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悲しき仮面  作者: 碧野 颯
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戦の始まり 2

 勅使河原会傘下の仲宗根組組長、仲宗根晃が事務所に入る。

今日はとても風が強かった。ネクタイとスーツが風にあおられ、体が後ろに引っ張られそうになる。

 明日は台風十号がここ沖縄に直撃するらしい。この前の台風も相当な強さだったのに、今回はそれの倍だそうだ。


 彼は沖縄暴力団・勅使河原会の会長、勅使河原勇次郎から直系の盃を受け、仲宗根組を任されている。

 そして、勅使河原会の四大最高幹部の一人だ。

 恩納村とうるま市を拠点に、盗難車ビジネスを行っている。

 舎弟たち数名が麻雀や金の計算をしていた。

 仲宗根が舎弟たちのいる部屋に入ると、舎弟たちは立ち上がった。


「組長、お疲れ様です!」

と、全員が起立し、お辞儀をする。

「おぉ、お前たち麻雀してんのか?」

仲宗根が舎弟たちに声をかけた。


 仲宗根は過去に有り金をすべて賭けて失い、借金地獄に陥ったことがある。それ以来、賭け事は一切しないと決めている。


組長室の扉の前で若頭の村井恭介が立ち上がり、挨拶をした。

「組長、お疲れさまです」

「お疲れさん。稼ぎは順調か?」


 村井は東京出身で、カリフォルニア工科大学理学部を卒業したエリートだ。そんなエリートが沖縄にやって来てヤクザの道に進んだ。ヤクザ以外にもっといい仕事があるはずなのに、勿体ないと思うが、本人が選んだ道だ。


「そういえば、組長。また来ていますよ」

 村井は少し面倒くさそうな顔をした。

「またかよ。サツは暇なのか」


 半年前、勅使河原会の組員がカタギの女性を誤って射殺してしまった。

 それ以降、沖縄県警は勅使河原会傘下の組に張り込むようになった。

 その事件のテレビニュースで、被害者の夫である津波古というガタイのいい男性がインタビューを受け、大号泣していた映像を仲宗根は今でも覚えている。


「そういえば、明日は会合ですよね」

「そうだな。勅使河原会本部までついてこられたら面倒だな」

「大丈夫です。本部へ行く途中の立体駐車場に車を用意させています。そこで乗り換えて本部に向かいましょう」


翌日は勅使河原会本部で会合がある。

急遽、会長から会合を開くとの電話が入ったのだ。


もし警察がつけてきたら面倒だ。

そのために車を乗り換えるという考えだ。

いつも先を読み、対処する村井には頭が下がる。

以前、麻薬取引の際にも村井が囮捜査だと見抜き逮捕を免れた。

俺が引退したら、こいつに仲宗根組を継がせるつもりだ。


組長室に入り、窓から外を見ると、道路にグレーの車が止まっていた。

車内にはスーツ姿の男が二人、仲宗根組を張っている。

ため息をつき、椅子に座って仕事を始めた。



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