、待ちましょうか」
そう言いながら、再びパンを頬張る。
「なんか、サツ(警察)みたいですね。こんな風に張り込んでパンを食ってるなんて」
仲宗根は警察の捜査一課にいた頃を思い出していた。
通報を受けて先輩と現場に向かい、容疑者が来るまで張り込む。それが日常茶飯事だった。
喫茶店に目を戻すと、入り口の前に車が止まった。
紫色のアメ車で、すごく年季が入っている。
運転席のドアが開き、一人の男が出てきた。
髪の毛はグレーで、鼻にはピアスが光っている。間違いない、奴だ。
「やっと来たな。」
喜屋武が待ちくたびれた様子で言った。
「俺たちに手を出したことを後悔させてやる。」
5分後、男が店から出てきた。
片手には紙コップ、もう一方の手には紙袋を持っている。
車に乗り込み発進したのと同時に、仲宗根たちも車を発進させた。
気づかれないように慎重に尾行する。
しばらく尾行を続けると、工場地帯に入った。
ダンプカーや大型トラックが頻繁に行き交う道を進んだ先、男の車は錆び付いた倉庫の前で止まった。
仲宗根たちは少し距離を空けて車を停めた。
喜屋武はハンドガンの弾を補充しながら車を降り、倉庫の方へ向かう。
「隆二、ちょっと待て」
「え?何ですか?」
「とっておきの物があるんだ」
仲宗根はトランクを開ける。
「おぉ、すげぇな」
喜屋武が目を輝かせる。
中からマシンガンを取り出した。
「贔屓の武器屋で仕入れた。これで奴らをハチの巣にしてやろう」
「最高ですね」
喜屋武もトランクからマシンガンを取り出し、弾が入ったマガジンを3個ポケットに詰めた。
「行きましょう」
「あぁ。ただし、№5の峯岸だけは殺すなよ」
二人は倉庫の入り口に着いた。
「行くぞ」
喜屋武は小さくうなずいた。
「おらっ!」
ドアを蹴り飛ばすと、中には男たちが20人ほど作業をしていた。
作業台には木箱が並んでいる。
「なんだ?」
銃丸の手下が声を上げた。
「俺たちは勅使河原会のもんだ!」
喜屋武が叫ぶ。
「おい、銃を持ってるぞ!」
「撃て!撃て!」
男たちは木箱から銃を取り出し、一斉に発砲してきた。
仲宗根と喜屋武はすぐに物陰に隠れる。
20人の男たちが一斉に銃を乱射する。
もし物陰に隠れていなければ、間違いなくハチの巣にされていた。
「仲宗根の兄貴!」
喜屋武が叫ぶが、銃声でよく聞き取れない。
「なんだ!」
「相手が弾切れになったら反撃しましょう!」
やがて、さっきまでの激しい銃声が止んだ。
「今だ!」
二人は物陰から飛び出し、銃を乱射した。
無数の銃弾が男たちを次々と倒していく。
弾が切れると再び物陰に隠れ、リロードを済ませて再び銃を構える。周囲を確認すると、男たちは全員倒れていた。
「全員やったか?」
仲宗根が奥へと進む。
木箱を開けると、中には銃が5丁入っていた。
「これが台湾マフィアから買った銃か」
喜屋武がつぶやく。
「あっ…あっ…」
喉を絞る声が聞こえた。
その方向を見ると、腹部から血を流した男が倒れている。
「まだ生きていたのか」
喜屋武は男に銃口を向け、とどめを刺した。
上階には事務室らしき部屋が見える。
「隆二、上に行くぞ」
二人は錆びた階段を上り、事務所の前に立った。
「行きますよ。」
喜屋武がドアを蹴り飛ばした。
扉が倒れ、土煙が舞う。部屋の中を見渡すが、誰もいない。
次の瞬間、ドン!と背後から音がした。
振り返ると、喜屋武のこめかみに銃が突きつけられている。
仲宗根が銃を構えると、そこに立っていたのは銃丸№5の峯岸だった。
「おい、動くな。銃を捨てろ」
銃丸の№5峯岸が仲宗根に命令した。
「銃を捨てろ!こいつを殺すぞ」
「わかったよ」
仲宗根は、ゆっくりとマシンガンを床に置いた。
「こっちに蹴り寄こせ」
峯岸の指示に従い、仲宗根はマシンガンを蹴った。
「馬鹿だなお前は」
喜屋武が峯岸に向かって低くつぶやいた。
パン!
銃声が響き、峯岸の足に銃弾が命中した。
喜屋武はいつも小型の銃を隠し持っている。素早くそれを取り出し、峯岸の足を撃ったのだ。
喜屋武のこめかみに突きつけられていた銃口が離れる。
しかし、倒れるかと思った峯岸は足から血を流しながらも、なお立っていた。
「嘘だろ…」
喜屋武は思わず声を漏らした。
再び銃口が向けられる。
だが、喜屋武は峯岸の銃を叩き落とし、顔面に拳を一発叩き込んだ。
小型銃は特殊なタイプで一発しか撃てないためもう使えない、肉弾戦が始まった。
「おい!動くな!」
仲宗根が床に落ちていたマシンガンを拾い上げ、峯岸に向けた。
「仲宗根の兄貴!こいつは俺にやらせてください」
喜屋武が強い意志を見せた。
峯岸が拳を振り下ろした。
強烈なパンチが喜屋武の顎を捉え、足元がふらつく。ボクシングならば確実にKOされる一撃だった。
しかし、喜屋武は力強く踏ん張り、どうにか倒れずに持ちこたえた。
「ほぉー、俺のパンチで倒れない奴はお前が初めてだ」
峯岸がニヤリと笑う。
峯岸は再び拳を振り上げたが、喜屋武はそれをかわし逆に腹部へ一発。
その後、続けざまに顔面へ二発拳を入れた。
峯岸の鼻から勢いよく鼻血が噴き出す。
喜屋武は峯岸を壁に押し付け、頭を何度か叩きつけた。
そして最後に力強く蹴り飛ばすと、峯岸は置いてあった椅子にもたれるように崩れ落ちていった。
「なにが『俺のパンチで倒れないのはお前だけだ』だよ。カッコつけやがって」
喜屋武が肩で息をしながら言った。
「大丈夫か、隆二?」
仲宗根が声をかける。
「えぇ、大丈夫です」
喜屋武はポケットから結束バンドを取り出し、峯岸の手首にかけた。
「よし、何か手がかりになりそうなものを探そう」
仲宗根が部屋を見渡し、本棚やテーブルの上に置かれている書類を探り始めた。
仲宗根は奥のテーブルの引き出しを開ける。
「おっ!」
仲宗根は思わず声を上げた。
中には武器を運搬する際のルートが書かれた紙があった。
「これは役立つかもしれないな」
仲宗根がつぶやいた。
すると、遠くからサイレンの音が聞こえてきた。
「思ったより早いな。逃げたほうがよさそうだ。」
仲宗根は峯岸を持ち上げる。
「今から地獄の時間が待っているぞ。」
邪悪な笑みを浮かべた喜屋武が、峯岸に向かって言った。




