消えない傷。
そのまましばらく歩いたところで。
「なぁ、ロリ天使。
宏美の様子はどうだったんだ?」
俺の勘違いじゃなければ、去り際のアイツ、泣いていたように見えた。
「気になるんですか?」
「そりゃ、まぁ。」
勿論ハッキリ見た訳じゃないし確証があるわけではないが、やっぱり一応気になりはする。
「なら私になんか聞かないで直接自分で本人に聞けば良いじゃないですか。」
なんて正論ですげなく返してくるリオ。
「いや、でもアイツに聞いたって答えないだろ?」
「そんなの聞いてみなきゃわかんないじゃないですか。」
「そりゃそうだけど……。
でも変じゃないか?」
「今はただの友達だから、ですか?
「うっ……。」
「多分今部屋に居ますから行ってみたら良いんじゃないですか。
手当ても頼めば宏美さんがしてくれますよ。
私は先に戻ってますね。
鍵は開けておきますからお好きにどうぞ。」
そう言ってリオはさっさと行ってしまう。
「あ、おい!」
なんだぁ……?アイツ。
まぁどっちみちこのまま戻れないしなぁ……。
なんて誰に向けてでも無い言い訳を頭の中でしながら、宏美とリオの部屋に足を運ぶ。
「おい、宏美、居るんだろ?」
「居ますよー。
どうぞー。」
リオの声だ。
「え!?悠太!? 」
「なんだよ?そんな驚いて。
入るぞ?」
「ちょっ!まっ!?」
ドアを開けるとそこには、水着に着替え中の宏美の姿が。
「え、おま……「でっ……出てけぇぇぇぇ!」」
蹴り出された。
「ってて……。」
そりゃ俺も有無を言わさず入ったから悪かったけど……。
今更恥ずかしがるもんでもないだろうに……。
生前付き合ってた時には当然見せ合った事もあるし、それ以上の行為だって……。
いやまぁ……こっちの世界ではどうなのか知らないけど……。
それよりも気になったのは……。
アイツの背中に傷のような物が見えたような……?
気のせいか……?いや……一瞬だけど確かに見えた。
前世であいつがあんな傷があるなんて話聞いた事無いし、見た事も無い。
ならこの世界でのオリジナル設定って事か……?
それにしたってあんな傷一体どこで……?
「そんな所でなーにやってるんですか?
悠太さん。」
怪訝な顔で、さっきまでのスク水姿にジッパー付きのピンク色パーカー姿のリオが声をかけてくる。
「あ、お前!お前が焚きつけたから入ったら宏美に蹴り出されたんだが!?」
「は?焚きつけた?私が?
何言ってんですか?」
「いや、お前さっき一緒に戻って来たし先に戻って入れって言っただろ!?」
「さっき?私様子を見に行ってからずっと別荘に居ましたよ?
今は宏美さんと食べようと思ってご自由にどうぞって言われてたお菓子を取りに行ってた所なんですが……。」
「え……?は?じゃあ今のは……?」
「宏美さん戻りましたよー。
ってうわ、どうしたんですか?その格好。
え、まさか悠太さんこれを?」
「あぁ...えっと……。」
「あちゃー……そりゃそうなりますよ……。」
「いやだからお前が……。」
「悠太さんが男子高校生としてそう言う事に興味津々なのは事実として理解してますけど幾ら女の子の裸が見たいからってそんな私を言い訳にして部屋に押し入るだなんて……。」
「いやいや!誤解だっての!」
「じゃあなんだっての?」
いつの間にか私服姿に戻った宏美がキッと睨んでくる。
「だから……コイツの声で入って来て良いって……。」
いや……実際考えたら確かにそれはおかしいぞ……?
俺は確かにリオの声を聞いて中に入ったが、中にリオが居るのを見た訳じゃない。
オマケにコイツとは今まさに廊下で戻って来た所に出くわしたばかりだ。
それにコイツ……さっき一緒に戻った時はパーカーなんか着てなかったよな……?
