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「それで?何があったの?」
瑞穂が思い出した様に声をかけてくる。
脱衣場にて。
と、言うか本当にこの子遠慮無さ過ぎない……?
俺は出る時タオルを巻いて出たのだが、この娘……一切隠す気無しで、今も堂々と隣に来て服を着始めている。
なんなら先に出ようとした俺を引き止めてまで一緒に付いてきた。
そもそも衣類を入れるカゴの入った棚も隣だし……。
「お前……そもそも入ってるのが俺じゃなかったり俺以外が居たらどうしてたんだよ?」
もしそうなったら大問題だ。
いや、この状況も充分大問題だけども……。
「えー、質問に質問で返すのは頂けないなー。」
お前はどこぞの獣人か、、
「そりゃ分かるでしょ。
悠太の服しか無かったし。」
「でも後から来る可能性も……。」
「その時はその時だよ。」
「おい……大体何も隣に来なくても……。」
全裸で隣に居られるのも当然心臓に悪いが、隣で服を着られるのもそれはそれで心臓に良くない!
今朝言っていたあの日買ったやつとは違う黒の下着がどうにも目に入ってしまう。
「うーん場所の節約?的な。」
「疑問形じゃないか……。
と言うか2人しか居ないのに節約も何も無いだろうが……。」
まぁメンバー全員入っても充分入れる位の広さはあるけど……。
いや自分で言っといてアレだがなんだそのカオスな状況は、、
「それよりあたしの質問にも答えてよ?」
そう言いながら瑞穂はパジャマに袖を通しつつ睨んでくる。
大きめな水色のリボンが首元にあるフリル付きの白パジャマは、いかにも清楚な感じで可愛いらしい。
「いや……別に。」
「気付いてないと思った?
あんな分かりやすく上の空だったのにさ。
あたしだけじゃなくて多分他の人も気付いてたと思うよ。」
「うっ……。」
「何?あんまり話したくない感じ?」
「いや……なんて言うかまだ自分の中で上手く整理が出来てないと言うか……。」
「ふーん?じゃあさ、当てたげよっか。」
「え?」
「瀬川さんの事でしょ?」
「…はっ!?」
「あ、やっぱり当たりなんだ。」
「い…いやなんでそう思うんだよ。」
「知らなかった?女の勘って結構当たるんだよ?」
「いや……だからって……。」
「逆に聞くけど分からないと思った?
夜ご飯も食べずに引きこもってる女子と、夜ご飯中ずっと上の空な男子が揃っててさ。
その上二人は元カノだもんね。
そりゃ何かあったと思いもするでしょ。」
「うっ……。」
「で、何?喧嘩でもした訳?」
「いや……喧嘩と言うか……。」
どう答えようか考えながら、パジャマを着終えた瑞穂と並んで脱衣場から出る。
こいつ本当普段の姿だけ見たら清楚系そのものなんだよなぁ...。
それだけに下に着てるセクシーな黒の下着だとか時折見せるビッチ感にどうにもギャップを感じると言うか...。
「え……。」
「げっ...。」
「わぁお。」
なんて事を考えていたら、そんな絶妙なタイミングで、今一番現れてほしくない相手と出くわしてしまった。
ほんとアレだ。
ことラブコメにおいてこんな所を誰かに見られたら!は見られるフラグである。
加えて誰々だとみたいに人を指定した場合も悪い状況の場合は大体当たる、、。
「ゆ、悠君と津川さん……?
なんで一緒に……。」
そう言って驚きを隠せない様子で棒立ちになってるのは、ついさっき話題に出たばかりの宏美だった。
中からタオルが見える手提げ袋を持っているのを見るに、彼女も大浴場に入りに来たのだろう。
なんともタイミングの悪い話である。
いや、まぁこれに関しては完全に悪いのは宏美じゃなくて瑞穂な訳だが……。
「そ、そこ男湯だよね……?なんで津川さんが?」
怪訝な表情で聞いてくる宏美。
「ひ、宏美、これはその……!」
さてどうするか……。
確実に悪いのは瑞穂な訳だが、だからって事実をそのまま話すべきか……?
