それぞれの夜の1幕
※瑞穂目線
「私と同じ部屋になったからにはあなたの好きにさせないから。」
「うっ...。」
流れでハルたんと同じ部屋になったけど……。
このままじゃ何も出来ないなぁ……。
合宿と言う中々無い機会に悠太との距離を他の人より縮めておきたいと思っていた。
確かに一度はあっさりと手放した存在である。
でも再会してまた関わってみて、これまで関わってきた他の人達とは違う彼の事が気になっている自分に最近になって気付いた。
これが本当に恋なのか、今はまだ分からない。
いつからかそんな事もハッキリと分からなくなる位に誰かと付き合っては別れてを繰り返していた。
でもあたしにとっては特別で、気になっているのは確かだ。
……、後悔はしたくない。
今のこのハッキリしない気持ちのまま、悠太を誰かに渡したくなんかない。
何も出来なないまま終わればきっと後悔する。
今はその為の大チャンス!なんだけど……。
まさかお堅いハルたんと相部屋とは……。
単純に見つかったら面倒ってのもあるけどなんだかハルたんも悠太の事気になってる雰囲気あるし油断ならないんだよね...。
だって……。
「お願い!あんたにお願いするなんて私のプライドが許さないけどこれだけはどうしても……お願い!」
「……断って良い?」
「お願いだから!私に料理を教えて!」
「最初からそう言えば良いのに……。」
「いや、だからそれは私のプライドが……。」
「やっぱり断ろうかな……。」
「嘘!嘘だから!」
「と言うか他に頼める人はいなかったの?」
「うっ……。」
そう言えばハルたんが生徒会メンバー以外と仲良く話してるとことかあんまり見た事無い気がする……。
「……生徒会メンバーとかだっているじゃん。」
「さり気なく友達って選択肢を除外しないでくれる!?」
「じゃあいるの?」
「い、いるし!」
「なら頼んだら?」
「い、いやだからそれは…あの二人とか他の人に知られたくないと言うか……。」
「やっぱ断って良いかな……?」
「だから!私にも生徒会長としてのメンツがあるのよ!」
「いや……それだとあたしなら巻き込んでも良いみたいに聞こえるんだけど...。」
「こ、こんな事あなたにしか頼めないのよ……だから!お願いします!」
はぁ……涙目でそんなセリフ言われちゃったら断れないじゃん……。
「分かった分かった……。」
「本当!?ありがとう!」
この時安請け合いした事を後悔する事になるのだが、その時のあたしがそれを知る由もなく……。
「これ切ればいいのね!
えいっ!」
まな板の上に置いた人参に向けて、勢いよく両手に持った包丁を振り下ろそうとするハルたん。
「ストーップ!?
そんな薪割りみたいな切り方じゃダメだから!!」
「え?だってゲームのキャラはこうやって...「それ歴史アクションゲームとかの話だよね!?
ちゃんと料理のゲームのにして!?」」
「えーじゃあこの肉を……フンッ!」
「その肉に何か恨みでもあるの!?」
今度は切るのかと思ったら一思いに包丁をぶっ刺すハルたん……。
「え、推理ゲームで犯人が...「だから!参考にするゲーム間違えてるから!?」」
どんだけゲーム好きなのよ...。
まずは包丁の持ち方からか……。
これは前途多難だな……と思った。
まぁ、何とか合宿までに間に合った訳だが……。
本当終始ヒヤヒヤだったのは言うまでもない...。
カレールーと間違えて板チョコ入れ始めた時は本当に焦った……。
本当なんで頭良いくせにそんなアホな事してんだか……。
それでもまぁ、あたしに怒られつつも諦めずに頑張ったのは一重に自分が作った物を食べさせたい相手がいるからなのか単にプライドが高いからなのか実際の所は分からない。
でも普通に前者もありそうだから困る……。
そうしなくても、悠太の周りには他の元カノがいる。
最初から好感度がぶっ壊れててストーカーまでする奴もいれば、なんかいつもひっついてるコミュ障も居るし、明らかにまだ好きで嫉妬しまくってる癖に自分から何もしようとしない奴も。
そしてある意味両思いな妹に……まさかの義妹までいて……そう言えばもう一人なんか明らかに違う意味の熱視線を向けてる義妹も居たっけ……。
先生の事も最推しだとか言ってるしいつも近くをウロついてるロリっ子もなんだか気になる……。
生徒会メンバーともなんだかんだ全員知り合いみたいだし……。
え、なんかモテすぎじゃない……?
こんなに沢山の異性に囲まれるとかある?
ラブコメ主人公じゃん。
やっぱりあたしも何かしらの行動で意識させなきゃ、、
でもなぁ...。
迂闊な事は出来ない。
バレたら何されるか分かったもんじゃないし……。
……ん?
