嘘つきは泥棒の始まり
「はぁ……。」
「怒られちゃったね〜。」
俺が全力のため息をする中、原因を作った当の本人である瑞穂は随分気楽な物である。
「いや誰のせいだと思って……。」
「まだ反省が足りないのかしら?」
「ひぃっ!?」
そんな瑞穂に背後から圧をかけるハルたん会長。
いや寝起きの苛立ちもあるのか本当怖かったです、はい。
あれだ、千鶴さんと言い、ハルたん会長と言いどちらも美人なだけに普段の姿が美しい分マジギレした時とのギャップが怖いと言うか……。
「良いじゃん、あたしはちゃんと正当な権利を持ってやったんだから!」
「は?」
「ハルたんにもあの二人にも勝って悠太を好きにする権利を勝ち取った!」
あ、ハルたん会長にも勝ったのか……。
だからハルたん会長髪直しに行く去り際あんな感じだったのか……。
「あんたが勝手に言ってるだけでしょうが。」
「あだっ!?」
出た!ハルたん会長必殺の空手チョップ!
「そ、そんな権利があるならまりだってもっと頑張ってたもん!」
「わ、私だって!」
まりちゃんだけじゃなくひーちゃんまで!
ひーちゃんに好きにされるなら俺はもう思い残す事はない……!
「シスコンキモイ……。」
なんて考えてたらそう言ってロリ天使が露骨に顔を顰めてきた。
口には出してない!想像と妄想の自由を主張します!
「悠太、今日は私と入ろ!」
と、ここで志麻が言いながら抱きついてくる。
「駄目に決まってんでしょうが。」
「痛いっ!?ぴえん……。」
おぉう、志麻も会長のチョップの餌食に、、
「言っとくけど今日はそんな変な賭け事付きの競技大会的なのは禁止だから。
普通に泳いで午後からは勉強だからね。」
「ちぇー...ハルたんのいけずー。」
ハルたん会長のお言葉に瑞穂がつまらなそうにぼやく。
「何か言った?」
「滅相もありません!!」
「あ、そうだ。
スイカがあるから海で冷やしときましょ。」
ここで思い出したようにハルたん会長が言う。
「お、良いな。
夏らしいじゃん。」
「よし!じゃあ後でスイカ割りしよ!」
俺がそう返すと、瑞穂が提案する。
「そうね、まぁそれくらいなら。」
それにハルたん会長も同意する。
海でスイカを冷やして割って食べる!
こう言う青春っぽいイベント前世では無かったなぁ。
「良いな!悠ちゃんスイカの役な?」
と、言って話に入って来たのは秋名たんだ。
「おいこら。」
「おっ、良いな。
俺も混ぜろよ。」
直也まで、、いやまぁコイツには最初から期待してないけどw
「駄目に決まってんでしょうが。」
おぉう、高速ツッコミ。
流石ハルたん会長……。
「いてて、冗談だって冗談。」
コイツ俺が学園の2大美女の一人と風呂に入った話で根に持ってんなw
「ってぇ……。
ちょっと悪ノリに便乗しただけだっつの。」
直也の場合は悪意しかない便乗なんだよなぁ……。
と、言う訳で。
各々着替えを済ませ、海水浴タイム。
昨日は結局ほとんど泳げなかったからな...。
あ、気持ち良い。
ちなみに手の傷はまだ治ってないから千鶴さんからビニール手袋を貰っている。
「悠にぃ!一緒に泳うわっぷ!?」
茉里愛がそう言って抱きつこうとしたところを、日奈美からの海水攻撃が妨害する。
「ふぇ……しょっぱい……。」
「お兄ちゃんは私と遊ぶんだから。
ね、お兄ちゃわっぷ!?」
「ふん、油断してるからだよ?」
今度は茉里愛の反撃。
「何よ!?」
「そっちこそ!」
あぁ、、日奈美、茉里愛組のバトルが始まった。
「悠太!なら私と泳ご!」
そう言って志麻が飛び込みの勢いで抱きつこうとしてきたのを横シフトで交わす。
対象を失った志麻は勢いのまま海に落ちる。
「しょっぱい……ぴえん……。」
「これぞ本当の塩対応だ。
なんてったって海水浴だからな。
塩分は高めなんだ。」
「全然上手くない……しょっぱい……。」
それは味的な意味じゃなくてですかねw?
