血塗られた誓い 3
仲宗根は大通りを渡り、事務所近くのコンビニまで歩いた。
店内にある万引き防止の鏡を見ながら、カゴに栄養ドリンクやスナックを入れ、会計を済ませる。
事務所にはすぐ帰らず、暗い裏路地に入った。
エナジードリンクを飲みながら路地を進む。
道の端に駐車してある何台かの車を通り過ぎ、黒い軽自動車の横を通り過ぎた瞬間、その車から誰かが降りた気配がした。
後ろを振り向かず、そのまま歩き続けた。
背後の足音が徐々に近づいてきていることに気がつく。
とっさに振り返り銃を向けると、黒づくめの男が突進してきた。
引き金を引くと、発射された弾丸が男の太ももを貫通した。
「あああああ!」
痛みと恐怖が交じり合った、生々しい叫び声が響く。
足を抑えながら崩れ落ち、男の手から銃が落ちた。
黒い車がものすごいスピードで路地に入ってくる。
そして、仲宗根の真横に止まった。
「おい、お前ら、早く乗せろ」
運転席の村井が組員に指示を出した。
「組長、大丈夫ですか?」
「あぁ、タイミングバッチリだったぜ」
仲宗根は事務所を出る前に、村井に指示を出していた。
「俺が事務所を出たら、舎弟二人連れて、車で路地裏の入口で待機しておけ」
「どうしてですか?」
「あいつらは間違いなくまた俺を襲ってくるはずだ。俺が人気のない路地を歩いておびき出す。そして襲撃犯の致命傷にならない場所を撃って、制御不能にする。銃声が鳴ったら路地に入ってこい。そいつを拉致する」
「ですが、危険ですよ」
「大丈夫だ」
仲宗根は襲撃犯を囮にして、拉致するためにこの暗い路地を歩いたのだ。
仲宗根組の組員二人が、うずくまっている襲撃犯を持ち上げ、トランクに放り込んだ。
「組長、早く乗ってください。」
仲宗根は後部座席に乗り込み、路地を後にした。
気絶している男の頬を平手で叩いた。
「起きろ!」
男は目を開け、周囲を見渡した。
自分の手と足が縛られていることに気づき、襲撃犯は血の気が引いた顔で、体を小刻みに震わせていた。
前回、仲宗根を襲った奴とは違う奴だ。
「よし、じゃあ、訊きたいことがある」
「…」
「おい、聞いてるのか!」
男の髪を引っ張り、無理やり顔を上げる。
目はひどく充血していた。
「…それに答えたら…俺を逃がしてくれますか…」
震える声で口を開いた。
「あんたの質問に答えたら…俺を逃がしてくれますか…」
仲宗根はゆっくりとうなずいた。
仲宗根は奥に置いてあるパイプ椅子を引きずりながら持ってきて、男と向かい合うように座り、質問をした。
「じゃあ、お前らの組織の名前と親分の名前は?」
男は体をビクつかせ、目線を下に向けた。
「組織とボスのことは、俺ら下っ端じゃ何もわからない」
ボスって呼んでいるのか、極道ではないな。
「何もわからないなら、死ぬしかないな」
銃口を男の頭に突きつけた。
「殺すんならさっさと殺せよ…」
涙を流して目を閉じた。
その時、倉庫のドアが思いっきり開く音が響き、後ろを振り返った。
黒いフードをかぶった五人組が入ってきた。
「なんだてめえら!」
仲宗根は男から銃口を外し、五人に向けて発射しようとしたが、奴らの方が早かった。
奴らが撃った弾が仲宗根の胸に命中した。
激しい痛みが走り、膝から崩れ落ちた。
「遅かったじゃないか!これをほどいてくれ!」
フードをかぶった男が、拉致された男の頭部に銃を向けた。
「しゃべったな?」
「え…いや!」
「俺たちのこと、しゃべったな?」
「い…いや、しゃべってない!」
「本当か?」
「あぁ…ボスのことも言ってないし!銃丸のことも言ってない!神に誓って本当に言ってない!」
男は、必死に裏切っていないことを主張した。
「銃丸?」
フードをかぶった男が聞き直した。
「銃丸って名前みたいですよ。組長」
拉致された男は、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をした。
仲宗根はゆっくり立ち上がり
「ご苦労さん、よくやった」
と、男たちに言った。
乱入した男はフードを外した。
拉致された仲間に扮していたのは、仲宗根組若頭の村井とその組員たちだった。
「見事な演技だった、村井」
「…」
男は理解した。
「残念だったな、もうちょっと頭を使わないと」
と、仲宗根は自分の頭を人差し指でちょんちょんと触った。
「お前ら、銃丸に手を出したらただじゃ済まないぞ」
「ご心配をどうも。だが、俺たちも引き下がれないんでな」
「あの人たちは手を出した人間には容赦しない。どんな手を使ってでも必ずお前らを殺す、生きたままバラバラにされるだろうよ」
男は奇妙な笑みを浮かべた。
「組長、どうしますか?こいつ。」
村井が訊いた。
「逃がしてやれ」
「え?殺らなくていいんですか?」
「こんな三下殺しても、こいつの組織には何も影響しねぇだろ」
「確かにそうですね」
村井はドスを取り出し、男の手と足のロープを切った。
男は猛ダッシュで、倉庫から出て行った。
「あいつ、追いかけさせますか?」
「どうせあいつは銃丸に殺されるだろう」
「そうですね。まあ、とりあえずこれで喧嘩を吹っ掛けた奴らがわかりましたね」
銃丸か…俺たちに手を出したことを後悔させてやる。
勅使河原会と銃丸との抗争が幕を開けた。




