表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悲しき仮面  作者: 碧野 颯
12/46

もう1つの事件 1

「こんな朝から死体現場か」

 南城 幸四郎は、助手席で物憂げに言った。


 今朝通報された事件で、新人の上原 雅道と現場に急行していた。

 サイレンを鳴らし、一般車両の間を通り過ぎる。

「ふー」

 上原は緊張のせいか、深く息を吐いた。


 彼はつい二日前に捜査一課に配属された新人だ。

 緊張するのは当たり前だろう。


「上原、大丈夫か?」

「あっ…はい」

「捜査一課に配属されて初めての死体現場で緊張するだろう。それは初めはみんな同じだ。俺も新人の頃はそうだった」

 南城は優しく声を掛けた。


「わからないことがあったら、なんでも聞けよ」

「はい、ありがとうございます」

「お前運転うまいな」

 上原の緊張をほぐすため、話を変えてみる。

「車の運転が好きでよくドライブするんですよ」

 上原の少々硬い顔が緩んだ。


 パトカーと鑑識の車が数台止まっていた。

 既に、マスコミが数名立っているのが見える。

 現場は雑草に覆われている広場だ。

 車から降り、黒色の傘をさした。

 マスコミの群れを通り過ぎ、空き地を進んで行く。

 ブルーシートで覆われたテントに入ると、その先に鑑識官が数名しゃがみ込み、写真を撮っていた。


「お疲れさん」

 南城が挨拶をした。                                    

「南城さんお疲れ様です」

 刑事が挨拶を返す。

 南城の前には遺体が横たわっていた。

 恐らく全裸だ。顔は潰れており、原型をとどめていない。

 死臭が南城の鼻を襲った。

「あっ、あんたが南城さんの新しい相棒?」

「は…はい」

 顔を苦痛に歪め声を絞りだし、上原は返事をした。


 初現場がこんなキツかったら、自己紹介できないのも当たり前だな。

「こいつは上原っていうんだよ」

 南城が、上司らしくフォローした。


「で、状況は?」

 手を合わせた後、手袋をはめながら南城が訊いた。

「死後二日以上たっています。死亡推定時刻は午後21時から24時の間です。腹部には刺し傷が四ヶ所、顔は鈍器なようなもので潰され手首と足首が切断されています。それと衣類は着用していませんでした」


「うっ」

 振り返ると、上原が手で口を押さえて吐きそうになっていた。

「おい、吐くんだったら向こうで吐いてこい」

 南城が、慌てて草むらを指さした。

 上原は口を押えながら南城が指さした方向へ、傘を差さずに走っていく。


「やっぱり、新人はみんな同じですね」

 南城は苦笑いをした。

「あと、この被害者は所持品は無し。携帯も財布何も持ってないんです」

「犯人が持ち出した可能性があるな」

「あと指紋もこの天気なので、まだ確認できません」

「そうか。しかしひどいな…これは相当恨みを持っているな」

 犯人は被害者をここに呼び出し殺害した…

 いや、ここで犯行を行うと近所の住民に見られるリスクがある。

 じゃあ別のところで殺害し、被害者の身元がわかりそうな物を抜き取った後、この空き地に放棄したと南城は考えた。


「あと、通報者はあそこのマンションの住人です」

と後ろを指さした。

 できた当初は濃い紫色だったのだろうが、色は薄くなり汚れが目立つマンションだった。


「通報者に話を訊いたのか?」

「いや…今からです」

「俺と上原で話を訊いてくる。部屋番号は?」

「四〇一号室です」

「わかった」

「おい!上原」

 まだ草むらにいる上原を呼んだ。

「はい…」


 か細い声で青白い顔をしながら、南城のほうに歩いてきた。

 スーツはびしょびしょになっている。


「大丈夫か?」

 と言ってタオルを渡す。

「はぁ…ありがとうございます…だい…じょうぶです…」

 声にまったく力が入っていない。

「通報者に話を訊きに行くぞ。あそこのマンションだ」

 既にびしょ濡れだが、一応傘を渡した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