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禁忌の魔獣

お読みいただきありがとうございます。


本日は1話更新です。

「最近の魔獣の動きが、尋常ではありません」


騎士団の会議室で、カインが地図を指しながら説明していた。葵も医務官として、この重要な会議に参加していた。


「通常、この季節の魔獣は単独か、小規模な群れで行動する」

地図上の印を指す手つきに、わずかな焦りが見える。

「しかし、この一ヶ月で群れの規模が急激に拡大している」


「死傷者の数も増加の一途です」

別の騎士が報告を続ける。

「特に、傷の症状が...」


葵は思わず身を乗り出した。

確かに、最近の負傷者たちには気になる共通点があった。


「傷口が通常よりも治りづらく」

葵が口を開く。

「患部に黒い斑点が残る。まるで...毒のように」


会議室が静まり返る。


「葵」

カインが初めて彼女の方を向いた。

「それについて、詳しく」


「はい。私の『生命の痕跡』で確認したところ、傷の中に何かが残っているんです。通常の魔獣の爪傷とは明らかに異なる何かが...」


説明を続けながら、葵は考えていた。

(これは、前世の医学知識でも説明できない症状)


「調査が必要だな」

カインが決断を下す。

「第三部隊で、魔獣の痕跡を追う」


「私も同行させてください」

葵は即座に申し出た。


「却下だ」

カインの声は冷たかった。

「危険すぎる」


「でも、この症状の原因を突き止めるには、私の能力が...」


「医務官は後方で待機していろ」

言い切ったカインは、それ以上の議論を許さない態度で会議を締めくくった。



「お嬢様、無理をなさらないで」

医務室でアンナが心配そうに声をかける。


「分かっているわ」

しかし、葵の心は落ち着かなかった。

このまま、カインたちを危険な調査に向かわせていいのだろうか。


窓の外では、出発の準備をする騎士たちの姿が見える。

漆黒の鎧に身を包んだカインが、部下たちに最後の指示を出している。


(あの傷が、また増えてしまう)


葵は決意した。

「アンナ、少し出かけてくるわ」


「お嬢様!まさか...」

「大丈夫。すぐに戻るから」


アンナの制止の声を背に、葵は医務室を後にした。

目指すは、騎士団の資料庫。

そこには、魔獣に関する古い記録が保管されているはずだ。


「これは...」


薄暗い資料庫で、一冊の古い書物を見つけた時だった。

ページをめくると、見覚えのある黒い斑点の記述が。


『禁忌の魔獣――人の血を糧とし、魂を蝕む悪性の獣』


それは、百年以上前の記録だった。

当時、同じような症状が報告され、多くの犠牲者を出したという。


葵が資料庫を飛び出した時、騎士団はすでに出発した後だった。


「間に合わない...」

その時、馬の嘶きが聞こえた。

厩舎に一頭、まだ馬が残されている。


(前世では、救急車を運転していた)

葵は迷わず馬に跨った。

(今度は、馬を走らせればいい)


「御免なさい、カイン様」

彼女は小さく呟いた。

「でも、黙ってはいられません」


木々が風のように通り過ぎていく。

葵は必死で騎士団の痕跡を追った。


その時、前方から悲鳴が聞こえた。

葵は咄嗟に馬を止める。


茂みの向こうで、戦闘が始まっていた。

黒い影が、騎士たちを取り囲んでいる。


そして、その中心で―

カインが、一際大きな魔獣と対峙していた。


禁忌の魔獣。

百年の時を超えて、再び現れた脅威。


葵の手が、かすかに光り始める。

今、彼女にできることは何か。

その答えを、彼女はすでに知っていた。

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