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第21話 兄からの呼び出し

 

 ライオスがミカエルの執務室へ入ると、口元で手を組んで座っていたミカエルが重いため息を吐き出した。


「ライオス。私がどうしてお前をここに呼び出したか分かるな?」

「ルルイエとのデートの報告ですよね?」

「…………ライオス」


 ほんのちょっととぼけて言ったつもりが、ミカエルに睨まれる。

 まさか冗談すら受け入れてもらえないとは思わず、ライオスは首を横に振った。


「リチャードの件ですね。私が怒らせたから」

「なんだ、今回は怒らせたという自覚があるのか? 一体今度は何を言って怒らせたんだ?」

「え?」


 思わず素っ頓狂な声を上げる。


 てっきりライオスはリチャードが外出の報告した時に、ミカエルへ愚痴をこぼしたのだとばかり思っていた。


「リチャードから聞いてないんですか?」

「何か言いたげにしてはいたんだが、今日の報告を済ませたらすぐに退室して行った。イライラしていたから、お前がまた何かしたんだろうと推測したんだ」

「それで私が無実だったらどうするんですか?」

「それはお前の日頃の行いが悪い」


 そう言われてしまえば、ライオスは何も言い返せない。実際に、無自覚でリチャードを怒らせているのは事実だ。


「それで、何をしたんだ?」

「リチャードが民の関心が何に向いているのか知るために、巷で人気の小説を購入したんです」


 それを聞いたミカエルが感心したように頷いた。


「別に悪いことではないだろう」

「ただ、その本が恋愛小説だったので、リチャードに恋愛はまだ早いんじゃないかって言ったんです」

「はっ、八歳で初恋を済ませたお前が言えた口か」


 ミカエルに鼻で笑われ、ライオスはやれやれと肩を落とす。


「でも、直近の恋愛事情を考えると心配でしょう?」

「そう言ってやるな、ライオス」


 長いため息をついた後、ミカエルは背もたれに寄りかかった。


「リチャードにはもっと早くに婚約者を見繕ってやれれば良かったんだがな。まだ時間があると思って急がなかったのが良くなかった」


 ライオスが幼少期に心を閉ざしてしまった関係で、ミカエルは実の息子よりもライオスを優先にしてしまった。

 特に婚約者に関しては、この国が現在平和で、無理に政略結婚をする必要がなく、王族というブランドもあって、相手に困らないと思っていたのが原因だ。

 今でもリチャードの婚約者の座を望む家は多いが、それは厄介者ばかり。現在ミカエルはリチャードの性格を考えた上で必死に相手を探している。


 ライオスはミカエルの感情をキャッチすると、リチャードが学校の卒業パーティーでパートナーがおらず、ぽつんと一人でいる光景が脳裏に浮かんだ。


 おそらく、ミカエルは来年の卒業パーティーまでには婚約者を見繕ってあげたいのだろう。


(仕方ない。ここは私も一肌脱いで……)

「兄上、私も何か協力を……」

「お前は何もしなくていい」

「御意」


 兄にそこまで言われたのなら仕方がない。ライオスは素直に頷くことにした。

 ふと、ため息を漏らしたミカエルから何やら妙な感情が伝わってくる。


(ん? なんだ? まるで何か本腰を入れたような……)


 何となくミカエルが居住まいを正して話の本題に入ろうとしているように感じた。

 これは何か厄介ごとを押し付けられる前兆。


「それでは、兄上。報告も済みましたので御前を失礼させて……」

「ライオス、そこに座りなさい」

「御意」


 逃亡は失敗に終わり、ライオスはソファに腰を下ろすと、ミカエルが向かい側に座った。


「お前には申し訳ないんだが、次の休みの予定を変更して欲しい」


 いきなり何を言い出すのかと思えば、そんなことかとライオスは安堵を漏らした。


「別に構いませんよ。次の休みはルルイエと王宮で過ごす予定だったので」


 ミカエルがそう言うということは、何か急を要することなのだろう。リチャードを怒らせたことを踏まえると、休日中は王都を離れる用事を言い渡されるかもしれない。ルルイエと一緒に休日を過ごすことができないのは残念だが、兄の頼みはあまり断りたくない。


「良かった。実はお前にはルルイエ嬢とここへ向かって欲しい」


 そう言って出された地図には、王都郊外にある湖だった。

 その辺りは貴族達の間で休日のレジャースポットとして有名な場所で、ピクニックや乗馬を楽しむ事ができる。人が多い場所が苦手なライオスだが、ルルイエと遠出ができるなら文句はない。


「ぜひ、行きます!」


 ライオスは食い気味に返答し、ミカエルが肩をすくませたのだった。


 ◇


 ミカエルの呼び出しから数日後、キャロラインが留学開始から初めての休日だ。

 ご機嫌に出かける準備を終えたライオスは、鼻歌を口ずさみながらルルイエの到着を待っていた。


(今日はルルイエと遠出だ!)


 ミカエルの意向で王都郊外へ外出することになり、気分は上々だ。


(兄上には感謝だ。帰りは遅くなるから事実上、ルルイエと門限過ぎても遊んでいいと言われたようなもの! 最高! でも……)


 今回のデートには裏がある。リチャードやフロイス公爵令嬢には内緒の話だ。


(エスメラルダ王女もいるんだよなぁ…………)


 ずっと王宮内に閉じ込めておくのも窮屈だろうと、ミカエルが世話役の侯爵令嬢にも声をかけて出かけることにした。


 ミカエルに頼まれたことは一つだけ。

 エスメラルダから密入国した理由を聞き出すこと。


 ライオスは昨日のミカエルとの会話を思い出した。



『シャルメリアと連絡がついてな。向こうはエスメラルダが突然姿を消したことでだいぶ大騒ぎになったらしい』

『でしょうね』

『そこで早急に第一王子が迎えにくるようなのだが、できればエスメラルダ王女がこの国に来た理由を探って欲しいとのことだった』

『そこは責任を持って自分で口を割らせるところでは?』

『かの国の王族は末姫に甘いらしいからな……フロイス公爵令嬢が説得してもダメなら難しいようだ。お前相手なら、惚れた弱みにぽろっと口にするかもしれないだろう?』

『ははっ、御冗談を』



 あの時は思わず乾いた笑いが出てしまった。


 正直、エスメラルダは堂々と馬に乗って現れたのだから大した理由はないだろうとライオスは考えていた。それに関してはミカエルも同意見だったが、隣国の問題に巻き込まれると困るということらしい。


 できれば、こっそり理由を聞ける環境があればいいのだが、王宮では常に護衛や侍女が控えているため、二人きりになることはできない。そこで王都郊外にある湖へ行き、ボートに乗れば、密談できる場が生まれるだろうと、エスメラルダを連れての外出を提案されたのだ。主な聞き出し役は世話役の侯爵令嬢だが、ライオスも十分サポートするようミカエルに言われた。


 ルルイエと二人きりではないことが残念だが、仕方がない。


(まあ、楽しんでいこう)

「殿下、ローウェン公爵令嬢達が到着したようです」


 マシューに呼ばれ、ライオスは頷く。


「ああ。今行く」


 ライオスは軽い足取りでルルイエが待つロータリーへ向かうのだった。



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