ふとハルたんの方に目を向けると実に気持ち良さそうに寝息をたてていた。
いや、寝るの早いな……。
ベッドに倒れて目を閉じたら一瞬で寝れるって某メガネの小学生じゃないんだから……。
はぁ……なんか寝られそうに無いし夜風にでも当たりに行こうかなぁ……。
そう思ってドアを開けると、ちょうどタオルやらを持って歩いて行く悠太の後ろ姿が見えた。
「あれ……もしかして1人で大浴場に行くのかな……?」
え、これチャンスじゃない?
ハルたんも寝てるし……。
何よりあたしには悠太を好きにして良い権利がある!
フフフ、その後の悠太の反応を予想しながら瑞穂は不敵に笑う。
※茉里愛目線。
「ねね、あなたは悠太のどこが好きなの?」
ふと気になって志麻虫に声をかける。
「え!?全部だよ!」
即答である。
清々しいまでに。
「逆にあなたは?」
「まりは……悠にぃの声が好き……だった。」
「分かる!ずっと聞いてられるよね!
ん?だった?」
「うん、最初はね、ただ悠にぃの声が大好きで、聞けたら幸せで、ただそれだけで良かった。」
「うん、私も悠太の声を日常のBGMにしてるから!」
「それはさすがにやり過ぎ……。」
そう言えばこの人GPSとかもしかけてるんだっけ……。
盗聴とかもしてるのかな……。
してるんだろうなぁ……。
そしたら確かにずっと悠にぃの声を聞いてられ……いやいや、ダメダメ!
「で、でも今は違うよ?
すぐ近くに居るから声だけじゃ足りないというか……もっとこう……「悠太の全てが欲しくなるよね!頭の先から足の先まで全部舐め回したい!」いや……流石にそこまでは……。」
本当一々予想を超えてくるな……。
「前まではぬいぐるみを悠にぃに見立ててぎゅっとしたりしてたけど今は近くにいるから……。」
「うんうん!等身大フィギュアじゃ温もりが無いもんね!」
「そんなのまであるんだ……。」
「うん!作らせた!」
「いや作らせたて、、」
本当話が噛み合ってるようで重さが違い過ぎて噛み合いきれてない……。
「あ、身長とか体重は正確に測った訳じゃないけど多分あってると思う。」
「えぇ……すごい自信じゃん。」
「だって毎日見てるもん!」
「いや毎日見てるからって普通は分からない……。」
「分かるよ!愛があれば!」
「愛があれば……ね。」
本当、悠にぃの事が好きなんだなと思う。
まりもそうだけどなんて言うか別次元と言うか……。
「あなたもそうでしょ?」
「まりは……いや、そうだけど……。
でも流石に身長体重とかは……」
「えー、最近ちょっとお腹が出てきた気がしない?」
本当によく見てるんだなぁ……。
まりだって悠にぃの事が好きだ。
それは間違いない。
でもいつだって自分の想いに正直で、手段が重すぎる事に目を潰れば……。
いや……こんなの目を潰れないでしょ……。
とにかく!いつだって純粋で……全力で……どうしようもなく前向きで……そんな姿勢はまりなんかとは全然違う。
「不安になったりしないの?悠にぃの周りには沢山の人が居るし。」
「全然!だって悠太を好きな気持ちなら誰にも負けないし負けるつもりもないもん。」
「っ……!」
この人が言うと本当に説得力あるからタチが悪い……。
「でも嬉しいなぁ。
こうやって誰かと好きな人の話をするなんて今まで無かったから。」
「……あなた友達居ないの?」
「居ないよ?」
「いや……そんなあっさり……。」
でもそりゃそうか……。
あんなに四六時中悠にぃに付きまとってたら他の誰かと関わる機会もないだろうしあと純粋に傍から見たら重すぎて怖いし……。
まぁでも……。
「……まりがなってあげても良いけど……」
一度関わってしまうと、どこか憎めないから不思議だ。
「良いの!?」
うわ、めっちゃ食い気味じゃん!
「嬉しいなぁ、そんな事同性に言われた事ないから!」
うん……悪いけどそんな気がする……。
「え、同性のお友達って何するんだろ!?
写真の交換とか!?」
「いや、それはアイドルとかなら分かるけど……。」
「他には何か欲しい物ある!?髪の毛とか!?
ちょっと名残り惜しいけど悠太が食べたガムとかもあるよ!」
「それは普通にいらない……。」
早速自分が言った事を後悔しそうになった……。
「他にもこれとかこれとか!」
そう言って写真を見せてくる志麻。
え、こんな物まで!?
本当敵わない……いや、これ敵っちゃダメだわ……。
ま、まぁ見習うべきところもあるにはある…けど。
そう思うと同時に、今後もっとこの人は警戒しなければと思うのだった。
悠にぃはまりが守るんだから!




