I believe in the future
「……トランプでもする?」
「は?」
人がせっかく歩みよってやろうとしたのに…!!
二人で客室に入って数分。
会話なんてある筈もなく、お互い黙ってそっぽを向いていた。
流石にそんな空気に耐えかねて、必要になるだろうと思って持ってきたトランプを出したのだが…。
反応はご覧の通りである…。
大体仲直りしろってもなぁ…。
俺がコイツと仲が良かった期間なんて幼稚園での数年ぐらいだ。
実年齢で考えると30年も前の話で、、その頃の俺達がどんな風に仲良くしてたのか、そもそもどうやって知り合って仲良くなったのかも今となっては全く思い出せない。
そんな奴と今更仲良くなんて…な。
現世ではそもそも一度関わりが無くなってからそのまま他人に変わった。
コイツは他の友達と盛り上がってたし、俺は相変わらずぼっちだったし…辛っ。
それぞれがそれぞれの日常に目を向けるのに夢中で、お互いの事を気にかける余裕も理由も無かった。
そもそも今なお川崎と再会してコイツの事を覚えていたのだって幼稚園の時の楽しかったであろう記憶のおかげなんかじゃない。
コイツからすればただの通過点でしか無かっただろうが、中学時代にコイツに向けられた暴力や憎悪は今もトラウマの一つとして胸の中に残り続けている。
それはこの世界に来てやり返してやったとして消える物じゃない。
「無理して関わろうとすんなよ。
お前だって関わりたくねぇんだろ?」
そんな事を言ってスマホに目を落とす川崎。
実際こんな機会でも無ければコイツとなんて関わりたくなかった。
やり返した後だってもう関わらなくて良いとどこかで安心さえしていた。
本来はこれが正しい俺達の距離感だ。
まずそもそも、前提がおかしいんだよな…。
幼なじみで、でも裏切られて、でも今はまた関わらざるをえなくなって。
そもそもの前提がおかしいのに、正しいとか間違ってるとか、そんな事を考える必要が本当にあるのだろうか。
「なぁ。」
「聞こえなかったのか?無理に…「お前絵美の事好きだろ?」っ!?」
あ、図星だ。
顔を赤くしてそっぽを向く姿が、もう答えだ。
「だ、だったらなんだよ?」
「お前が怒ってんのってさ、ただ俺がお前に会いに行かなかったからじゃないんだろ?
いや少しはそんな理由もあるんだろうが。
あの日言ってたよな?
絵美が寂しがっててでも自分じゃ何も出来ないって。
それって絵美の事が好きだからどうにかしたかったって事だろ?」
「…そうだよ。
悪いかよ!?俺はずっと絵美が好きだった!」
「いや、別に悪くはないが…。」
「なのに絵美は全く会いに来ないお前の事ばかりで…俺になんか少しも振り向いてくれない。
だから俺はお前を…!」
「別にお前は何も出来なかった訳じゃないだろ。」
「どう言う意味だ…?」
「俺がそうだったように、お前だってわざわざ俺に自分から会いに来る事はしなかった。」
「っ…!?」
「本当に絵美の事を大切に思って何かしたいって思ってんならお前から歩み寄ってくる事も出来たんじゃないのか?
お前は結局それが自分で出来なかったって事実を俺のせいにして悪者に仕立てただけだ。」
「ぐっ...…な、ならお前はどうなんだ!?絵美の事をどう思ってるんだ?」
言われて考える。
俺が絵美の事を?
「……飼い主?」
「は!?」
そうだよね…。
そう言う反応だよね…。
俺も本当にそう思う…。
直也同様絵美も仲良かった時期は幼稚園の時だけだし、その時の事なんか全く覚えてない。
川崎程トラウマになってはいないし関係は幼なじみである事に間違いないのだが、関わってない期間が長すぎてほぼ他人からのスタートだ。
多分それは絵美からしても同じだろう。
もう一度関係を作り直す為にお互いにどう接していいのかを探りあっている段階な訳だが…。
どうにもそれが迷走してる気がするんだよなぁ…。
「なんだよそれ…友達とすら見られてねぇじゃん。」
嬉しそうにしやがってからに…。
今日1日で1番嬉しそうな顔で笑う川崎。
あの頃もこんな表情で笑い合ってたりしたのだろうか?
まぁその頃はこんなバカにしたような笑い方ではなかったんだろうけど…。
「で、やんのか?トランプ。」
「仕方ねぇな。」
正直コイツと仲良くしてる未来なんて全然想像出来ない。
でもこう言う機会だしその為の一歩ぐらいは踏み出してみるのも悪くないのかも、と思う。
飼い主の意向には忠実な男、三澄悠太である
一方その頃…。
「ホンマにあの二人一緒の部屋にしとって良かったん?」
蘭が絵美に聞く。
「大丈夫だよー。
こないだ私が暴力振るう人嫌いって言っといたから。」
「そんな絵美が言うたくらいで収まるんか……?」
「大丈夫だって。
直也が私の事ずっと大事にしてくれてる事分かってるもん。
悠太と離れ離れになってからもずっと一緒に居てくれたんだから。
だから一度私とそんな約束をしたら何だかんだ嫌でも守ってくれると思う。」
「ふーん二人の事信頼しとるんやな。」
「それに悠太はお利口さんだから!
上手くいったら後でビーフジャーキーをあげるんだ!」
「同じ幼なじみなのに扱いが違いすぎる!?」
更にその頃。
「ウチは智兄と悠兄のカプがイチオシだから今回のメンバー決めはちょっと残念なんだよね…。
秋悠も捨て難いけどやっぱり智悠…いや悠智…。」
「いやでもあれじゃね?
実は今までのは好きの裏返しだったとかで三澄から責められんの待ってるとかだと最高じゃね?」
「何それ最高!ツンデレドM至高!
じゃあ今頃…」
鼻血を垂らしながら大興奮の美紀。
「あぁ、こうしてる間ももう一線をこえつつある…いやもう越えてるかも?」
「ぶふぉっ!」
と、あながち間違いではない…?のかもしれない腐女子二人組の猥談が繰り広げられていた事を俺は知らない…。
と言うか知りたくもない…。




