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悲しき仮面  作者: 碧野 颯
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嵐の幕開け 4

「お疲れ様です会長」

 仲宗根ら幹部が椅子から立ち上がると、扉が開いた。

 そこには、勅使河原会長が立っていた。

 幹部全員、お辞儀をする。 


勅使河原会 会長 勅使河原 勇次郎 


 沖縄の業界を仕切っており、語句流会をたった一人で壊滅させた男。

 黒のダブルスーツをと赤色のネクタイがトレードマークだ。

 スーツはイタリア産の生地で発注しており、一着数百万もする。

 仲宗根ら幹部たちは、勅使河原の圧倒的な存在感にいつも威圧される。


 杖をつきながら、勅使河原会長が歩き始める。

 幹部たちを通り過ぎ、真ん中の椅子に座った。幹部たちも続いて腰を掛ける。

「今日は台風の中ご苦労だった」

 勅使河原がガラガラな声で言った。


 三年前まではもっと声が出ていたのに、年のせいか弱くなっていた。

 会長は軽く咳払いをし話し始める。

「今日集まってもらったのはほかでもない…勅使河原会に仕掛けてくる奴らのことだ」

「わしも襲撃かけられたんだから、お前らも狙われたんじゃないのか?」

「そいつのことを知り合いの警察署長に訊いたんだが、県警もさっぱりわからないということだ。だからお前らから情報を得ようと、会合を開いたというわけだ」


 四人は顔を見わせた。

 数秒の沈黙が流れる。

「申し訳ありません。現場の近くに聞き込みしましたが…把握しておりません」大城が申し訳なさそうに口を開いた。

 比嘉と喜屋武も同じように答えた。

「親父(会長)俺は襲撃された時に、そいつの顔を見ました」

 仲宗根が言うと、全員彼に注目した。

「特徴は?」

「えぇ 確か…」

 仲宗根は襲撃犯の顔を思い出した。

「年齢は二十代前半で、口周りには髭を生やしていました。身長はおよそ180㎝程です。体が大きい割には俊敏で、隙がありませんでした。奴はプロです」

「上山会ですかね?」

 比嘉が会長に目を向けた。


 上山会とは、今から十年前の一九九六年頃、勅使河原会に引き金を引いた組織だ。

 その抗争で多くの死者を出し、稀に見る酷い戦いだった。

 しかし、絶対的総力を持つ勅使河原会に押され、上山会が手打ちを申し出て和解に応じた。

 いわば、事実上の上山会の降参だ。


「いえ、それはないと思います」

 仲宗根が否定した。

「何でそう思う?」

「雰囲気が極道ではなかったんです。何と言いますか…極道の匂いじゃないというか」

「じゃあ、極道以外の別の組織の可能性があるな」

「でも、あくまでも俺の考えなので…」

「いやその考えもあり得る。じゃあ、わしは知り合いの署長に仲宗根が見た男のことを訊いてみる。お前らは襲撃犯の情報を探ってくれ」

「極道の怖さ教えますよ」

 比嘉がドスの効いた声を出した。


「今日はこんな大荒れだから、少しゆっくりしていったらどうだ?」

 勅使河原会長が笑顔を見せた。


「そうですね」

 若頭の大城が三人の方に振り返り言った。

「お前ら、こんな雨じゃ帰れないだろ?」

「確かにそうですね じゃあ会長の言葉に甘えさせていただきます」

 比嘉が言った。


「そうか、お前ら酒飲むか? 大城、ワイルドターキーマスターズキープを取ってこい」

「わかりました。」

「頭、俺が取りに行きますよ」

 喜屋武が席から立ち上がった。


「お前、酒の場所わからないだろ」

 そう言って、大城は会議室を出た。

 しばらくして、大城が酒の入っているグラスを持ち戻ってきた。


 まず勅使河原会長にグラスを渡す。

 その後、仲宗根、比嘉、喜屋武の順番に渡していった。

「これはなワイルドターキー マスターズキープという酒だ」

 勅使河原会長が口を開いた。

「最初はアルコールがガツンと来るが、味は程よく甘い。日本人の好きな味だ」

「嬉しいよ。今日は久しぶりに全員が集まってくれて」


 親父(会長)のこんな嬉しそうな顔を久しぶりに見た。

 会長は、一気にグラスに入ったバーボンを飲み干した。

 酒が飲めない仲宗根は顔をゆがめた。

「これがうまいのか…」


 喉の奥が燃えるように熱い。

 匂いもきつくせき込みそうになったが、グッと胃の中に押し込んだ。

 外は大荒れだが、中では親父を含め、各兄弟と心地よい時間が流れている。

 しばらく話をしていると、激しい腹痛に襲われた


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