第25話 兄と弟
王宮に帰ってきたライオスはシシリーから受けた報告をミカエルに告げると、彼は大きく頭を抱えた。
「私もとうとう歳か? 今、エスメラルダ王女がお見合いを潰しにきたと聞こえたんだが」
「いいえ、兄上。私は確かに言いました」
耳を疑いたくもなる。両国が納得して組んだ顔合わせだ。密入国してまで王女が乗り込んでくると誰が思うか。
「…………しかし、なぜ?」
「エスメラルダ王女曰く『リチャード殿下にキャロラインは勿体ない!』だそうです」
「あぁ……まあ……うん」
自分の息子とはいえ、否定ができないミカエルは苦々しい顔で頷いていた。
どちらかといえば、ミカエルはキャロラインとの縁談がまとまって欲しいと思っているのだろう。ライオスもしっかりした女性がリチャードに必要だと思っているので、キャロラインは推したい。
「まあ、あくまでエスメラルダ王女の個人的な意見ですけどね。実際問題、リチャードとフロイス公爵令嬢はどんな感じなんですか?」
ここ最近は別行動なのでライオスは彼らの状況を把握していない。関係性は良好とだけマシューから聞いている。
「ああ。だいぶ仲が良いようでな。図書館を見学した後、また城下に遊びに行ったらしい。帰って来たリチャードの機嫌はかなり良かった」
「ほう……」
それはとても興味深い。どんな感じだったのかちょっと聞いてみようかと考えていると、じろっとミカエルに睨まれる。
「そう睨まないでくださいよ、兄上。私だってリチャードのことを心配しているんですから」
「じゃあ、お前はフロイス公爵令嬢をどう思う? リチャードに相応しいか? いや、リチャードは…………彼女に相応しいだろうか?」
「兄上……」
胃を押さえて声を震わせる兄が、ライオスは不憫に思えて仕方がない。
もっと自分の息子を信じてやって欲しい。
「本人達の気持ちはさておき、フロイス公爵令嬢は優良物件だと思います。あのくらいしっかりした女性でなければ、リチャードの伴侶は務まりません。ただ……相手に想い人とかいないといいのですが」
彼女には心の中で名前を呼ぶくらい仲のいい異性がいるらしいので、ライオスはそっちの方が心配だ。
しかし、ミカエルは違うらしい。
「王家の血筋を引く令嬢だぞ? 恋愛と結婚が違うくらい分かっているはずだ」
「最近の子は分かりませんよ?」
「彼女はお前と同い年だろう。私は彼女よりお前の方が分からない」
(フロイス公爵令嬢こそ、複雑怪奇な心の持ち主なんだけどなー……)
納得がいかないライオスの様子を見て、ミカエルはため息をつくと背もたれに寄りかかった。
「とにかく、エスメラルダ王女には目を光らせておく必要がある。ライオス……」
「はい。任せてください、兄上」
この不肖、ライオス。甥っ子の為に尽力しますと胸を叩いたつもりが、ミカエルは静かに首を横に振った。
「いや、お前は何もするな」
「御意」