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もう一つの物語

ご覧いただきありがとうございます。

皆さんのおかけでここまで更新を行えました。


一度完結となりますが、今後ともよろしくお願いいたします。

東京消防庁の救急車が、今日も都内を走っていた。


「山田さん、連絡入りました」

同僚の声が、車内に響く。

「交通事故、現場は...」


「了解」

山田は、ハンドルを握りしめる。


あれから一年。

葵さんを失ってから、彼は上級救命士の資格を取得し、さらに現場での経験を重ねていた。



「大丈夫です。すぐに病院に向かいますから」

現場で、山田は負傷者に語りかける。

その仕草は、どこか懐かしい人を思わせた。


「葵さんみたいですね」

現場から戻る車中、パートナーが言う。

「あの温かい声の掛け方」


「...そうかな」

山田は、少し照れくさそうに答えた。


確かに、彼は意識していた。

あの日、最期まで人を救うことに命を懸けた先輩の背中を。


「でも、不思議なんですよ」

山田は、信号待ちで車を止めながら言った。

「たまに夢を見るんです」


「夢?」

「葵さんが、別の世界で」


「別の世界?」

「ええ。騎士とか魔法とか、ファンタジーみたいな世界で...」


パートナーは、不思議そうな顔をする。

「山田さん、小説でも書き始めたんですか?」


「いや」

山田は首を振る。

「なんというか、すごくリアルな夢なんです」


白衣のような装いの葵さん。

彼女の手から放たれる不思議な光。

そして、漆黒の鎧を着た騎士。


「夢の中の葵さんは、幸せそうでした」

山田は、空を見上げる。

「だから、きっと...」


その時、無線が鳴った。

「救急車両、要請。現場は...」


「了解」

山田は、即座にハンドルを握る。

「向かいます」


(葵さん、見ていてください)

(今度は、僕が多くの命を救ってみせます)


救急車は、再び都内の通りを走り出す。

サイレンが、夕暮れの街に響いていく。


どこか遠くの世界で、

彼女もまた、誰かの命を救っているのかもしれない。

そう信じながら―。



不思議な縁は、そこで終わらなかった。


その日の夜勤明け、山田は病院の売店で偶然手に取った小説に目を留めた。


『救命令嬢は騎士の傷を癒やす』


著者名を見て、彼は思わず目を見開いた。

そこには、「佐藤葵」とあったのだ。


表紙には、白衣のような装いの少女と、漆黒の鎧の騎士が描かれている。

まるで、彼の見た夢のように。


「まさか...」


山田は、その本を手に取った。

ページを開くと、そこには見覚えのある dedication が。


『命を救うことを誓った、

すべての仲間たちへ』


彼は、思わず空を見上げた。

夕暮れの雲間から、光が差し込んでくる。


どこかで、誰かが、

確かに生きている証のように、通り過ぎる救急車のサイレンが街に響き渡る。

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― 新着の感想 ―
まだ続きあるのかな〜と思ってました!よみたりな〜いです。
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