「ちょいちょい、金澤さん。
せっかく綺麗な髪なんだから泳ぐ時は纏めた方が良いって。」
そんな志麻を見て瑞穂が言う。
服装は変わらずカエルさんのレインコートだが、確かに髪は普段のストレートのままだ。
「え?でもゴムとか忘れちゃったし……。」
「ふふん、そう言う事ならあたしに任せなさい。」
そう言うと瑞穂は志麻の髪をいじり始める。
それから数分後。
「ふふん、どうよ?」
言いながら瑞穂が手鏡を渡す。
「わ、ツインお団子だ!
可愛い!」
「でしょ?どうよ?悠太。」
得意げな瑞穂。
「あぁ、うん。
あの時のハーフアップも良かったけどツインお団子も似合ってんな。」
「本当!?嬉しい!結婚して!」
「調子にのんな。」
会長直伝の空手チョップ。
「痛い!?ぴえん……。」
「手、大丈夫……?」
と、ここでそう声をかけてきたのは美江だ。
日奈美にしがみつこうにもあの様子だから手持ち無沙汰になったのだろう。
「あぁ、ま、一応な。」
「そうなんじゃ……。」
そう返し、自然な流れで早速俺にしがみついてくる。
するとさっきまでの不安そうな表情が少し緩んだ気がする。
あぁ……なんか庇護欲がそそられる……。
「あぁん!私の場所がまた盗られた!ぴえん……!」
二度目のチョップの後だから涙目で訴える志麻。
「私のじゃし渡さんし……。(小声)」
「ん?何か言ったか?」
「別に……。」
プイっと顔を逸らす美江。
うーん……難しい……。
それにしても……。
宏美の奴また来てないのか……?
今日も海に彼女の姿は無い。
一応昨日約束はしたんだが……。
「あれは嘘だった...のか……?」
「悠君……?」
俺の独り言に、美江が反応する。
「いや……。」
「何?誰かをお探し?」
と、ここで。
そう言って歩いてきたのは、昨日着替えていたのと同じ水着の上に水中用ジッパー付きパーカーを着た宏美だった。
「来たんだな。」
「まぁ……一応約束したし……。」
「へぇ、今日はちゃんと来たんだ。」
宏美を見て、そう口を挟む瑞穂。
「何、悪いの?」
「いや、別に。
ちゃんと悠太と話したんだね。」
「まぁね。
で、悠太。」
瑞穂の問いかけに興味無さそうに返すと、今度は俺の方に目を向ける。
「なんだよ?」
「今日はちゃんと着てきたんだけど?」
そう言ってくるりと回る。
どうやら水着の事を言っているらしい。
「そ、そうか、良いんじゃないのか……?」
「なぁんか反応が薄いなぁ……。」
咄嗟に返すと、宏美はそう不満気にぼやく。
「うっ……に、似合ってるよ。
その可愛いと思う。」
「っ!?そ、そう。」
正直に言うと、宏美は照れくさそうに顔を下に向ける。
「って……宏美?」
「もう指を加えて見てるだけなのは終わりにするから。」
かと思えば、言いながら俺の腕を強く引く宏美。
「ちょ、おい!?」
「へぇ?」
一方の瑞穂はいかにも訳知り顔である。
急に引き離された美江はアワアワしている。
「ズルい!悠太は私が!」
「ごめんけど今日は私が悠太を貰うね? 」
「そんな!?ズルいズルい!」
「まぁまぁ、金澤さん。」
パチャパチャと水面を叩く志麻を瑞穂が宥める。
「私、嘘つきみたいだからさ。」
「急になんだよ……?」
「知らない?嘘つきは泥棒の始まりなんだよ?」
そう言って彼女は俺の手を引きながら。
陳腐な比喩表現にはなるがそれこそ太陽よりも眩しく暖かな笑顔で笑うのであった。




