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第27話 外出

 

 ライオスは困っていた。


 息子の未来を憂いて頭を抱えていたミカエルの重荷を、少しでも軽くしようと思った矢先に『お前は何もするな』と釘を刺されてしまった。


(どうやら兄上は、私の余計な一言でお見合いが潰れるのではないかと思っているようだ)


 ミカエルから伝わってきた感情は心配、苦悶、迷い。このままではストレスで胃に穴が開いてしまうのではないかとライオスは密かに心配している。


(しかし、何もするなと言われれば仕方がない。私はルルイエとデートを満喫するぞ!)


 昨日に引き続き、ライオスはミカエルの命令で、マシューの実家に遊びに行く。


 マシューはミカエルの乳兄妹の息子で、母親の実家グレイヴ家は使用人に紛れて身辺護衛するのが生業。いわば要人警護のスペシャリスト集団である。


 そんなマシューの実家は自然豊かな場所で遊ぶものたくさんあり、レジャースポットと違って人も少ないため、子どもの頃からライオスが気に入っている場所だった。


(マシューの実家は護衛が使用人に紛れているから物々しい雰囲気にならない。連日の外出最高……それで、なんでこんな大所帯になっているのかな……)


 ライオスと共に馬車に乗るのは、ルルイエ、リチャード、キャロライン。そして、後続の馬車にはカレンとヨルン、エスメラルダとシシリーと続く。


(兄上……何もするなと言っておいて、なぜ我々の外出に彼ら同行させるのか。フロイス公爵令嬢の息抜きだと言っていたが……)


 心が読めるのに時々、兄の考えが分からない。聡いミカエルのことなので何か考えがあってのことだろう。


 今日はエスメラルダの兄が到着する予定なので、ライオス達がいない間に何か話し合いたいことでもあるのだろうか。


 ライオスは出発前にしたミカエルとの会話を思い出した。



『いいか、ライオス。お前は極力何もするな。ルルイエ嬢と仲良く過ごしているんだ。ただ、何かあったらマシューやグレイヴ家の者に頼れ。いいな?』

『いやですね、兄上。ルルイエと仲が良いのはもちろんのことなのに、なぜそんなに念を押すのですか?』

『自分の胸に手を当ててよく考えなさい』



 あの時、両手を胸に当てて考えてみたが、何も分からなかった。


(兄上、そんなに弟の私が信用できませんか……)


 いや、もっとポディシブに考えよう。むしろ、この信用の無さは逆に信頼されているのではないだろうか。


「叔父上」


 不意に声をかけられ、ライオスが顔を上げると、怪訝な顔をしているリチャードと目が合う。


「ずいぶんとお疲れのようですが?」

「ああ、昨日は郊外へ遊びに行ったからね」

「郊外? ああ、なるほど。珍しいですね、叔父上がレジャースポットに遊びに行くなんて」

「兄上の勧めでね。ね、ルルイエ?」

「はい。シシリー様やエスメラルダ様ともご一緒で、とても楽しかったです。ボートに乗って、乗馬もしました」


 嬉しそうに話すルルイエが眩しく、先ほどの憂いが吹っ飛ぶ。


(ルルイエ、可愛かったなぁ…………)

「ルルイエ様は乗馬も嗜まれるのですか?」

「いえ、ライオス殿下と御一緒に。手綱は後ろでライオス殿下に握ってもらっていました」


 キャロラインの質問にルルイエがそう答えると、キャロラインのじっとりとした感情がライオスを撫でた。



『へぇ…………』



 なにやら頭の中でピンク色の靄が広がっていく。一体その靄が何を示すか分からないが、ライオスは咳払いして話題を逸らすことにした。


「そういえば、フロイス公爵令嬢は乗馬を嗜んでいるみたいだが?」

「はい。王家筋は皆、有事の際にいつでも馬で動けるよう乗馬は必須条件になっています。もちろん、妃教育にも組み込まれていますので、王子妃だったわたくしのお母様も乗れます」

「まあ、キャロライン様のお母様も!」

「ええ、お母様はあまり得意ではなかったようなのですが、大変負けず嫌いな性格でして。当時はお父様と競うように練習していた母に、憧れを抱いた女子生徒がたくさんいたそうです」

「すごいですわ」


 目を輝かせるルルイエの頭には、一冊目のロマンス小説に登場する白薔薇の貴婦人を思い浮かべていた。


 ちなみに、男装麗人でヒロインの親友かつ恋の橋渡し役である。


「もしかして、キャロライン様はお母様に乗馬をお習いに?」

「はい。一気に野を駆けると風がとても気持ち良くて楽しいですよ」

「わたくしも今から練習したら乗れるようになるかしら」


 彼女の頭の中ではライオスと楽し気に遠乗りする光景を浮かべていた。


「ルルイエ、乗馬を習いたい?」

「少し興味が湧いてきましたわ。ライオス殿下と一緒に遠乗りも楽しそうかと」

(ルルイエと遠乗りか。それはそれで魅力的だけど……)


 ライオスとしては、ちょっと複雑なのも確かだ。


「そうか。しかし、ルルイエが馬に乗れるようになったら、寂しくなるな。乗馬の時はいつも私の傍にいてくれたからね。でも、君が乗馬を習いたいなら私が手取り足取り教えてあげよう」


 一緒の乗馬も楽しいが、彼女に乗馬を教えるのもまた楽しそうだ。


「目的地に着いたら、さっそく乗馬でもするかい?」

「殿下のお手を煩わせるわけには……ああっ、でも……」


 恥ずかしさと嬉しさで右往左往するルルイエはとても可愛い。ロマンス小説のおかげで積極性を身に付け始めたが、それでも彼女の貞淑な淑女らしい恥じらいがまたぐっとくる。


(はあ、可愛い)

『『はぁ…………』』

(ん?)


 ため息が聞こえたかと思うと、正面に座るリチャードの苛立ちとキャロラインの喜びの感情がライオスにぶち当たる。



『『隙あらばイチャつきやがって!』』

(息ぴったりだな、お前達!)



 互いに発する感情はバラバラだが、息の合った心の声にライオスは内心で嘆息を漏らした。


(早くマシューの実家に到着しないかなぁ……)



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