湯けむり美人は不敵に笑う
「ふぅ。」
思わずため息。
「寝れそうにない……な。」
夕食タイムの後はハルたん会長監修怒涛の勉強会だった。
追試の時と殆ど同じような状況に主に秋名たんが悲鳴を上げていたが、ハルたん会長の分かりやすい解説でちゃんと役に立つ勉強会だった。
それには一応宏美も参加していたが、その間俺達は一切言葉を交わさなかった。
晩飯は結局焼いたやつをリオに持って行ってもらってたしなぁ……。
やっぱ気にしてんのかな...。
あー……寝れそうにない……。
あ、そう言えば。
ハルたん会長が大浴場があるって言ってたっけ。
今日は部屋のシャワーで済ませたけどせっかくだし大浴場にも行ってみるかな。
いい気分転換になりそうだし。
と、言う訳で。
既に日付が変わるような時間帯である。
ハルたん会長は、自由にいつでも使ってくれていいと言ってたしお言葉に甘える事にする。
部屋からタオル等の必要な物を持ち出し、廊下に出る。
流石に皆疲れてるみたいだったしもう寝てるだろうと、少し足を忍ばせる。
ちょっとだけ悪い事をしているような背徳感が心地良い。
そんなこんなで無事大浴場の脱衣場に足を踏み入れる。
「まぁ流石にこんな時間だし誰もいないよな。」
早速全裸になり、浴場に入る。
「おぉう……。」
家の風呂、なんて比べ物にならない。
もはや銭湯のクオリティ。
でも床や壁のタイルや、浴槽の綺麗さから至る所に高級感があり、普通の銭湯とは比べ物にならない。
そしてこの銭湯、スイッチ一つで今あるお湯を一定の温度に上げてくれる優れものである。
あっと言う間に湯気が出始める。
「すげぇ……。」
なんと言うかその一言である。
洗い場に常設されているボディーソープやらシャンプー、リンスもいかにも高そうだ。
「なんか流石に遠慮するよな……。」
銭湯とかにあるのを使う時はあんまり気にした事はないが、明らかに高そうなそれを普通通り使うのは流石に抵抗ある。
でもまぁ使うしかないか……うお、むっちゃいい匂いする。
入れ物から高そうなそれを手に取り出してみると、高級感溢れるフローラルな香りが鼻を掠める。
入念に体、髪を洗い、かけ湯で軽く体を流し、早速浴槽に足を踏み入れる。
「ほわぁ……。」
これだ、これだよ。
転生して高校生になっても、この瞬間の幸福感は変わらない。
しかもこんな広くて高級感ある大浴場。
それが今は俺の貸切なのである。
そう、なんだかんだ言ってもこんな高級な大浴場を一人占め出来る事が何よりの高級感であり、最高の贅沢なのである。
「はぁ、ほんと来て良かった。」
広過ぎる大浴場の中で悠々と足を広げる。
なんて言ったって悠太だからな。
このまま悠々自適な時間を堪能して、後はゆっくり部屋で寝るとしよう。
うん、ぐっすり眠れる気がする。
「はぁ……このままずっとこうしてられそうだ……。 」
「そうだねー。」
「そうだろー?」
ん?
なんだか気持ち良すぎてうつらうつらしていたら隣になんだか柔らかい感触が……。
「あー癒されるー。」
「んんっ!?」
我に返って隣を見る。
「やん、えっち♡」
「み、瑞穂!?」
そこには同じく全裸の瑞穂が横から寄り添う感じで座っていた。
「ちょ!?おま!?」
「あー……やっぱ広いお風呂って気持ち良いね。」
「な、何やってんだよ!?
タオルも巻かずに!」
「えー?湯船にタオルを巻いて入るのってマナー違反なんだよ?」
「そもそも男湯に入ってる地点でマナー違反ですが!?」
「てへぺろ☆」
この清楚系ビッチぐわぁぁぁ!?
「な、なんのつもりだ……?」
「え?せっかく広いお風呂あるんだし混浴とかしてみたいなって。」
うん、理由を聞いても全く理解できない!
透明な湯船で隠せるはずも無く普段見えてない見えちゃいけない物が目を逸らしてるつもりでもチラチラとどうしても目に入ってしまう。
少し小ぶりな胸もその先のピンクな……ゲフンゲフン!
、、その他に無駄な肉など一切ない白く瑞々しい肌とすらっとした体躯。
そしてその下……。
いやいや!見過ぎだろ!俺!でもこんなの……!
「そもそもなんで急に……!」
とりあえず股間はしっかりと手で隠しつつ、瑞穂を睨む。
あ、睨んじゃ駄目だわ……!
サッと目を逸らす。
「聞きたい?」
そんな俺の動揺等気にもとめないとばかりに、瑞穂はそう言ってニヤリと笑う。
「な、なんだよ?」
「あたしさ、バレーにはちょーっと自信があるんだよね。」
「あっ……。」
「だからちょーっと本気出し過ぎちゃったんだよね?」
それ絶対ちょーっとじゃないやつっ!
「だから、ね?」
察したわ、完全に察したわ。
コイツ最初から勝つつもりで俺を好きにしていいなんて言う勝手な提案をしやがったのか……!
「だからってお前!ちょっとくらい抵抗を……!」
「別に無いよ?」
「ほん?」
あまりにあっさりな返事に、思わず間抜けな声が出る。
「だって悠太だし。」
実にケロッとした感じ。
いやケロッは志麻だな。
ってそうじゃなくて!
「いや……おま……。」
「あの時だってあたしは普通にあのままホテルでも全然良かったのにさ。」
「うっ……。」
瑞穂との最初で最後のデートの際泊まり場所に選んだのはホテルではなくカラオケだった。
そこには金銭的な理由もあるし単純にカラオケに行きたかったからと言うのもある。
「あの時はあたし悠太の事が好きだったし、普通にホテルに行くつもりもあった。
でも悠太はカラオケを選んだ。
ま、あたしもカラオケ自体は好きだし別に良いんだけどね。」
「そ、そりゃお前、会ったばっかで付き合うのも珍しいのにいきなりそんな……。」
「あはは、悠太ってばほんと真面目。
大体の男子は同じ状況になったらホテルを選んだし、あたしはそれを受け入れてきた。
だからさ。」
「ちょ!?おま!? 」
そんな格好で急接近されたら流石に色々ヤバいって!?
「悠太だけだよ、自分の欲望よりもあたしを大事にする事を優先してくれたの。」
耳元でそんな事を囁いてくる。
なんか状況的にいつも以上に効果がっ……!
「そ、そんなのただカラオケが好きって欲望とそんな度胸が無かったって言うだけの事かもしれないだろうが……。」
「別にそれでも良いよ。
どっちみち悠太は他の人と違ったし、これまで色んな人とお付き合いしてきたけど再会するまで忘れてなかった訳だし。」
「だ、だからってお前……。」
「もー、あの時どうせホテルで見せてたかもなら今見せたって大して変わらないじゃん。」
「いや全然変わるわ!?だってお前は高校生で!」
「え?悠太も高校生でしょ?」
「そ、そうだけど……。」
「だから、気にしない気にしない!
あ、背中流したげよっか?」
こんなの気にしないわけないだろぉぉぉぉ!?
「それに、これぐらいしなきゃ全然意識されなさそうだし……。(小声)」
瑞穂が何かボソボソと言ってた気がするがそんなの気にしてる場合じゃない……。
気分転換どころか、余計に心を掻き乱される事になるのだった、、




