リオとリタ
一方その頃。
私、リオはなんとか追試を終えて帰る所だった。
帰りがけに悠太さんに合宿に誘われた。
既に大人数の参加が決まってるらしい。
合宿かぁ……。
どんな感じなんだろう……。
メンバーからしてきっと楽しい合宿になるだろう。
と言うか……悠太さんとも一緒に一日過ごすんだよね……。
いやいや……だからなんだって言うんですか……。
「随分楽しそうだね、リオちん。」
と、不意に声をかけられ……私はその声とその主を見て一瞬固まってしまう。
「やっほーリオちん。」
「り、リタ!」
まさかまさかの会合。
「あ、あなた一体!?」
唐突過ぎて言葉も上手く発せないでいる私を見て、リタはニヤニヤと笑う。
「そんな警戒しなくて良いじゃん?
せっかく久しぶりに会えたんだし?」
「いや、でも……あなた!」
「そうだよ!困ってる彼女の為に献身的なフォローをしてあげてるの。」
そう言ってリタは相変わらずニヤニヤと笑うが、私は知ってる。
「あなたはただそれだけで何かをする様な天使じゃないでしょ……!?」
昔から彼女はそうだった。
「一人?良かったら仲良くしない?」
天使学校で馴染めずに一人でいた私に、初めてそう声を掛けてくれたのがリタだ。
でもそれは優しさからじゃない。
「じゃ、リオちん、あと宜しく〜。」
そう言ってリタは掃除当番から忘れた宿題の手伝いまで私を随分とこき使った。
「えー?だって友達は助け合う物じゃん?」
「合ってないんですよ!」
「えー、なんで?飴あげたじゃん。」
「いや掃除当番のお礼が飴一個って!」
「リオちんってば天使なのに強欲ー。」
「そう言う問題ですか!
それよりあなた一体何を企んでるんですか!?」
「疑り深いなぁ。
だから困ってる彼女をサポートする純粋な優しさだってば。」
「だからあなたはそれだけで……。」
「じゃあ聞くけど、リオちんは何の為に彼のサポートをしているの?」
「っ……それは見習いとは言え天使として彼をほうっておけないからで……。」
「ほんとにそれだけ?
実際リオちんが彼と関わったのって今回の件に私が関わってるって気付いたからでしょ?
なら今ここで私から全ての事情を聞き出したら彼と関わる理由は無くなるんだよね。」
「それは……その……。」
確かにそうだ。
最初はそうだった。
こんな言い方をしたくはないが、彼をサポートすると言うのは建前で、私だってリタの動向を探る為に彼を利用したと言われれば否定できない。
「それとも……リオちんには彼と関わるそれ以外の理由でもあるのかなぁ?」
「そ、そりゃ……天使なんだから少しぐらい情が湧く事もあるでしょ……。」
「ほんとにそれだけ?」
「……何が言いたいんですか?」
「べっつにー?最近のリオちん。
なんだが、随分彼の事を意識してるような気がするんだけど。
もしかして好きとか?」
「な、な、何を言ってるんですか!?
誰があんな奴!」
「あはは、天使らしからぬ物言いだね。
まぁ、それなら良いんだけどね。
リオちん分かってる?
もし万が一にも天使見習いであるあなたが人間を好きになるような事があれば……。」
「……言われなくても分かってますよ。」
天使と人間とは身体の作りも、考え方も生きる期間だって違う。
だからこそ私の上司である大天使様は、人間との恋愛を良しとしない。
もしそれを破ってしまえば……
「ま、リオちんにその気が無いなら私が彼の事もらっちゃおっかな。
いいおもちゃになりそうだし。」
「そ、それはダメ!」
「……なんで?」
「うっ……。」
リタは不敵に笑いながら思う。
おそらくリオはまだ自分に芽生えつつある感情に気付いているようで気付いていない。
だから今も私にそう聞かれて、どう返せば良いのか分からずにいる。
ふふふ、ほんとに面白い。
「今回の合宿、楽しみだね。」
「あ、あなたも来るつもりなんですか!?」
「そりゃ勿論。
彼女をサポートしなきゃだし?」
「だから彼女って誰の事ですか!?」
「えー、それ言ったら面白くなくない?」
「結局全て話すつもりなんかないんじゃないですか……。」
「まぁね。
でもいずれ分かるよ。
私が話さなくてもいずれ、ね。」
そう言って笑うとリオはビクリと肩を揺らす。
まぁ、もっとも分かった時にはもう後の祭りなんだけどね。
せいぜい今は楽しんどけば良いよ。
どうせ今だけなんだからね。
「じゃ、私は帰るね。
バーイ!」
「あ、ちょっと!」
引き止めようとするも、私の制止も聞かずにリタは姿を消す。
その姿を見送りながら、思う。
「私……彼の事をどう思っているんでしょうか……。」
リタに言われて改めて考える。
実際、確かに私は彼を利用した事になる。
それはこの際認める。
でもあの人だって私を利用したじゃないか。
オマケに私にはリオって言う名前があるのに不名誉なあだ名を付けて呼ぶし……。
でもこないだ珍しく名前で呼んでくれたんだよね……。
最初からそう呼んでくれてたら私だって……。
いや、あの人全然反省してなかった!
やっぱりあの人を好きだなんてありえないですよね!
そう自分に言い聞かせる。
「あ、合宿の準備しなきゃ……。」
思考を振り払うように、意識を別の事に向ける。
楽しみ、だな。
こんな風に思って毎日を過ごしていた日々が、あの頃にはあっただろうか。
なら、私がここにとどまる理由はそんな日々に居心地の良さを感じ始めているから、と言う事になるのだろうか。
きっとそうだ。
それ以外に無い。
期待に胸を膨らませながら、私は帰路を急いだ。