「なぁ...ロリ天使……。
ちょっと真面目な話なんだが……。」
「なんですか……?」
あ、これ全然信じてないな……。
「お前って分身出来たりするのか……?」
「は……?全く急に何を言い出すのかと思えばまたそんなファンタジックな話を。」
「いやだからお前天使だしそもそも異世界転生なんて充分ファンタジックなんだが……。」
「……いや……でも……まさか……。」
急に考え込むリオ。
「なんだよ...?」
つられてか宏美も考え込む。
「おい……宏美まで……。」
と、ここで。
「ふ、ふふふ……あははは!」
なんか高笑いが聞こえて来た。
「ほんと面白い!まんまと騙されて思い通りの事をしちゃうんだもん。」
そう言って現れた少女は、薄紫色のツインテールを揺らしながらお腹を抱えて笑う。
「リタ!やっぱりあなたが!」
「ちょっとリタ!何して……!」
「え……?」
「あ……えっと……。」
気まずそうに目を逸らす宏美。
「お前がリタか。」
「ふふ、はじめまして、だね。
三澄悠太君?」
そう言って不敵に微笑むリタ。
「お前がリタ……!何が目的なんだよ……?」
「そんなに警戒しなくても良いじゃん?
私、一応あなたの命の恩人なんだよ?」
「うっ……それに宏美お前……。」
「うっ……。」
気まずそうに目を逸らす宏美。
「やっぱりあなたと宏美さんは繋がっていたんですね。」
一方でリオは言いながらリタを睨む。
「分かってたのか……?」
「確証は無かったですがね……。
でもその証明が欲しくて宏美さんと同じ部屋にしてもらったのは正解でしたね。」
「あぁ、やっぱりそうなんだ。」
変わらずケラケラと笑うリタ。
「ねぇ、見たんでしょ?さっき宏美んの水着 。
「ちょ!?リタ!?」
「なんだよ急に……その、まぁ一応……。」
「ね、どうだった?」
「いや……急になんでそんな話……。」
「良いじゃん教えてよ。」
いかにも恋バナ大好き女子みたいなノリで楽しそうに聞いてくる。
こう言うタイプのノリは一度絡まれるとこっちが話すまで追跡をやめない……。
「いや……その、水着姿なんて初めて見たけど良かったんじゃねぇの。
色とかも似合ってたと思うし……その、ちゃんと着てるとこも見たかった……かな。」
うわ、とは言え何言ってんだ俺……。
普通にキモくないか……。
「そ、そうなんだ。」
顔を赤くする宏美。
あれ……意外とまんざらでもなさそう……?
「でも持って来てたんならお前も泳げば良かったのに……。」
「それは……!」
「あれ気づかなかったの?
宏美んの背中の傷。
あーあなた風に言うなら傷だけに気づかなかったって?」
「リタ!」
明らかに動揺する宏美。
いや、誰だよそんなしょうもない事言うやつ。
あ、俺か……。
と言うか……。
「え、やっぱり……?
お前あんな傷どこで……。」
「あはは、ほんとに覚えてないんだ。」
「え?」
そう言って笑うリタは、一瞬にしてその笑みを消し去り。
「あなたが付けた傷なのに。」
そう一言、まるで言い捨てるように呟いた。
「なっ……!?」
「やめて!リタ!」
宏美が叫ぶ。
俺が……?宏美に……?
いや……そんな筈無い。
俺達は円満に別れた筈で、喧嘩なんて……。
ましてあんな傷が出来るような事なんて……。
「っ……!」
途端に頭が痛む。
「悠太さん!?」
頭を抑えて蹲る俺にリオが駆け寄ってくる。
「まっ、面白い物見れたし言いたい事も言えたからもう満足かな。
私は帰るね!
宏美ん、またねー。」
なんてまた不敵に笑いながらリタは姿を消す。
「一体……何がどうなってるんだ...?」