いや、そんな事したら間違いなく大騒ぎになるだろ……。
でも変に嘘ついたり誤魔化してそのせいで変に解釈されても困るし……。
「そりゃそうでしょ、だって一緒に入ったし?」
俺がどう誤魔化すか考えている間当の本人である瑞穂は実にあっけらかんな態度でネタばらしをする。
「ちょ!?おま!?」
「っ!?な、何考えてんの!?」
顔を真っ赤にして叫ぶ宏美。
いや、当然の反応だ。
本来こんな状況あっていい訳が……「え?何か問題ある?」
そんな当然の反応をさも不思議そうに瑞穂は聞き返す。
「あ、あるに決まってるじゃん!」
「えー?なんで?」
「そ、それは……その……私達まだ高校生だし……。
い、異性と一緒になんて……その……。
と、と言うかあなた達ただの友達でしょ!?」
「確かに、今はまだ友達だね。」
「そ、それなのにそう言うのおかしいと思う!」
「えー?だってお互い合意の上だしさ。」
「え……?」
宏美が俺の方に向き直る。
「いや!待て待て、俺は合意した覚え……「そんな事言って〜なんだかんだガッツリ見てた癖に。」うっ……そっ、そりゃお前……!目の前にお前みたいな可愛い女子が全裸で居たらそりゃ見るに決まって……!」
「変態……。」
超冷めた目で見られた。
「ねぇ、確かにあたしと悠太はまだ友達だけどさ、前にも言ったけどそれをあなたがとやかく言う資格ってあるの?」
「っ……!?」
「無いよね?だってあなたは元カノだもんね。」
「それは……その……あ、あなただってそうじゃん!」
言い淀む宏美。
「そうだよ?でもさ、もうそれは昔の話なんだよ。
あたしは確かに色んな人と付き合ったりそれで色々噂されたりもしたけどさ、前にも話した通り複数の相手と同時にお付き合いした事なんてないし、全く何とも思ってない相手とこんな事したりしないから。」
「っ……!?」
「あなたはどうなの?」
「わ、私は……。」
そうして瑞穂は宏美の耳元に顔を寄せる。
「言っとくけどあたしは手加減するつもりなんてないから。」
その耳にそっと囁く。
「っ!?な、何言って……。」
「ふーん……?とぼけるんだ。
じゃあそのままずっと指をくわえて見てれば?
行こ、悠太。」
「あ、おい! 」
そう言って強引に俺の腕を引く瑞穂。
それを宏美は本当に辛そうな顔で見ている。
なんでそんな顔するんだよ……?
実際コイツの言う通りだ。
今宏美は元カノで、関わってるのは友達に戻ったからだ。
本来ならコイツは俺と瑞穂が何をしようがとやかく言う権利なんて無い。
いや……実際事実として付き合ってもない異性と風呂なんて俺もどうかとは思うけども……。
でも転生して最初の頃からコイツは元カノだけど一応友達、と言う関係性でこれまでもあれこれ口出ししてきた。
俺はそれを宏美がこの世界を作った本人だからだと思っていた。
実際本人もそうだと言ってたし。
だってそうだろ。
あいつが俺を救ったのはただの情けで。
あれこれ口出ししたのだってただせっかく生き返ったのに不幸になるのは不憫だと思ったからとも言ってた。
だって宏美はもう俺の事を恋愛感情で好きじゃないのだから。
そう言って別れを切り出したのは他でもない彼女自身なのだから。
なのに……なんでそんな……今にも泣きそうな顔するんだよ……。
そんな顔を見られたくなかったからか、宏美はそのまま走り去ってしまう。
「あ、宏美!」
瑞穂に引っ張られながら、そんな宏美の背中を目で追う。
「悠太はさ、瀬川さんの事どう思ってんの?」
それを見た瑞穂が足を止めて俺に聞く。
「それは……。」
「ただの友達?それとも……。」
そこで瑞穂は意味深に言葉を切る。
「……分からない。」
それに俺は思ったままを答える。
「そ。」
「と言うかお前はどうなんだよ、さっきの言いようだと……。」
聞くと瑞穂は頭を抱えながら露骨にため息を吐く。
「な、なんだよ?」
「そう言うとこだよ、悠太。」
やれやれとでも言いたげに肩を竦める瑞穂。
「そんなの自分が受け取りたいように受け取れば良いじゃん。」
「いや、そんな事言われても……。」
「確かに人の気持ちなんてさ、口に出されなきゃ分かるわけないよ。
それに気持ちを素直に言葉で口に出来る人ばかりでもない。」
「それは……まぁ。」
「だからさ、結局最終的には悠太がそれをどう受け取ってどう考えるか、でしょ?」
「そう……だよな。」
あいつの考えてる事は今も分からない。
でもあいつがこれまでしてくれた事を受け取って、どう考えたか、なんてそんなの決まってるだろ。
「なんであたしがこんな事しなきゃいけないんだか……。」
今何か瑞穂がつまらなそうに小声で呟いた気がする……。
「なんだよ?」
「べっつにー。」
そう言ってまたため息を吐く瑞穂。
「あたしは疲れたからもう寝るけど、悠太はどうすんの?」
「お、俺はその……。」
「行けば良いじゃん、瀬川さんのとこに。」
「お、おう、その悪い。」
「なんで謝るんだか……。
ま、良いや。
一つ貸しね。」
「お、おん。」
そう言って瑞穂はまたやれやれと肩を竦めて部屋に戻ろうとする。
「あ、なんかこのまま塩を送るだけじゃ癪だしこれだけは言っとこうかな。」
ふと足を止め、思い出した様に瑞穂は呟く。
「え?」
「あたしは別にどう受け取られても良いよ?悠太なら。
それじゃ、お休み。」
「あ!?おい……!」
そう言って瑞穂は部屋に入ってさっさとドアを閉めてしまった。
なんなんだよぉぉぉぉ!?
そんな声にならない叫びが届く筈も無く……。
「行ってみるか……。」
俺は仕方なく宏美の部屋に向かうのだった。




