もう1つの事件 2
マンションのエレベーターが故障していたため、四階まで階段で上がる羽目になった。
中年の南城にはきついものだ。
四〇一号室のドアの前に立ち止まりチャイムを押した。足音が近づきドアが開く。
「沖縄県警のものです」
「はい…」
50代後半の女性が恐る恐る出てきた。
胸ポケットから、警察手帳を出して見せる。
「県警のものです」
「通報者の方ですね。少しお話を伺いしてもよろしいでしょうか」
「エレベーターの横に多目的広場があるので、そこで話を伺いたいのですが」
「わかりました」
二人はエレベーターの方へ歩いた。
エレベーターの横に小さな多目的広場がある。
屋根がついており、雨も入ってこない。
住人たちのものであろう、錆付いた自転車や子供のおもちゃが置かれていた。
しばらくすると、通報者の女性が小走りで向かってきた。
「ご足労かけてしまい申し訳ありません。まだ動揺していると思いますが、遺体を発見された時のことを詳しく聞いてもよろしいですか」
女性は小さくうなずいた。
上原はメモ帳を取り出し、彼女が言う事を記録した。
「発見した時はお出かけされていたんですか」
「はい 買い物に…行く時で…」
「何時ごろが覚えていますか?」
「確か…朝の八時過ぎ頃…だったと思います。雨が降る前に早めに買い物を済ませようと思って…それであの空き地の前を通った時もの凄い臭いがして、また野良犬がゴミを散らかしていると思い、見に行ったら…」
女性は両手で口を押えて震えた。
「驚きましたよね。想像もできませんからね。もう少し伺っても大丈夫ですか?」
女性はまた小さくうなずいた。
「発見当初の遺体はどんな状態でしたか?」
「…全裸で…顔がないように見えました」
「わかりました。ほかに何か気づいたことはありませんか?」
「いえ…もう怖くなって走って家に戻り、警察に通報しました」
「そうですか。わかりました。最後にもう一つ聞いてもよろしいですか?」
「2月28日午後21時から24時の間に、怪しい人物や車とか見ませんでしたか?」
「28日ですか?」
女性は少し考えている様子だ。
「すみません。ちょっとわからないです」
「わかりました。何か思い出されましたら、署まで連絡をお願いします。ご協力ありがとうございました」
「手掛かりは何もなしだな」




