第34話 帰還
「我が愚妹が大変ご迷惑をおかけいたしました!」
ライオス達が王宮に戻ると、シャルメリアの第一王子、シャルルがエスメラルダを掴まえるや否や、彼女に無理やり頭を下げさせた。
「痛い! 痛いわ、シャルルお兄様! 私、もう皆様には謝ったのに!」
「普通の謝罪じゃ足りないんだよ、このおバカ!」
普段エスメラルダを猫可愛がりしているらしいが、今回ばかりは彼もエスメラルダを叱った。
ちなみに今回の一件は『エスメラルダが勘違いしてキャロラインに付いてきた』ということにして、シャルメリアに借りを作ることで話がついたらしい。
ミカエルも内心でほっとしており、一つ重荷が降りたようだ。
「キャロラインも、迷惑をかけたな……」
「いえいえ、エスメラルダはわたくしの心配をしてくれただけですから。そんなことも知らず、彼女を人前で引っ叩いてしまいました……」
「まあ……お前の親父は『よくやった』と言うと思うぞ。身分もそんな変わらないんだから、そう気を落とすな」
そう言って、シャルルはリチャードに目を向けた。
「前回に引き続き、王太子殿下には多大なるご迷惑を……愚妹が失言ばかりだったと」
「ああ。あれは仕方がありません。何もかも叔父上が悪い」
「ひとまとめに私のせいにするな」
エスメラルダに何を言われたのかライオスは知らないが、よほどひどい言われ様だったらしい。
ライオスの失言が原因だったとはいえ、そこまで言われる筋合いはなかった。
リチャードの言葉にシャルルは笑うことなく首を横に振った。
「いえ、王太子殿下。今回ばかりは許されません。帰国後、フロイス公爵に頼んでエスメラルダに再教育を施そうと考えています」
それを聞いたエスメラルダは絶望的な表情を浮かべる。
「えっ⁉ 嘘⁉」
「フリッツと机を並べて頑張るんだぞ?」
「キャロラインの弟と⁉ あんな小さい子と一緒に⁉ いやいやいや! ただでさえ伯父様は厳しいのに! シャルルお兄様見て! こんなに愛くるしくて可愛い妹が、鋼の女って言われているキャロラインみたいになるのよ!」
(ほう、それは次に会う時が楽しみだ)
あのじゃじゃ馬のエスメラルダがキャロラインのような淑女になっていたら、それはそれで面白いだろう。
「素晴らしいじゃないか。連れていけ」
「お兄様ぁあああああああああっ!」
シャルルの部下に馬車に押し込まれるエスメラルダを見送っていると、キャロラインが眉を下げて言った。
「シャルル兄様、エスメラルダの教育を我が家に頼むのは止めた方がよろしいのでは?」
「いや、オレは心を鬼にする。これもエスメラルダのためだ」
「そう……シャルル兄様が言うのであれば、よろしいのですが……」
「じゃあ、キャロラインも残りの留学期間頑張ってくれ」
そう言ってシャルルは馬車に乗り込み、彼らを乗せた馬車が遠ざかっていく。
彼らを見送るキャロラインが大きなため息をつきながら『おバカねぇ』と心の中で呟く声が聞こえた。
『シャルルってば、うちのお父様にエスメラルダの再教育を頼んだら『人の家の教育を罰にするとは何事か』って叱責されて、あなたが再教育されるに決まっているのに。昔、陛下が同じようなことをしてお父様に叱られたのを知らないのかしら?』
(きっと知らないんだろうな……)
波乱に満ちたエスメラルダ密入国の一件は静かに幕を閉じたのだった。




