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瀬川宏美

俺が転生する前の世界で最後に付き合った元カノだった瀬川宏美。


彼女と最初に知り合ったのは、一緒にゲームをしながらゲーム内でカップルにもなれたりする系のマッチングアプリだった。


最初何となくで始めては見たものの、中々気が合う人と繋がれずにいた。


そんな中で初めて気が合ったのが彼女だったように思う。


お互いアニメや漫画好きと言うのもあり、ゲーム内でのやり取りは途切れる事無く続いた。


正直、ここまで気が合う相手と出会う機会があまり無かった俺にとって、彼女の存在は徐々に大きくなっていったように思う。


そこからゲーム内でカップルになり、連絡先も交換し、実際に会ったりして。


最初、彼女の方が前の恋愛を引きずっていたから恋愛には消極的だった。


その時は俺も納得していたし、良い友達になれるだろうと信じていた。


でもそこから俺達の関係がより深い物に変わるまでそれほど時間はかからなかったように思う。


キッカケはクリスマスイブに二人で行ったイルミネーション。


気が付くとどちらからともなく繋いでいた手。


「ねぇ、私達の関係ってなんなんだろうね。」


「友達だろ?」


「私、ただの友達とは手を繋いだりしないよ?」


「じゃあ親友とか...?」


「繋ぎません。」


「でもお前...良いのかよ?


だってお前には...。 」


他に好きな人がいる。


だから友達として一緒に居ようと決めたのに。


「そんなのもう忘れちゃったよ。」


「そんなあっさり...。」


「大体そうじゃなかったらこんなに会わないし手だって繋がないから。」


「そ、そうか。」


「ねぇ、悠君は私とどうなりたい?」


真剣な表情でそう問いかける彼女。


そして俺の答えは決まっていた。


彼女とこれからも一緒にいたい。


何気ない時間を、何気ない話をしながら。


「...俺ら付き合おうか。」


「うん!」


その時の本当に嬉しそうな表情は、今も忘れられない。


その後。


付き合い始めてからの彼女は、なんて言うか自由奔放だった。


気分屋でマイペース。


デートする時はそんな彼女に合わせて行き先を決めるパターンも多かったように思う。


実際俺もそれで楽しかったし、何より愛されている事がちゃんと伝わって来たからこそ、それに応えたいと思っていた。


少なくとも俺の中では、彼女との関係は順調にこのまま続いていくんだと思っていた。


これまでだって、そんな思いは簡単に打ち砕かれる事を思い知らされて来たのに。


でもそんな事も忘れてしまえるくらいには、彼女との時間を楽しみにしていたんだと思う。


現実はいつだって残酷なのに。


「ごめんね、悠くんの事もう恋愛的な意味で好きじゃないんだ。」


そう言われてショックな反面、俺は何処か納得もしていた。


それを言うなら、俺だって恋愛的な意味で彼女の事をちゃんと好きだったと言えるのだろうかと。


思えば確かに気は合ったし、友達としての相性は良かったと思う。


でもお互い何処かで関係を焦っていたのかもしれない。


今となっては、感じていた愛も贈っていた筈の愛も本物かどうかさえ分からない。


もっとも、今更知る意味もないのだが。


もう二度と会う事はないのだろう。


そう思っていたのに。


思っていたのに……である!


まさかの隣の席!


しかも、この隣の席の人間に頼らなくちゃならない状況で、である。


何より俺の席は入口と反対に位置する窓際後ろの席だ。


これが真ん中とかであるなら、もう一方の隣に声をかけたりも出来た訳だが…。


生憎そのもう一方にあるのは窓だけである。


まぁ…どうしよう…窓だけに。


なんて言ってる場合じゃなかったわ…。


「その、どうしたの。」


相変わらず気まずそうではあるものの、おずおずと言った感じに小声で声をかけてきた。


「え?あ、あぁ…ちょっとな。」


「教科書、無いの?」


「あ、あぁ…。


ついでに言えばノートも無い。」


「……何しに来たの?」


本当俺何しに来たんだろ…?


自分でもそう思うわ…。


「はい、予備のノート。」


そう言って彼女が差し出してきたのは、まだ包装されたままの新品のノートだった。


「え……良いのかよ?」


「別に良いよ。


私のはまだあるし。」


「いやでも…。 」


「私からじゃ受け取れない?」


言われて口ごもってしまう。


実際もう別れた俺には、彼女から施しを受ける義理がない。


本来ならもう関わる理由も必要もなかったのだ。


「友達に戻ろうって言ったじゃん。」


「いや…確かに言ったけど。」


実際俺は別れ際彼女に友達に戻らないかと提案した。


いざ別れる事を実感すると、このまま別れるのが寂しくなったからだ。


そして彼女もそれを受け入れてくれた。


そんな口約束なんて、関わる事が無くなればお互いいずれ忘れるだろう事くらい分かっていたのに。


「覚えてたんだな、その約束。」


「忘れないよ。


恋人としてやってく事が無理だと思ったのは本当だけど、友達としてまたいつか関われたら良いなと思ったのは本当だもん。」


「そ、そっか…。」


「うん、でどうする?」


「金払うわ。」


「別に良いのに。」


「いや、駄目だ。


もう俺達はあの頃みたいな関係じゃないからな。」


「……そっか、そうだね。」


これで良い。


もう俺達が深く交わる事は二度と無い。


とりあえず今日にでも席を変えてもらえるように頼んでみるか…。








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